Excelには「ドーナツ」と呼ばれるグラフも用意されている。「円グラフ」によく似たグラフであるが、「ドーナツ」グラフならではの利点もある。そのデザインを含めて、「ドーナツ」グラフの使い方を紹介していこう。また、二択の結果を示す際に覚えておきたい「フレーミング効果」についても簡単に紹介しておこう。

「ドーナツ」グラフの作成と書式設定

「円グラフ」によく似たグラフとして、「ドーナツ」と呼ばれるグラフも用意されている。今回も前回と同じく、「賛成」と「反対」の二択アンケートの結果を例に操作手順を解説していこう。まずは「ドーナツ」グラフの作成手順を紹介する。

「ドーナツ」グラフも「円グラフ」と同じ手順で作成できる。具体的には、グラフ化するセル範囲を選択し、「円またはドーナツ グラフの挿入」から「ドーナツ」のグラフを選択すればよい。

  • 「ドーナツ」グラフの作成

すると、真ん中に大きな穴のあいた円グラフが作成される。これが「ドーナツ」と呼ばれるグラフだ。

  • 自動作成された「ドーナツ」グラフ

「ドーナツ」グラフのカスタマイズ手順は、基本的に「円グラフ」と同じ。要素の表示/非表示、色の変更などの書式変更は問題なく行えるはずだ。

  • 「ドーナツ」グラフの書式変更

「円グラフ」と異なる点は、「ドーナツの穴の大きさ」を変更する書式が用意されていること。この書式を変更するときは「ドーナツ」の部分を右クリックし、「データ系列の書式設定」を呼び出す。

  • 「データ系列の書式設定」の呼び出し

すると、以下の図のような設定画面が表示される。ここで「ドーナツの穴の大きさ」の数値を変更すると、それに応じて「穴の大きさ」(ドーナツの幅)が変化する仕組みになっている。

  • 「ドーナツの穴の大きさ」の変更

たとえば、「ドーナツの穴の大きさ」に55%を指定すると、下図のように「ドーナツの幅」を太くしたグラフにカスタマイズできる。

  • 穴の大きさを調整した「ドーナツ」グラフ

「ドーナツ」グラフをデザインする

前回の連載と同様に、「ドーナツ」グラフをアイキャッチとしてデザインする方法も紹介しておこう。「ドーナツ」グラフの特徴は、中心に円形の空間があること。この空間を活かすようにデザインするのがポイントだ。

文字を自由に配置してデザインするときは「テキストボックス」を活用する。このとき、グラフを選択した状態で「テキストボックス」を描画すると、「グラフ」と「テキストボックス」がリンクされるようになる。

  • 「テキストボックス」の挿入

あとは、「テキストボックス」に文字を入力して、文字の書式を整えていくだけ。数値が目立つように、大胆にデザインしていくとよいだろう。

  • 「テキストボックス」の文字に書式を指定

同様の手順で「テキストボックス」を配置していくと、以下の図のようなデザインの「ドーナツ」グラフを作成できる。インパクトのある、目を引きやすいグラフデザインとして、覚えておくと役に立つはずだ。

  • 文字を配置した「ドーナツ」グラフ

基本的な操作手順は前回の連載で紹介した内容と同じなので、よく分からない方は、先に前回の連載を一読しておくとよいだろう。

「図形の効果」を活用したデザイン

今回は「図形の効果」を使ったグラフの加工についても触れておこう。この機能を使うと、「影」や「ぼかし」、「面取り」(立体化)などの装飾を手軽に追加できるようになる。

ただし、「ドーナツ」の部分を普通に選択して「図形の効果」を適用すると、以下の図ように「ドーナツ全体」に効果が加えられてしまう。また、「図形の効果」コマンドは細かな数値の調整ができないことも欠点といえる。

  • 「図形の効果」を適用した例

そこで、設定画面を使って「図形の効果」を指定する方法も覚えておくとよい。まずは、対象となる図形を選択する。「ドーナツ」の部分を「ゆっくりと2回クリック」すると、その図形だけを個別に選択することができる。続いて、図形を右クリックし、「データ要素の書式設定」を選択する。

  • 「データ要素の書式設定」の呼び出し

「データ要素の書式設定」が表示されるので、「効果」のアイコンをクリックする。すると、影/光彩/ぼかし/3-D書式といった効果を数値で細かく指定できるようになる。

今回は、「反対」の図形に「ぼかし」の効果を加えてみよう。ぼかす大きさは「サイズ」の数値を調整することで自由に変更できる。

  • 「ぼかし」の効果を指定

このような加工を施すと「反対のドーナツ図形」がぼやけて表示されるようになり、「賛成のドーナツ図形」をより目立たせることが可能となる。

  • 「ぼかし」の効果を加えた「ドーナツ」グラフ

さらに、同様の手順で「賛成のドーナツ図形」に「影」を加えると、以下の図のような「ドーナツ」グラフに加工できる。

  • 「影」の効果を加えた「ドーナツ」グラフ

なお、「円グラフ」や「ドーナツ」グラフは、各図形の周囲に「白い枠線」が描画されるように初期設定されている。この枠線が不要な場合は、ドーナツ(または円)の部分を右クリックして、「枠線」コマンドから「枠線なし」を選択しておくとよい。

  • 「枠線なし」の指定

すると、以下の図のように「枠線のないグラフ」に仕上げられる。「ぼかし」や「影」の効果を使うときのワンポイント・テクニックとして覚えておこう。

  • デザインを施した「ドーナツ」グラフ

これで「ドーナツ」グラフのデザインは完了。よく見かけるグラフであるが、その作成方法を知らない人は意外と多いようだ。時間に余裕があるときに、実際に自分の手を動かしながら試してみるとよいだろう。グラフ作成のバリエーションが増えるはずだ。

グラフのデザインとフレーミング効果

二択の結果をグラフ化するときは、「フレーミング効果」についても意識しておく必要がある。続いては、前回の連載で紹介した「円グラフ」を使って話を進めていこう。

前回の連載では「賛成」の数値データを強調して、以下の図のような「円グラフ」を作成した。

  • 「賛成」を強調した円グラフ

このグラフを見ると、「テレワークの継続に賛成している人が過半数を超えており、大多数を占めている」という印象を抱く方が多いだろう。よって、「テレワークを継続する方向で・・・」という意識が働きやすくなる。

一方、同じアンケート結果を、「反対」の数値データを強調してグラフ化すると、以下の図のようになる。

  • 「反対」を強調した円グラフ

このような形でグラフを示されると、「テレワークの継続に反対している人が、ある程度の割合で存在する」という印象を受けやすくなる。その結果、「テレワークの継続は慎重に検討しないと・・・」という意識が働きやすくなる。

どちらも同じアンケート結果を示したグラフなのに、その伝え方次第で「受け手の印象」は大きく変わってしまうのだ。これは「ドーナツ」グラフの場合も同様である。

  • 「ドーナツ」グラフの場合

「左の図」のようにグラフをデザインするのか、それとも「右の図」ようにグラフをデザインするのか、それに応じて「グラフが与える印象」は大きく変化する。

これは心理学の分野で「フレーミング効果」と呼ばれている現象で、何を強調するかに応じて「受け手の印象」が大きく変化することを示している。もちろん、その後の意思決定や行動にも大きな影響を及ぼす。

「フレーミング効果」の分かりやすい例として、手術の話が用いられる場合もある。

たとえば、医師が患者に「手術が成功する確率は90%です」と伝えると、患者は「ほぼ成功するのだから、前向きに手術を検討してみよう・・・」というポジティブな感情になりやすい。

一方、「手術が失敗する確率は10%です」と伝えると、「10回に1回も失敗するなんて少し怖いな、慎重に考えないと・・・」というネガティブな感情になりやすい。

どちらも同じ確率を示しているのに、その伝え方次第で「受け手の印象」は大きく変化してしまう。これは、グラフの作成においても同様のことが言える。

普通にExcelの機能を使ってグラフを作成しただけでは、「何を伝えたいか」は明確にならない。正しく伝えるには「グラフのデザイン」を工夫する必要がある。

グラフのデザインは「見た目を良くすること」だけを目的としたものではく、むしろ「何を伝えたいか」を明確にするためにデザインする、と考えるのが基本だ。このように考えると、デザインの重要性をより強く実感できるはずだ。

グラフをデザインするときは、「Excelのグラフ機能を使って見やすいグラフに仕上げました」で満足するのではなく、図形やテキストボックスの活用も視野に入れておくべきだ。そうすることで、より伝わりやすいグラフに改善できる。なんでもかんでも「テキストボックス」にする必要はないが、用途によっては多少の手間が大きな意味を持つ場合もある。ぜひ、覚えておこう。