そもそも「ドローン」という言葉が世間一般に喧伝されるようになった発端は、電動マルチコプターを用いて宅配などの貨物輸送を実施する話が出たことにあった、と記憶している。さすがに大風呂敷を広げすぎたというべきか、個人向けの宅配でマルチコプターを駆使して、それが街中をブンブン飛び回るなんてことにはなっていないが。
そして、軍事分野でも導入に向けた取り組みが進んでいる。英国海軍はクワッドコプターを使った艦艇間の物資輸送を試験し、米空軍では無人滑空機による補給も検討されている。今回は、軍用無人機による貨物輸送の事例と、その特徴を紹介する。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
軍艦間の物資輸送にもドローンを活用能
ただ、コンシューマー向けの宅配用途が現実的でなくても、防衛分野では話が別。先に取り上げたシコルスキーのU-HAWKやエアバス・ヘリコプターズのMQ-72Cのみならず、ずっと前に米海兵隊がアフガニスタンで、カマンK-Maxを無人化した機体で前線向けの物資輸送を試みたこともあった。
その背景には、地上を走る車両輸送隊が襲撃される事態を避けたい、という事情があった。人命の損耗を避けるためなら、その車両輸送隊を無人化する手もあるが、襲撃されて貴重な積荷が届かなくなるという問題は残る。それなら空を飛ぶ方がマシである。
ただ、有人ヘリコプターの無人化となると、相応にペイロードが大きくなる一方で、調達や運用にかかるコストも上がる。そこで、もっと小型の貨物輸送用無人機を使うとか、電動マルチコプターで輸送するとかいう話も出てくる。
わりと古いところでは、ボーイングが2018年に、貨物輸送用電動式クワッドコプター・CAV(Cargo Air Vehicle)の試験用プロトタイプ機をお披露目したことがある。これはH型の「機体」の下面に500lbまでのペイロードを搭載できる設計で、全長15ft(4.57m)、全幅18ft(5.49m)、全高4ft(1.22m)、重量747lb(339kg)となっていた。
近年の事例だと、イギリス海軍がBAEシステムズ傘下、マロイ・エアロノーティクス製のT-150クワッドコプター(以前に誘導ロケット弾の発射試験で名前が出たのと同じ機体)を用いて、2025年9月に、英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」と駆逐艦「ドーントレス」の間で貨物輸送の実証試験を実施した。このときの飛行距離は1マイル。
普通、同じ任務部隊を構成する艦と艦の間で物資を運ぶのであれば、ヘリコプターで吊下空輸するVERTREP(Vertical Replenishment)か、艦と艦の間にワイヤーを張って吊るして移送するハイラインを行うもの。しかしVERTREPは有人ヘリが必要だし、ハイラインは近接して並行航走しなければならないという制約がある。
そこで、小口貨物ならクワッドコプターで運ぶ方が柔軟でよろしい、という発想が出てきたのだろう。近距離なら目視で遠隔操縦しても用が足りるし、実現に際してのハードルは比較的低い。わりと早く、この手の話は各国に普及していくかも知れない。
ドローンで貨物を運ぶ2つの方法能
電動マルチコプターに貨物を搭載する場合、搭載方法は2パターンある。
ひとつは胴体の下に貨物を固定して「抱え込む」形。これなら貨物がブラブラすることがないから安定しているし、操縦の際には機体の離着陸にだけ注力すればいい。冒頭に示したT-150の写真は、この形態。
その代わり、機体の下面に抱え込めるサイズの貨物でないと使えない方法ではある。サイズの制約が原因で、ペイロードをフルに使い切れない場面もあり得よう。
そのためか、ヘリコプターでVERTREPを行うときと同様に、カーゴ・ネットに入れた貨物を吊下して、ブラブラさせながら運ぶ方法を用いる事例もある。これならペイロードが許す範囲で、機体より大きな貨物を運ぶこともできる。
吊下空輸の場合、貨物は機体よりもだいぶ低いところにあるから、降ろすときの操縦は神経を使うところだろう。機体の位置だけでなく貨物の位置も見て、それが適切な場所になるように機体を操らなければならない。風が吹いていれば、吊られた貨物が振られるので、さらに難しくなる。
ちなみに、航走中の艦を対象として無人機で貨物を運ぶ試験は、米海軍航空戦センター・航空機部門(NAWC-AD : Naval Air Warfare Center Aircraft Division)が2023年に実施した事例などがある。
米空軍は無人滑空機による物資補給も試験能
滑走路が要らない利点があるので、無人機による小口の貨物輸送は電動マルチコプターを利用する事例が多い。しかし例外もある。
米空軍は2021年に、サイレント・アローというメーカーに対して、貨物輸送用 UAV・SA-PGB(Silent Arrow Precision Guided Bundle)・15機を発注したことがある。これは使い捨て式無人滑空機のGD-2000がベースになっている。翌年に、そのGD-2000をC-130輸送機から空中投下・発進させて、貨物を目的地に自律的に投下させる試験を実施した。
GD-2000は、貨物を収容する「箱」の上部に翼を取り付けたシンプルな構造。搭載量の違いから、32立方フィート・1,500lbのモデルと、32立方フィート・2,000lbのモデルがあり、滑空距離はいずれも36nm(66.7km)となっている。(1立方メートル=35.315立方フィート)
米空軍向けのSA-PGBはそれと比べるとだいぶ小型で、8.5立方フィート・350lbという搭載能力。小口貨物にフォーカスする考え方が見て取れる。
このほか、動力付きとして航続距離を200nmに延伸した、CLS-200というモデルがあり、18.8立方フィート・500lbの搭載能力がある。これは、C-130H、MC-130J、C-27J、A400Mといった輸送機から空中投下して発進させる運用を想定している。MC-130Jの名前が出てくるところからすると、敵地に潜入した特殊作戦部隊への物資補給を考えている可能性がある。



