Excelのグラフツールは便利な機能であるが、グラフツールに用意されていないカスタマイズ(書式の変更)は当然ながら行えない。しかし、状況によっては「この部分だけ書式を変更したい……」というケースもあるだろう。そこで今回は、グラフを構成するパーツをバラバラに分解して「図形の集合体」として扱う方法を紹介していこう。

グラフを個別分解できるようにグラデーションを指定する

Excelで作成したグラフは、(ある程度は)自由にカスタマイズできるようになっている。たとえば、「グラフの色を変更する」「文字の書式を変更する」といったカスタマイズであれば特に問題なく行えるはずだ。

とはいえ、もっと細かなカスタマイズを施したい場合もあるだろう。たとえば、縦軸に並ぶ数値(ラベル)の色を1カ所だけ変更する、棒グラフを1本だけ太くする、などがその一例となる。こういった「個別の文字や図形」に対する書式変更には対処できないケースが少なくない。

このような場合に活用できるのが、グラフの各パーツをバラバラにして「図形の集合体」として扱う方法だ。この場合、グラフは「四角形」や「テクストボックス」などの図形の集まりになるため、より自由度の高いカスタマイズが可能になる。今回は、その具体的な手順を解説していこう。

まずは普通にグラフを作成し、表示する要素、文字の書式などをカスタマイズする。

  • グラフツールを使って作成したグラフ

続いて、各グラフの色に「グラデーション」を指定する。具体的には、各系列を右クリックして「塗りつぶし」コマンドで適当なグラデーションを指定すればよい。グラデーションの色や方向は、どれを選択しても構わない。というのも、グラフを図形に分解した後に、もういちど図形の色を指定しなおす必要があるからだ。つまり、ここで指定するグラデーションは一時的な「塗りつぶし」の指定となる。

  • 系列の色にグラデーションを指定

同様の手順を繰り返して、すべての系列にグラデーションを指定する。

  • すべての系列にグラデーションを指定

これでグラフを分解するための準備は完了。なお、「なぜグラデーションを指定するのか?」については、少し複雑なので後ほど詳しく解説する。

グラフを分解して「図形の集合体」に変換

グラフの色をグラデーションに変更できたら、グラフ内の余白をクリックしてグラフ全体を選択し、「Ctrl」+「C」キーでコピーする。

  • グラフ全体のコピー

続いて、適当なセル(貼り付け先のセル)をクリックし、グラフの選択を解除する。この状態で「貼り付け」コマンドの▼をクリックし、「形式を選択して貼り付け」を選択する。

  • 形式を選択して貼り付け

すると、以下の図のようなダイアログが表示される。ここでは「画像(SVG)」を選択して「OK」ボタンをクリックすればよい。

  • SVG形式で貼り付け

選択していたセルに「SVG形式に変換したグラフ」が貼り付けられ、「グラフィックス形式」タブが利用できるようになる。このタブにある「図形に変換」コマンドをクリックする。

  • SVGを図形に変換

以上でグラフを「図形の集合体」に変換する作業は完了となる。これらの図形はグループ化されているため、1回目のクリックで「すべての図形を選択」、2回目のクリックで「各図形を個別に選択」という操作方法なる。ためしに「縦軸の数値部分」をゆっくりと2回クリックしてみると、各数値が個別のテキストボックスで作成されているのを確認できるはずだ。

  • 図形の個別選択

ここまでの作業が済んだら、グラフの色を元の状態に戻しておこう。このとき、「Shift」キーを押しながら「四角形」(棒グラフ)をクリックしていくと、複数の図形をまとめて選択できる。あとは、右クリックメニューの「塗りつぶし」コマンドで好きな色を指定するだけだ。

  • グラフの色(図形の色)を指定しなおす

以上で、グラフを「図形の集合体」に分解する作業は完了となる。

図形化したグラフの編集

続いては、図形化したグラフの編集方法について解説していこう。といっても、これは特に難しいものではない。各パーツは「テキストボックス」や「四角形」などの図形で作成されているため、「通常の図形」と同じ感覚で書式を変更していくことが可能だ。

たとえば「文字の書式」を変更したいときは、その「テキストボックス」を個別に選択し、「ホーム」タブで書式を指定すればよい。

  • 文字色の変更

もちろん、各図形の位置を移動することも可能だ。この操作手順は図形をドラッグするだけ。このように通常のグラフでは実行できない操作も、「図形の集合体」なら問題なく行える。

  • 図形の移動

少し変則的な使い方になるが、図形の形状変更などにも対応している。たとえば、「福岡の棒グラフ」に相当する「四角形」の図形をまとめて選択し、以下の図のように操作すると、図形の形状を「楕円」に変更できる。

  • 図形の変更

  • 「楕円」の形状に変更した図形

このようなカスタマイズができるのも「図形の集合体」ならでは、といえるだろう。

もちろん、グループ化を解除して、各図形を完全にバラバラの状態にすることも可能だ。この場合は「図形の書式」タブを選択し、「グループ化」コマンドから「グループ解除」を選択すればよい。

  • グループ化を解除する操作

これで各図形を「独立した図形」として扱えるようになる。

  • グループ化を解除した図形

ただし、パーツ(図形)の数が多いため、グループ化を解除すると逆に操作しづらくなってしまう恐れがある。可能であれば、グループ化を維持したまま「2回クリック」の操作で各図形を個別に選択して書式指定などを行っていくとよいだろう。

なお、「目盛線」に相当する図形は個々の「直線」ではなく、「パスの集合」で作成されている。このため、グループ化を解除しても「目盛線の書式」を1本ずつ指定することは不可となる。少し不便であるが、念のため覚えておく必要があるだろう。

図形化したグラフの活用例

続いては、「図形の集合体」に分解したグラフの活用例を簡単に紹介していこう。

第49回で紹介したように、「円グラフ」は特定の分類を飛び出させて配置することが可能となっている。ただし、この手法が使えるのは「1つの分類」を飛び出させる場合のみ。2つ以上の分類を飛び出させると、少し変なレイアウトになってしまう。

一方、図形化したグラフの場合は、このような問題にも対処できるようになる。たとえば、「扇形の図形」と「テキストボックス」をまとめて選択して、そのままドラッグして移動させると、以下の図のような「円グラフ」にカスタマイズできる。

  • 2つの分類を分離した円グラフ

同様の手法は「棒グラフ」でも活用できる。第50回では、グラフの基データに「空白行」を挿入することにより、グラフ内に適当なスペースを確保した。ただし、この手法により確保されるスペースは、1項目分、2項目分、……という単位になるため、棒グラフの間隔を自由に調整することはできない。

一方、図形化したグラフの場合は、各図形を自由に移動できるため、間隔調整なども自由自在に行える。

  • 図形をまとめて選択して移動

  • 間隔を調整したグラフ

このように、グラフを図形化すると「カスタマイズの自由度」を圧倒的に高めることが可能となる。

その反面、デメリットも生じる。図形化したグラフは、あくまで「図形の集合体」でしかないため、グラフツールの機能は使えなくなる。データ表で数値を変更しても、それがグラフに反映されることはないし、「軸の書式設定」などを使った書式変更も行えなくなる。こうしたデメリットをなるべく小さくするには、可能な限りグラフツールでカスタマイズしてから、グラフの分解(図形化)を実行する必要がある。

グラフを図形化するときの注意点

最後に、グラフを図形化するときの注意点をいくつか紹介しておこう。本連載の初めに「棒グラフの色をグラデーションにする」という作業を行ったが、この作業を忘れてもグラフを図形化することは可能である。ただし、この場合は、同じ系列の棒グラフが「1つの図形」に変換されてしまうことに注意しなければならない。

失敗例を具体的に紹介しておこう。以下の図は、グラデーションを指定せずにグラフの図形化を実行した例だ。この例において、レンガ色の棒グラフを移動しようとすると、同じ系列の棒グラフが4本とも一緒に移動されてしまう。

  • 同じ系列が「1つの図形」として扱われた場合

これは「福岡の棒グラフ」が「1つの図形」として扱われていることが原因だ。つまり、それぞれの棒グラフを個別に移動するのは不可能となる。

このようなトラブルを回避するには、図形化する前にグラデーションを指定しておき、図形化した後に「元の色に戻す」という手順を踏まなければならない。「塗りつぶし(単色)」のままでは思い通りに分解されない、と覚えておく必要があるだろう。

なお、第48回で紹介したように、「四角形の図形」をコピー&ペーストして「グラフの色」を指定した場合は、「塗りつぶし(図またはテクスチャ)」として色が指定される仕様になっている。このため、事前にグラデーションを指定しておく必要はない。そのままグラフを図形化することが可能だ。

ただし、図形化するグラフが「円グラフ」の場合は不具合が生じる。この場合、変換後の図形が扇形にならず、貼り付け元の「四角形の図形」になってしまう。

  • 円グラフの色を「図形のコピー」で指定した場合

棒グラフの場合は変換後も「四角形の図形」になるため大きな問題にはならないが、円グラフの場合は致命的なトラブルに発展する。このようなトラブルを避けるには、「四角形の図形」のコピー&ペーストではなく、HEX値で色を指定しておく必要がある。重箱の隅をつつくような特殊な状況ではあるが、念のため覚えておくとよいだろう。