KDDIが開催するビジネス向けの大型年次イベント「KDDI SUMMIT 2026」が、10月27日~28日に開催された。盛況のうちに閉幕を迎えた同イベントから、KDDIとローソンが経験したAI実装とアジャイル型組織に関する木村隆氏の講演ついてレポートしたい。
メールの下書きや議事録の作成、文章の要約など、日々の業務はAIによって格段に効率化されている。日進月歩の変化を実感している現場担当者も多いはずだ。そうした中、多くの経営者が抱える思いは次の段階へと移っている。
「業務スピードは確かに速く、楽になった。ところで、AIへの投資は事業成長につながっているのだろうか?」―― KDDI 執行役員の木村氏が会場に投げかけたのは、そんな問いだった。
AI導入企業が直面している事業成長の壁
筆者としても、普段の生成AIの活用には確かな手応えがある。メールの下書きや調査・情報収集などは以前と比べ物にならない。McKinseyの調査でも、「AIで生産性が上がった」と回答した人の割合は80%に上る。
ところが、AIによる個人の業務効率化が進む一方で、事業そのものを成長させ、組織の売上や利益にまでAIの恩恵を転換できている企業は多くない。実際、「事業を変革し、利益創出に至った」とする企業は6%との調査もある。
個人でAIを使うことと、AIを使って事業を変革し利益を創出することの間に、大きなギャップが生まれている状況だ。AIを導入して業務は効率化できたはずなのに業績への影響が可視化できない、といったジレンマが生じている。
「KDDIも同じだった。数年前からAI活用に挑み、個人の業務時間は減っていたのだが、なかなか新規事業の立ち上げや企業の数字として表現できる成果につながらなかった」(木村氏)
個人のAI活用と組織としての成果にはギャップがある。これはAI活用に乗り遅れた企業だけが抱える悩みではなく、むしろAIを積極的に導入している企業ほど直面しやすい問題のようだ。
AI活用を阻む2つの壁、「部分最適」と「組織分断」の正体
なぜ、AIの導入と業務効率化は事業の成長につながらないのだろうか。木村氏はその理由として「部分最適」と「組織分断」の2つを挙げた。ここでは、企画、開発、商用、運用の流れでビジネスが進む様子を例に紹介された。
まず部分最適だが、例えば企画段階や開発段階など、各工程では担当者が自身の業務だけにAIを使っているため、AI活用の結果が組織全体の資産になっていない問題だ。
もう一つの組織分断は、部門間で受け渡される成果物と一緒に背景や判断理由が渡されず、データがつながらない問題。企画書や要件定義書だけを受け渡してしまうと、そこに至るまでの熱量や判断の背景は失われてしまう。
金曜の売れ残りは減らせるか?KDDI×ローソンが挑んだAI実装
KDDIは部分最適と組織分断をどのように乗り越えたのだろうか。木村氏は本社ビル内に入居するオフィスローソンの事例を紹介した。
高輪のKDDI本社オフィス内には、社員向けにオフィスローソンが運営されている。この店舗では、他の曜日と比較して金曜日に約17%来店者が少ないという課題を抱えていたという。
オフィス内のコンビニ店舗に特有の課題として、金曜日に売れなかったおにぎりやお弁当はそのまま廃棄されてしまう。そこでKDDIとローソンは、金曜日の売れ残りを回避するため、AIを活用した改善に着手した。
まずは店舗スタッフと企画担当、開発担当の3つの組織から成るチームを構成。金曜日の夕方にタイムセールを実施した。すると、タイムセールによる来店誘因効果が確認され、他の曜日よりも金曜日の方が来店者が多くなるという結果につながったのだ。
この取り組みの中で、一度でも金曜日のタイムセールを経験した人は、また金曜日に来店してくれるというデータも得られた。異なる組織が同じチームとして施策を打つことで、その結果に関する知見が組織をまたいで蓄積されたことになる。
ただし、タイムセールの価格を店舗スタッフが考えるのは負荷が高く、かといって一律で決めてしまうと値引きの過不足が発生するため、現在はAIを活用した価格最適化、ダイナミックプライシングのようなものの実現に挑戦中。
ここでは、今ある大量のデータをAIに学習させてAIに任せっきりにするのではなく、現場で積み重ねてきた知見や工夫をまずはAIに学ばせていく方針だ。
木村氏は「もちろんAIの結果にも当たりはずれはある。予測と結果がはずれたときに店舗スタッフの知見を改めて学習させ、AIに新しいコンテキストを学ばせていく」と補足した。
最初は金曜日の売れ残りを回避するために始まったこのプロジェクトだが、現在は「商品棚の配置」や「新商品の見せ方」など、他の施策にもつながっているそうだ。
KDDIが見つけた「循環型AI活用」とアジャイル組織の条件とは?
この一連の成果からKDDIが学んだのが、「循環型AI活用」の姿である。
「AIで成果を出すためには、データをバケツリレーのように一方に渡すだけでは不十分。事業構想から企画、開発、現場にいたるまで、AIを軸にした1本の循環で回していかなければならない」と木村氏は解説した。
循環型AI活用に必要なポイントは2つ。それは「構造の変革」と「実行の変革」だ。
構造の変革とは、現場の知見や思いが企画や開発の段階で抜け落ちないよう、サイクルを意識したデータの受け渡しが可能なループ構造とすること。実行の変革とは、最初から大きな変革を狙うのではなく、小さな単位の変革を積み重ねていくことを指す。
実行の変革には、アジャイル型の組織作りが重要だという。アジャイル型組織とは、多様な職種の人材で少人数のチームを編成し、短いスパンで改善を繰り返しながら実行していく組織形態のこと。
では、アジャイル型組織はどのように編成し、誰にどのような権限を委譲すれば良いのか。講演後、木村氏に直接話を聞いた。
「アジャイル型とは短期間のスプリントを回せばいいという話ではない。いろんな組織の多様な知見を持った人材がスクラムを組んで、事業を大事に育てていく必要がある。上から言われるままにアジャイルを進めるのではなく、プロダクトやサービスのオーナーは自分が小さな組織のCEOだと思って、事業を進めてほしい」との返答だった。
そこで気になるのは、誰がプロダクトオーナーを務めるのかだ。
追加の質問をしてみると、「社内の役職やキャリアはあまり関係ないと思う。そのプロダクト・サービスを成長させたいと思っているオーナーにこそチームを率いてほしい。私としては、プロダクト・サービスの採算を考えるというCEOの経験を積みたい人にどんどん任せたい」と回答があった。







