そろそろネタが尽きるだろうかと思っていたら、南の方から新手のネタが投げ込まれてきた。シンガポールのSTエンジニアリングが、2026年2月初頭開催のシンガポール・エアショーでお披露目した「DrN-600」がそれである。

最大100kgの貨物を機内に収容でき、垂直離着陸にも対応するという。米国のAir Inc.が開発に協力したこの機体には、どのような特徴があるのだろうか。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • DrN-600の機体側面。最大100kgの貨物を搭載でき、垂直離着陸にも対応する(出典:AIR)

    DrN-600の機体側面。最大100kgの貨物を搭載でき、垂直離着陸にも対応する(出典:AIR)

最大100kgの貨物を機内に収納、垂直離着陸も可能

DrN-600の特徴は、その機体規模の大きさと、VTOL(Vertical Take-Off and Landing)が可能という点にあると思える。滑走路が要らなければ、離着陸に使用できる場所の選択肢が広がるし、なんだったら艦上運用も可能であろう。

展示会のディスプレイで示されている数字は、翼幅8m、最大離陸重量600kg、ペイロード100kgというもの。貨物室の容積は1.5立方メートルというから、そこそこ規模がある。実際、当のSTエンジニアリングでは、貨物輸送用のUAVとしては最大級の規模だといっている由。航続距離は70~120kmとされている。

リリースされた写真を見ると、DrN-600は四角に近い幅広の胴体を持ち、前面上部が上にガバッと開いて貨物を出し入れする構造になっている。その後方で胴体を薄く絞り込んでおり、そこから左右に主翼を生やして、尾端は双垂直尾翼。水平尾翼らしき翼面は見当たらない。

ゼロから貨物輸送用UAVとして設計しているからこそ、こういう構造にできるのだろうし、貨物の搭載・卸下はやりやすそうだ。有人機だと機首には操縦席が陣取るので、よほど機体の規模が大きくない限り、機首方向から貨物室にアクセスすることはできない。

しかし、操縦席が要らない無人機なら話は違う。以前に取り上げた、ロッキード・マーティン/シコルスキーのU-Hawkと同じである。

  • DrN-600の機首部分。上部が大きく開き、機内の貨物室にアクセスできる(出典:AIR)

    DrN-600の機首部分。上部が大きく開き、機内の貨物室にアクセスできる(出典:AIR)

二重反転ローターで垂直離着陸、前進飛行の仕組みは?

その胴体から、左右の斜め前方と斜め後方にブームを伸ばして、それぞれの先端に垂直離着陸用の二重反転プロペラを取り付けている。要は大きなクワッドコプターだから、これで垂直離着陸は可能である。

プロペラは電動機で駆動する仕組みで、電源にはリチウムポリマー蓄電池を使用する。ただし、水平面で回転するプロペラだけでは、前進飛行する際の推進力を得る手段がない。

四組の二重反転ローターだけで機体を支えて、かつ推進するのであれば、主翼は要らないはず。いわゆる電動式マルチコプターは、たいていそういう造りになっている。しかしDrN-600では細長い主翼が付いているところからすると、これが揚力を分担する設計だと読める。

そこで報道をいろいろ調べてみると、推力偏向を行うと書かれている。真っ先に想起するのはティルトローター機だが、二重反転プロペラを取り付けた4か所のハブがまるごと回転して向きを変えるのかどうかについては、展示されているモデルを撮影した写真だけではよく分からない。

ただ、ジェット・エンジンではないから、排気ノズルの向きを変えるわけにはいかない。となると、(どの程度の角度範囲で動くのかはともかく)四組ある二重反転プロペラの向きを変える仕組みがある、と考えるのが妥当であろう。

速度に関する情報は公表されていないようだが、おそらく、それほど速くはないだろう。しかし短距離の端末輸送に限定すれば、最大速力をちょっとぐらい速くしても効果は薄い。巡航飛行している時間は限られるのだから。

小型ドローンと有人ヘリの中間を狙うDrN-600

このDrN-600、基本的には民間向けという想定で開発していると報じられた。航続距離はさほど長くなく、あくまで端末輸送を想定したもの。ただし民間に限定するつもりはないようで、軍用も視野に入っているようである。

本連載では以前に、いくつかの貨物輸送用UAVを取り上げているが、その多くは軍用を想定している。民間で商業ベースに乗せるのと比べればコスト面の要求が厳しくないし、任務所要を満たすことや人命の損耗を抑えることが優先されるので、無理からぬ話ではある。

ただ、U-HawkやMQ-72Cは既存の有人ヘリがベースだから機体規模が大きく、その分だけ高コスト。かといって小型のクワッドコプターがベースでは搭載量に制約があるし、貨物は外部搭載にならざるを得ない。

それらの中間に位置する機体規模で、「クワッドコプターよりも大型でペイロードが大きく、しかも貨物は機内に収容可能」「しかし、有人ヘリを無人化した機体と比べると低コスト」という線を狙ったのがDrN-600という話ではないか。

BAEシステムズのクワッドコプター・T-150は、いわゆる空撮用ドローンと同じつもりで見に行くとビックリするぐらい大きい(現物を見たときの感想)。しかしそれでもペイロードは68kgで、DrN-600の100kgと比べると三分の二ぐらいにとどまる。もっと大型のT-650なら、ペイロードは300kgに増えるというが、機体の基本構成が同じなら、貨物を外部搭載する点は同じだろう。

すると、貨物を機内搭載できるDrN-600には、「大事な貨物を保護しながら運べる」利点がある、という見方ができる。企画・開発したSTエンジニアリングとしても、そんな考えがあったのかもしれない。