サステナビリティは企業において重要なテーマの一つだが、多くの企業において、サステナビリティ運用の実態は、年に1度のスプレッドシートをつなぎ合わせるバックオフィス業務となりつつある。しかし、AIがサステナビリティを、リアルタイムな可視化指標に変える可能性がある。
サステナビリティが進まない4つの課題
サステナビリティの取り組みを阻む主な課題として、次の4つが挙げられる。
(1)データが社内外に分散している
サステナビリティに関連するデータは、事業部門、工場、物流を提供する会社、そして数百(時には数千)のサプライヤーに散らばっている。その中で、データの収集は依然としてスプレッドシート、電子メール、単発のアンケートで行われている。しかも、回答率はまばらで、その後の確認は手作業だ。
その結果、サステナビリティチームはパフォーマンスを向上させることよりも、数字を追いかけることにより多くの時間を費やしてしまう。
(2)データの単位や定義が統一されていない
地域やサプライヤーによって、使用する単位、定義、境界線が異なる。例えば、ある工場で「エネルギー使用量」として数えられるものが、別の工場では含まれない場合がある。そして、同じデータが報告の枠組みごとに異なる形式で再入力される。このように、共通のデータモデルがなければ、企業全体の集計や比較は当て推量となってしまう。
(3)データの信頼性を確保できない
監査要件が厳格化する中、ステークホルダーは、追跡・説明・監査可能である投資家レベルのサステナビリティのデータを求める。しかし、多くのデータは推測されたものだったり、文書化されていなかったりと、信頼性に欠ける。
これにより、取締役会、規制当局、顧客に対してサステナビリティに関する主張を正当化することが難しくなる。
(4)データを意思決定に生かせない
数値に「文脈」が欠けていることがある。例えば、どの製品が変化をもたらしているのか、どのサプライヤーが数値急増の原因なのか、どの規制がリスクにさらされているのか、といった文脈だ。
サステナビリティデータは、調達、サプライチェーン、製品開発、資金配分など、意思決定が実際に下される場所から切り離されたままである。
AIは4つの課題をどう解決するのか
では、AIはこうした課題をどのように解決するのだろうか。AIは単にレポート作成を効率化するだけではない。データ収集から分析までを継続的に実行し、サステナビリティをリアルタイムな意思決定システムへと変える可能性がある。
継続的なデータ収集を実現
AIエージェントは、企業およびサプライヤー全体にわたるデータ収集を統合して管理できる。例えば、カスタマイズされたアンケートの送信、自由記述の回答の解釈、アップロードされた請求書や光熱費の明細、物流文書の読み取りなどだ。欠陥・矛盾している入力項目について自動的に確認を行い、何週間もかかる電子メールのやり取りを数時間に短縮する。
実際の運用例で考えてみよう。東南アジアの工場からアップロードされた電気料金の請求書をシステムが自動的に読み取り、消費量と料金のデータを抽出し、単位を変換して、サステナビリティデータ基盤に直接記録する。手動での入力も、スプレッドシートのすり合わせも、遅れることなく完遂することができる。
データを自動で標準化する
AIモデルは単位、通貨、期間を認識し、共通の基準に変換する。より重要なのは、単一のデータを企業の開示情報、顧客向けアンケート、規制の枠組みといった複数の報告要件に結びつけることである。これにより、組織は一度収集したデータを一貫して再利用できるようになる。
AIがリアルタイム分析を実現する
データの基盤が整えば、AIはその真価を発揮する。それは、人間のチームには到底及ばない規模とスピードでのパターンの認識だ。AIは数千の記録をスキャンし、排出量、水、廃棄物、または社会的リスクの集中する箇所を、場所、製品、サプライヤーごとに特定する。そのデータは、年に1回のスクリーンショットではなく、継続的に進化する全体像として提示される。
AIは単なるレポート作成ツールではない。データを継続的に収集・標準化・分析することで、サステナビリティを年1回の報告業務から日々の経営判断へと変える可能性を秘めている。後編では、実際にAIを導入した企業ではどのような変化が起きているのかを見ていく。

著者プロフィール
和久田典隆(わくだのりたか)
Nagarro株式会社 マネージングディレクター、日本事業本部長
大手日系自動車企業に約20年勤め、その内10年間をインドで過ごす。駐在中に新しい販売チャンネルなどの新規事業開発、デジタルサービスであるスマートモビリティやデジタルファイナンスを立ち上げた。全社のデジタル化推進のために、インド子会社にてデジタル部門を立ち上げ、営業、サービスだけでなく生産、購買や品質のデジタル化を推進。その後、グローバルのデジタル化推進のためにインドにソフトウェア子会社を立ち上げ、自動車クラウドを開発、各国への導入を進めた。現在は、日本にて製造業のデジタル化推進のために製造向けのERPや課題解決のためのコンサル、システム開発、導入を行っている。
