Wordは、ビジネスシーンだけでなく、学生がレポートや論文を作成する際にもよく利用されているアプリケーションのひとつである。にもかかわらず、「Wordは使いづらくて、あまり好きになれない・・・」と感じている人が多いようだ。そこで、本連載ではWordと上手に付き合うための考え方やテクニックを紹介していこう。

なお、本連載は2011年から2012年にかけて掲載した「Wordはなぜ思い通りにならないのか?」をリニューアルしたものです。

Wordが得意とする文書

Wordは文書を作成するためのアプリケーションである。ビジネス文書をはじめ、論文やレポート、チラシ・ポスターといった掲示物、はては年賀状の作成など、幅広い用途にWordが活用されている。

確かに、こういった文書をWordで作成することは可能である。しかし、「あらゆる場面で便利に使えるアプリケーションか?」と聞かれると、少し答えに窮してしまう。というのも、Wordは「ワードプロセッサー」として発展を遂げてきたアプリケーションとなるからだ。

皆さんもご存じのように、Wordで文書を編集するときは、ページの左上から右下へ向かって、Zの形状に文書を編集していくのが基本となる。

  • Wordに文章を入力した様子

ノートやレポート用紙のように、好きな位置から自由に文字を書き始められる訳ではない。「右揃え」の書式を指定して、ページの右端に文字を配置することは可能であるが、基本的には「ページの左上から右下へ向かって・・・」という思想になっている。

さらに、行間が固定値であることもWordの特徴のひとつといえる。文字サイズを変更しても、行間は基本的に変化しない。文字サイズが大きくなり、「1行の高さ」に収まらなくなった時点で初めて、2行分、3行分の行間が確保される仕組みになっている。

  • 文字サイズと行間の関係

つまり、「1行」を基本単位とし、その倍数(2行、3行、…)で「行間」が確保されていくことになる。もちろん、行間を自分で指定することも可能なので、これはあくまで「Wordの基本的な考え方」についての話である。

こういった制約の下でも特に問題なく作成できる文書は、論文やレポートなどになると思われる。文字情報が中心のビジネス文書も「Wordが得意とする分野」に含まれるといえるだろう。

Wordで作成可能な文書

その一方で、イベント案内や告知などの掲示物を作成したり、雑誌やパンフレットのようなフリーレイアウトの文書を作成したりする場合にWordが利用されるケースもある。ビジネスシーンにおいては、見栄えのよい企画書を作成する場合などが、こちらのカテゴリに分類されるだろう。

こういった文書をWordで作成することは十分に可能であるが、そのためには「Wordの使い方」を熟知しておく必要がある。たとえば、好きな位置に文字を配置するには、テキストボックスを利用しなければならないし、「見出し」を飾ったり、コラム(囲み記事)をデザインしたりするには、図形などの書式設定について詳しく学んでおく必要がある。

  • テキストボックスを使った文字の配置

なかでも端的な例といえるのが、画像の配置である。文書に画像を挿入すると、その画像は「行内」と呼ばれる配置方法(文字列の折り返し)で配置されるように初期設定されている。

  • 画像を挿入した文書

この場合、文書に挿入した画像は「巨大な文字」のように扱われる仕組みになっている。このため、画像を文書内の好きな位置に移動することはできない。「画像の移動」は「文字の移動」と同じ考え方になるため、画像を移動できる範囲は「文章が入力されている範囲」に限定されることになる。

  • 文章の途中に移動した画像

  • 文章の途中に「巨大な文字」がある場合

この仕組みは、HTMLでWebページを作成する場合とよく似ている。HTMLに詳しい人は、img要素を使って文中に画像を配置するケースを思い浮かべてみると、その仕組みを理解しやすいだろう。

好きな位置に画像を配置したいときは、「行内」以外の配置方法を指定し、画像をフロート状態にする必要がある。つまり、「文章」と「画像」を切り分けた状態にしなければならない。こういった仕組みをよく理解していないと、「画像を好きな場所に配置できない・・・」という問題をクリアできなくなる。

このようなWordの仕様を考慮すると、フリーレイアウトで作成する文書は「Wordが少し苦手とする分野」になると考えられる。フリーレイアウトの文書を作成できない訳ではないが、そのためには、それ相応のスキルを身につけなければならない。Wordに不慣れな人が挑戦しようとすると、いつまでたっても「思い通りの結果を得られない・・・」という状況に陥ってしまうだろう。

Wordの基本的な考え方は「ホーム」タブにも反映されている

Wordで文書を編集するときは、「タブの選択」→「リボンからコマンドを選択」という手順で各種操作を進めていく。この部分にもWordの思想や特徴を垣間見ることができる。

Wordで最もよく使用するタブは「ホーム」タブである。ここには「文字の書式」、「段落の書式」、「スタイル」、「検索・置換」といったコマンドが並んでいる。つまり、これらがWordの基本的な機能になると考えられる。

  • Wordの「ホーム」タブ

 ・フォント、文字サイズ、文字色、文字飾りなどの指定(文字の書式)
 ・行揃え、箇条書き、行間、インデントなどの指定(段落の書式)
 ・「文字の書式」や「段落の書式」の一括指定(スタイル)
 ・検索機能や置換機能などの利用

こういった機能が「ホーム」タブで実行できる操作となる。これらのコマンドだけを使って文書を作成するのであれば、初心者でもさほど苦労することなく編集作業を進められるだろう。

ただし、「行間」の指定については限定的といえる。行間を「1.5行分」や「2行分」などに変更する項目はリボンにも用意されているが、行間を数値で自由に指定するには「段落」ダイアログボックスを呼び出さなければならない。つまり、リボンだけで操作を完結できない訳である。

  • 行間を指定するコマンド

先ほども述べたように、Wordで文書を作成するときは「行間を固定値」として考えるのが基本である。行間を常に固定したまま文書を作成していくのが一般的な使い方であり、行間の変更は頻繁に行う操作ではない、というのがWordの基本思想なのかもしれない。「ホーム」タブのユーザーインターフェースも、これを反映した設計になっていると思われる。

ほかにも、いちいちダイアログボックスを呼び出さないと指定できない書式は沢山ある。たとえば、文字と文字の間隔を調整したり、文字の位置を上下に移動したりするには「フォント」ダイアログボックスを呼び出さなければならない。

  • 「フォント」ダイアログボックスの「詳細設定」タブ

フリーレイアウトで紙面を作成するときは、「行間」や「文字の間隔」なども重要な書式指定の一つとなる。このために「Wordは使いづらい・・・」と感じることも少なくない。さらに、(ダイアログボックス内にある)プレビューが小さくて見づらいため、何回も書式指定をやり直さないと思い通りの結果を得られないことも、ダイアログボックスを使った書式指定の弱点といえる。

Wordの長所と短所を知ることが大切

このように、Wordは「手軽に使える機能」と「少し使い勝手の悪い機能」が混在したアプリケーションとなる。指定できる「書式の種類」は豊富に用意されているが、それぞれの使い勝手に差があるため、用途によっては「使いづらい」もしくは「指定方法がわからない」という人が出てくるのであろう。

特にフリーレイアウトで文書を作成したり、見出しを飾ったりする場合は、「Wordは使いづらい」と感じることが多いかもしれない。その一方で、「アウトライン」や「ナビゲーション ウィンドウ」のように、何十ページにも及ぶ長い文書の作成に重宝する、便利な機能も数多く用意されている。

Wordと上手に付き合うには、こういったWordの長所と短所をよく見極めて、長所を活かした使い方をしなければならない。そのためには、「それぞれの機能がどのように動作しているのか?」、また「どのような手順で設定するのか?」を学んでおく必要がある。そこで次回からは、Wordの各機能の使い方と考え方について詳しく紹介していこう。