ここまで取り上げてきた「無人貨物輸送手段」は、固定翼機だったり回転翼機だったりするが、いずれも「航空機」の範疇に属するものであった。
ところが、それよりもかなり前から、無人で精確に貨物を送り込む手段が存在していた。それが、パラシュートを利用した貨物投下である。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
パラシュートによる貨物投下はなぜ難しい?
ヘリコプター、あるいは電動マルチコプターといった機体で貨物を運ぶことのメリットは、「滑走路が要らない」点にある。固定翼の貨物輸送機は、滑走路があるところにしか荷を降ろせない。
だから、1942年のスターリングラード攻防戦では、ソ連軍に包囲された友軍のところに貨物を送り届けようとしたドイツ軍が、手持ちの輸送機をつぎ込んでは多数が撃ち落とされ、多くの犠牲を出した。そしてスターリングラードに近い飛行場がソ連軍の手に落ちた時点で、空輸は実質的に不可能になった。
もちろん、そこでパラシュート投下を試みはしたが、精確に投下するのが難しい。投下した後は風任せだから、どこに落ちるかは運次第。下手したらソ連軍の占領地域に落ちてしまうし、友軍の支配地域でも開けた場所に落ちたのでは、回収しに行く友軍が危険な目に遭う。
といって低空に舞い降りれば、今度は輸送機がソ連軍の砲火を浴びてしまう。輸送機を低空飛行させて、パラシュートを使わずに貨物を投げ下ろす方法は、イギリス軍がビルマ(現ミャンマー)戦線でやったことがある。
ただし、低空での貨物投下は、輸送機が敵の対空砲火にさらされる危険を伴う。それに、パラシュートを使わずに低空から投げ落とせば精度は向上するだろうが、肝心の貨物が着地の際の衝撃で壊れてしまうリスクがある。
GPSでパラシュートを誘導する「JPADS」とは
第二次世界大戦中の技術水準では、パラシュート投下は「投下した後は風任せ」とするしかなかった。しかし1990年代以降は事情が変わる。GPS(Global Positioning System)を初めとするGNSS(Global Navigation Satellite System)が出現したおかげである。
パラシュートに操縦機構を加えて、ある程度の針路調整を可能にする仕掛けはある。しかしそれは、操縦機構を操る人間がいるから機能できるのであって、貨物だけ投下するときには使えない。しかしGNSSで測位しながら針路を計算して、パラシュートの操縦機構を動かすメカを用意すれば、貨物だけ吊るしたパラシュートを精確に操れる。
それを具体化したのが、米陸軍と米空軍が1993年から共同開発を進めてきた精密空中投下システム「JPADS(Joint Precision Airdrop System)」だ。2006年にはアフガニスタンで初めて実戦使用され、米空軍のC-130輸送機から貨物を投下した。もう20年も前のことである。
JPADSに対応する誘導パラシュートシステムは、エアボーン・システムズなどの企業が開発・提供している。
JPADSのメリットは、重い貨物にも対応しやすいこと。10,000lb(4,540kg)の貨物まで対応できれば、小型の車両ですら投下できる理屈。実際、ポラリス・ディフェンスのMRZRもJPADSで投下できる。これはさすがに、無人機による貨物輸送では実現できない。
このJPADSの出現により、「1999年には、8個の物資が260エーカーの土地に散らばって投下されていたが、今では5エーカーの範囲で収まる」といわれる成果につながった。(1エーカー=4,047平方メートル=63.6m四方)
このJPADSには、ペイロードの違いにより複数のモデルがある。複数のモデルを用意することで、能力の過不足が生じないようにしている。
- DragonFly(別名10K) : ペイロード5,000~10,000lb
- FireFly(別名2K) : ペイロード2,000lb。ラムエア・パラシュート、または内蔵式の翼(parafoil)を用いて速度と方位を制御する。
- 2K-M : FireFlyの改良型で、誘導システムをモジュラー化したMAGU(Modular Autonomous Guidance Unit)に変更して精度を高めた。ペイロードは900~2,200lb
- Screamer 2K : GPS誘導で高速落下した後、別のパラシュートを展張してソフトランディングする
- AGAS : パラシュート・ライザーの長さを調整して傘体を操作する電機式アクチュエータを持つ。陸軍の標準型貨物投下用パラシュートとA-22コンテナを使い、2,200lbの貨物を投下可能
- JPADS-ULW (Ultra Light Weight) : ペイロード200~700lbの軽量モデルで、高度24,500ftから投下可能
最近でもJPADSは進化を続けており、2019年にオーストラリアで試験を実施したモデルはDZ(Drop Zone)の面積所要を縮小。従来なら小さな飛行場ぐらいのDZを用意する必要があったが、このモデルでは道路やクリケット場ぐらいの空き地があれば済むようになった。
精密投下を支える計画立案システム「JPADS-MP」
ただ、GPSを用いて精確に誘導してくれるといっても、動力を持たないパラシュート降下のことだから、どこからどの程度の高度で投下すれば目的地に到達するか、は事前に知っておかなければならない。
それを担当するのが、キネティックの米国子会社・PSI(Planning Systems Inc.)が開発したJPADS-MP(JPADS Mission Planner)。輸送機が飛び立つ前、あるいは飛び立った後の飛行中に、これを用いて投下任務を立案して、「目標地点に着地させるには、どこからどの程度の高度で投下すればよいのか」を割り出しておく。


