このものづくりニュースのまとめ

・伊藤忠テクノソリューションズ「みらい研究所」が成果発表会を開催
・自律AI研究/循環型データ農業/信頼基盤の作り方などの取り組みを展示
・アイデアソンの表彰式では神山まるごと高等専門学校の学生も受賞

ドローンと四足歩行ロボットを連携して農業の省力化や防災に役立てるプロジェクトや、指示される前に先回りして必要な支援を提案したり実行したりするバディAI(自律AI)、仮想空間でもモノに触れているような感触が得られるXR/ハプティクス技術など、未来の技術動向を先読みした研究を行っている伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の「みらい研究所」。

その研究成果を発表・共有する「2025年度 みらい研究所研究成果発表会 MIRAI JAM '25」が、3月16日に開催されました。会場では、コメンテーター・政治評論家の杉村太蔵氏が登壇して基調講演を行なったほか、有識者によるパネルディスカッションやVC(デジタル証明書)をテーマにしたアイデアソンの表彰式なども実施。ここでは、発表内容とともに、その様子をお伝えします。

  • 2025年度 みらい研究所研究成果発表会 MIRAI JAM '25」会場

    2025年度 みらい研究所研究成果発表会 MIRAI JAM '25」会場

有識者が日本の“みらい”を議論

発表会ではまず、みらい研究所長の富士榮尚寛氏が登壇。みらい研究所について「20年、30年先にCTCがどういう市場で何を担っていくのかを考え、ゆくゆくみなさんの役に立てるようなものを創り出すこと」を目的に活動していると説明し、「講演や展示を通して、私たちが取り組んでいるプロジェクトに触れて楽しんでほしい」と挨拶しました。

続いて、コメンテーター・政治評論家の杉村太蔵氏が登壇し、「昔の人が『賢者は愚者に学び、愚者は賢者に学ばず』と言ったそうですが、みなさまは杉村太蔵からも何かしら学んでしまう方だと思います」と笑わせたあと、2026年2月に行われた衆議院選挙で自民党が圧勝したことに言及。それによって自民党が掲げた政権公約が実現される可能性が高くなったことを指摘し、「2月20日に高市総理が公約をベースに国政の基本方針を説明する施政方針演説を行いましたが、これからの日本経済をどうしていくかという大方針になっています。日本の“みらい”を考えるみなさまにも、ぜひ施政方針演説を政権公約とともに目を通していただいて、その視点をご一考いただきたい」と語りました。

さらに、施政方針演説を読むと「かなり危機感を持って食料安全保障に取り組もうとしているのが分かる」と話し、「日本政府は今後、複数年度にわたってフードテックに投資していこうとしていますが、専門家集団のみなさまにもどういうことができるのか考えていただけたら」とコメント。

また「(政府は)官民連携をしながら戦略的に投資をしていくということですが、完全な“官”でも、完全な“民”でもない、ちょうど両者をコーディネートしていくようなプレーヤーが必要になる。そこに(CTCが)活躍できる分野がたくさんあるのではないかと思っています」と期待を寄せました。

  • みらい研究所長の富士榮尚寛氏

    開会挨拶を行なったみらい研究所長の富士榮尚寛氏

  • コメンテーター・政治評論家の杉村太蔵氏

    コメンテーター・政治評論家の杉村太蔵氏

基調講演終了後、富士榮氏・杉村氏のほか、元NTT先端技術総合研究所長の村瀬淳氏、金沢工業大学教授の高橋真木子氏を加えた4名が登壇し、「日本の“みらい”とCTCらしさ」をテーマにパネルディスカッションが行われました。

  • 元NTT先端技術総合研究所長の村瀬淳氏

    元NTT先端技術総合研究所長の村瀬淳氏

  • 金沢工業大学教授の高橋真木子氏

    金沢工業大学教授の高橋真木子氏

ディスカッションでは、基調講演で杉村氏が触れた「官と民のつなぎ役」について、それぞれの立場から現状や課題、可能性などについて議論されたほか、日本の産業技術強化に必要なことや、デジタル化を進めるうえで課題になることなど、多様なテーマについて活発な議論が交わされました。

  • パネルディスカッションの様子

    パネルディスカッションの様子

犬型ロボットやVC、ハプティクスなどに関心が集まる

基調講演やパネルディスカッションが行われた会場には、展示・体験ブースが併設されており、みらい研究所が取り組んできたさまざまな研究成果が発表されていました。

  • 展示・体験ブースの様子

    展示・体験ブースの様子

そのうち「自律AI研究(バディAI)」のブースでは、プロンプトでの指示を必要としない自律AIを作るうえで求められる技術の研究が発表されていました。担当者によると「現在は利用者自身が真偽などを確認して自己責任でChatGPTなどのAIを使っています。しかしAIを現場で運用していくには、ステークホルダー全体で役割分担をしながら改善し、最終的に自律したAIとして使えるような形にしていくのがよいのではないかと考え、そのための設計や提案を行なっています」とのこと。

実際に自律型のAIエージェントを作ってもいるそうですが「それをどのように実験につなげるのかや、まだ誰も知らないことを研究して新しい知見として出していくことなどが大変。でもそれが面白いところでもあります。実際にAIエージェントを作っていくと作り方はもちろんですが、どう使うとうまくアウトプットを引き出せるかという知見や、ソフトウェア開発にAIを活用するような知見も蓄積されていくので、そういったところも会社の中で展開していけたら」と語ってくれました。

  • 「自律AI研究(バディAI)」のブース

    「自律AI研究(バディAI)」のブース

「循環型データ農業」をテーマにしたブースでは、LAL鉄触媒(鉄を使った土壌改良剤)による土壌改良で収量アップと同時に肥料成分の流出を抑えて海洋汚染を防ぎ、循環型農業を実現する取り組みや、ロボットとドローンを連携した空陸協調プラットフォーム「IZUMO(仮称)」による農業の効率化の取り組みなどが紹介されていました。またIZUMOで使われている犬型ロボット(四足歩行ロボット)のデモンストレーションも行われ、来場者の注目を集めていました。

担当者によると、農薬散布や作物の育成状況検査などに活用されるドローンには「広い農場ではバッテリー切れのたびに充電しに戻る必要があり大変」という課題があると言います。そこで「ロボットを発着台とし、検査する地点までドローンを乗せて移動することで延々と広い農場を検査し続け、集積したデータを遠隔地からリアルタイムで管理できる」プラットフォームを目指しているそうです。

現在の犬型ロボットには半自律モードが搭載されており、人間が操作しなくても利用者の動きに合わせて動いたりすることができますが、ゆくゆくは完全な自律型にしていきたいとのこと。「何年後になるか分かりませんが、かなり近いところまできています。自律型が実現して、バディAIのようなものを搭載すればしゃべり相手になるでしょうし、ヒューマノイド型にすれば家事の手伝いをしてくれるでしょう。医療分野などでニーズのある寄り添い型ロボットなども、我々と一緒に作っていけるのではないかと思います。制御する部分は私たち技術者が今まさにやっていることですが、実際にできたときに“何に使いたいか”という部分は私たちもぜひ知りたいところ。それに向けて実装していきたいですね」と語ってくれました。

ちなみに犬型ロボットにはオプションでさまざまな種類のカメラやLiDARなどのセンサーを搭載することが可能。現在は主に農業用途を想定しているそうですが、人が入れないような場所にも入っていけるため、災害時の建物の検査などにも活用が考えられるそうです。

  • 「循環型データ農業」のブース

    「循環型データ農業」のブース

  • 来場者の注目を集めていた犬型ロボット

    来場者の注目を集めていた犬型ロボット

「信頼基盤の作り方」のブースでは、デジタル空間での「トラスト(信頼)」をテーマにした取り組みが紹介されていました。データをやり取りする際は「データが信頼できるか」「データをやり取りする相手を信頼できるか」「相手方に渡した後にデータをきちんと取り扱ってもらえるか」という3要素が大切になります。そのための仕組みのひとつとしてVC(Verifiable Credentials=検証可能な資格情報)があり、たとえばデータに改ざんが加えられた場合にそれを確認したり、どこが発行して誰に渡そうとしているものなのかを確認することが可能。

担当者によると「ただしデータ自体は信頼できるものであっても、成りすましなどで別の人がそのデータを使ってしまうこともあり得ます。それをどうやって確認するかの研究を行なっています」とのこと。今後データの取り扱いは増えることはあっても減ることはないため、「その信頼性をきちんと担保しておくことが重要になる」と話してくれました。

「VC Knots紡ぐCTCDIW」のブースでは、そのVCを発行者と所有者(ホルダー)、検証者の3者の視点でやり取りできるようなOSS(オープンソースソフトウェア)である「Trust Knots」と、それをCTCのサービスと組み合わせて提供するソリューション「VC/VDCプラットフォーム」の取り組みが紹介されていました。

担当者は「このプラットフォームを利用することで、VCの発行や保管、検証を安全かつ効率的に行うことができます」と説明。実際にデジタル証明書をVCで発行し、それをスマートフォンアプリに読み込んで検証者に提示することで、検証後にドアの鍵が連携して開くデモを見せてくれました。

ちなみにVCの発行・検証プロトコルは標準化されており、「VC/VDCプラットフォーム」も国際標準仕様に準拠したVCを発行できるようになっています。しかし開発の段階ではまだ標準化が進められている段階だったため、その状況を見ながら実装していったそう。またVCのフォーマットにはさまざまな種類があり、どれが適しているのか、また社会的にはどれが広まりそうなのかを考慮して実装に落とし込むのも大変だったとか。

今後は「我々のプラットフォームで発行したVCを他社で受け取ってもらうことができ、逆に他社のVCを我々が受け取れるような、相互で連携してVCを運用できるようなところを目指していきたい」と話してくれました。

  • 「信頼基盤の作り方」のブース

    「信頼基盤の作り方」のブース

  • 「VC Knots紡ぐCTCDIW」のブース

    「VC Knots紡ぐCTCDIW」のブース

このほかにも、会場には好みのキャラクターを選んで自分の表情や身振りに合わせて動かせるVTuber体験や、VR空間で実際にモノに触れているような感覚が得られるハプティクス体験のブースも用意されており、来場者の関心を集めていました。

  • VTuber体験のブース

    VTuber体験のブース(写真提供:伊藤忠テクノソリューションズ)

  • ハプティクス体験の様子

    ハプティクス体験では、VR空間に表示されたオブジェクトに触れた感覚を得られる体験ができた(画像提供:伊藤忠テクノソリューションズ)

神山まるごと高専の学生も受賞したアイデアソン表彰式

CTCでは、オープンイノベーションの推進および新規ビジネス創出に取り組んでおり、そのひとつとしてアイデアソンがあります。今回の発表会では、3月7日に開催された「『信頼』をリデザインする~ゼロから学ぶVerifiable Credentials & アイデアソン~」で高く評価されたアイデアの表彰式も行われました。いずれも従来の技術では難しい課題を、VC(Verifiable Credentials)で解決する斬新なアイデアで、実現すればビジネスシーンでも大きな恩恵がありそうです。

そのうち、最優秀賞を受賞したのは、伊藤忠テクノソリューションズ リテール&サービス事業グループ R&S開発第3部の渡部ひろみさんの「約束のパスポート」です。これは、誰が、いつ、何を発言・合意したかを改ざん不可能な暗号技術で証明するプラットフォームで、日常でありがちな「言った」「言わない」を解消することが目的。たとえば会議中に合意事項が出てきたらAIが内容をリアルタイムで要約し、参加者が内容を確認してOKをタップすると、プライバシーなどに配慮しながら誰が何に同意したかという合意証明書が自動で生成されます。これによって、軽い口約束から正式な契約まであらゆる合意を改竄できない形で記録することが可能になるそうです。

優秀賞2位には、CTCエスピー ソリューション推進開発本部 ビジネス企画推進部 ビジネス企画推進課 エグゼクティブの須藤崇さんの「相続もワンストップでOK!デジタル資産目録VC」が選ばれました。これはVCに遺産相続に関わる情報を組み入れて死後家族に開示されるというもの。

  • 最優秀賞を受賞した渡部ひろみさん

    最優秀賞を受賞した渡部ひろみさん(右)

  • 優秀賞を受賞した須藤崇さん

    優秀賞を受賞した須藤崇さん

また、優秀賞3位には、VCを利用して専門家であることを証明し匿名のまま人々の質問に答えられるような仕組みを考えた、慶應義塾大学環境情報学部2年の橋爪浄太朗さんの「教えて!匿名専門家」が選ばれました。

最後にオーディエンス賞として、神山まるごと高等専門学校デザイン・エンジニアリング学科2年の伊藤凛美さんの「Animal VC」が選出されました。同校は、CTCが次世代育成の推進を目的にスカラーシップパートナーとして参画している高等専門学校です。

伊藤さんの「Animal VC」は、VCを使って動物の名前や性別、飼育員さんからの耳寄り情報などを提示できる仕組み。伊藤さんによるとペンギンが好きでよく水族館に行くものの「どのペンギンが何という名前で、どんな種類なのかまったく知識がなくて寂しいと思ったのが思いついたきっかけ」とのこと。受賞した伊藤さんは「名前や種類のほか、健康状態を管理して一部の情報を獣医さんなどに見てもらえるなどすれば、研究や健康管理などにも役立つのではないかと発表させていただきました。今回オーディエンス賞に選んでいただき、みなさんにペンギンが好きなことが伝わったのかなと思っています」と受賞した感想を語りました。

  • 優秀賞を受賞した橋爪浄太朗さん

    優秀賞を受賞した橋爪浄太朗さん

  • オーディエンス賞を受賞した神山まるごと高等専門学校の伊藤凛美さん

    オーディエンス賞を受賞した神山まるごと高等専門学校デザイン・エンジニアリング学科2年の伊藤凛美さん

  • 表彰式の様子

    受賞者のみなさん