NVIDIAは、欧州の製造業やエンジニアリング企業が「NVIDIA CUDA-X」、NVIDIA Omniverseライブラリ、オープンモデルの「NVIDIA Cosmos」や「NVIDIA Nemotron」を設計から製造までのライフサイクルに導入していることを明らかにした。

2026年10月21日の発表において中心だったNVIDIA Factory Operations Blueprint(FOX)は、工場内のAIエージェントを構築・展開するための参照設計となる。機械をまたいで作業を調整する常時稼働型の工場管理エージェントと、外観検査、根本原因分析、報告書生成、設備群の管理など、個別の業務を担う専門エージェントの構築を想定している。SiemensはFOXを活用し、推定20%のコスト削減を見込んでいるという。
FOXで工場の映像や機械ログを横断的に分析
多くの製造現場では、設備から得られる映像、機械ログ、設計データ、製造条件などが複数のシステムに分散している。問題が起きた際には、それぞれの情報を照合して原因を特定し、設備や作業の調整につなげる必要がある。
FOXで構築する産業向けAIエージェントは、NVIDIA CosmosやNemotronのほか、CAD、製品ライフサイクル管理(PLM)、シミュレーションソフトウェア、ITシステム、制御や生産設備を扱うOTシステムなどに接続することが可能だ。
これにより、工場の稼働状況をリアルタイムに監視し、カメラ映像から得た情報と機械ログを関連付けて問題を調査して、対応の調整を行うエージェントを構築するという。Cosmosのインコンテキスト学習を利用すれば、モデルを追加学習するファインチューニングを行わず、例や文書を与えることで特定の工場業務へ適応させられる。
Siemensは推定20%のコスト削減、検査準備時間を40%短縮
Siemensは、FOXを用いて構築したAIエージェントを、同社のエージェント型企業システム「Intelligence Center X」へ統合した。工場内で発生した問題の根本原因の特定や、製造業務の調整に利用し、推定20%のコスト削減を見込んでいる。
また、Siemensの「Process Preparation X」エージェントは、「NVIDIA Cosmos Data Factory」のツールとスキルを使用し、回路基板の検査に用いる欠陥画像を生成する。
独エアランゲンにあるSiemensの電子機器工場では、この手法によって検査工程のキャリブレーション時間を40%削減したとのことだ。生成した欠陥画像を活用することで、実際の不良品を多数収集することなく、検査工程の準備や調整を進められる。
CUDA-Xで設計シミュレーションを高速化
設計分野では、NVIDIA CUDA-Xライブラリでシミュレーションを高速化し、物理的な試作を行う前に多くの設計案を比較できる環境を構築しているという。NVIDIAは併せて、構造応力、流体、電磁界、半導体デバイスなどのシミュレーション計算を高速化する疎行列ソルバーライブラリ「NVIDIA cuDSS」の一般提供を開始した。
Mercedes-Benzは、NVIDIA GPU上で動作するSiemensの数値流体力学ソフトウェア「Simcenter STAR-CCM+」を使用し、自動車の空力設計をシミュレーションした。工場では、NVIDIA Cosmos 3と「Metropolis Video Search and Summarization Blueprint」を用いて、車両検査やフロントガラスの組み立て状態を確認するAIエージェントを構築している。
Cadenceは、自動車向け流体シミュレーションのワークロードをNVIDIA GPU上で評価した。Autodeskは、物理AI向けフレームワーク「NVIDIA PhysicsNeMo」と「NVIDIA Warp」を「NavPack」へ導入し、自動車の性能予測や設計案の検討を支援する。
半導体分野では、imecとInfineonがSynopsysのソフトウェアとNVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティングを活用している。imecのモデルを使用した「S-Litho」のベンチマークでは最大40倍、Infineonが「Sentaurus Device」とNVIDIA CUDAライブラリを組み合わせた次世代パワー半導体の3次元ブレークダウンシミュレーションでは12倍の高速化を実現したという。
このほか、LeonardoはNeural Conceptと連携し、航空機の形状と空力シミュレーション結果をOmniverseライブラリ上で統合している。
Dassault Systèmesは、Nemotronを採用した仮想アシスタントと、CUDA-Xで高速化したシミュレーションソルバーを組み合わせ、自動車部品の設計と仮想試験を支援している。
デジタルツインで工場とロボットを稼働前に検証
NVIDIA OmniverseとIsaacのライブラリは、工場設備やロボットを仮想空間に再現し、実際の生産設備を変更する前の生産工程やロボットの動作を検証するために利用されている。
Audiは、Omniverseライブラリを用いて構築したバッテリー生産のデジタルツインにより、物理設備が完成する前に生産方式を検証した。また、Dassault SystèmesやAgile Robotsと連携し、Omniverseライブラリを使用した仮想ツイン上で、移動型ヒューマノイドロボットや物流工程のシミュレーションと検証を進めている。
Schaefflerは、ロボットの関節を動かすヒューマノイド向けアクチュエータのデジタルツインをNVIDIA Isaacのシミュレーション環境へ統合した。ロボットメーカーなどがアクチュエータの挙動を仮想空間で評価し、物理試験の削減につなげる。
Volkswagen SachsenのTransparent Factoryでは、Wandelbotsが「NOVA」と「Isaac Sim」を用いて組み立て工程をデジタル環境で検証し、実際のロボットへ適用するための準備を進めているという。
Falkorは、OmniverseライブラリとAIエージェントを同社のプラットフォームへ統合した。設計データ、設備の運用情報、3次元形状を組み合わせ、AIエージェントが産業設備を空間的に把握してシミュレーションや推論を行い、プロセス産業やエネルギー産業における検査、保守を支援する。
こうしたデジタルツインの活用は製造工場だけでなく、AIインフラにも広がっている。Schneider ElectricとAVEVAは、Nscale向けにOmniverseライブラリを用いたAIファクトリーのデジタルツインを開発した。設備を物理的に変更する前に、電力、冷却、機器構成を比較できるようにするという。
NVIDIAは、CUDA-Xによる設計シミュレーションの高速化、OmniverseやIsaacによるデジタルツイン、CosmosやNemotronを利用するAIエージェントを組み合わせ、設計、検証、製造、工場運用にまたがる産業向けAIの導入を推進する考えだ。




