神奈川県 相模原市にある広瀬病院では、2025年3月から音声AIツールを活用している。毎日1時間ほどかかっていた病棟看護師の記録業務の効率化が課題となっていた同院では、全職員にスマホを支給していたことから、スマホで使用できる音声AIツールを導入して課題解決を図った。
しかし、看護部でのAI導入は一筋縄ではいかなかった。看護師の多くがスマホでのタイピングに慣れており、ボイスメモの活用には抵抗感があったという。そこで、活用を無理強いするのではなく、いつでも使える状態にして個人の判断に任せることにした。
音声AI活用で看護師の残業時間がほぼゼロに
看護師がナースステーションでIC(病状説明)を実施する際に、ナースコールが鳴ったり患者家族から声をかけられたりと、作業を中断する場合も多い。その場ですぐに記録をまとめられずに、すべての業務が終わった後に記録をするのが日常茶飯事だった。看護師の残業が常態化しており、その解消が課題となっていた。
そこで、音声AIツールで記録を残すことで、記憶に頼らずに文字化できるようになり、その作業にかかる時間を短縮できた。それだけでなく、病室(ベッドサイド)で患者の看護に使える時間が増えたという。
看護部3階病棟看護師長の長田美智氏は、「記録を早い段階で部内に共有できるようになり、患者や家族の思いを汲み取った上での声掛けがしやすくなった」と話す。特に療養病床では、従来は30分程度あった残業時間がほぼ無くなったという。
外来診療では対応患者数が10人増加
広瀬病院で音声AIツールの活用が最も進んでいるのが、外来診療だ。特に内科では全ての診察でAI活用を進めており、廣瀬理事長も日々の診療で使っているほどだ。
AI導入によって作業効率は15~20%ほど向上し、同じ時間枠で診察できる患者数が10人ほど増えたという。特に生活習慣病の指導記録など、義務化されている記録が自動化され、診療そのものに集中できるようになった。
AIツールの選定は「現場が納得するまでじっくり」
音声AIツールの導入を検討する際、現場からは他製品を導入したいという声が挙がっていた。そこで廣瀬理事長は、両ツールを試験的に導入したという。ツールを自由に体験し比較できる環境を整え、全職員が「まずは使ってみる」ことを最優先に。
同氏は無理に使わせることはせず、検証にじっくり時間をかけた。音声AIツールの活用が進むにつれて、電子カルテに詳細な記録が素早く残せていることが次第に職員間で共有されていった。
廣瀬理事長は「AIはこんなにすごいのだ、ということを多くの職員が体験し、利便性に気付くタイミングを待った」と振り返る。今後は、看護部での活用頻度の向上を目指すという。さらに、眼科や整形外科のように会話ではなく視覚的な所見が重要となる診療科での活用方法も模索する方針だ。
音声AIツールはいまや単なる時短ツールにとどまらず、医療の質を担保し、職員の心身の余裕を生み出すための心強いパートナーとなりつつある。病院全体を巻き込んだ組織横断的なプロジェクトが、ツールをうまく活用するカギとなるだろう。
※記事中の取材対象者の役職・肩書は、今年2月の取材当時のもの

