この半導体ニュースのまとめ
・VicorがAI向け電源モジュールの増産に向け、米国にChiP Fab-2とFab-3を整備へ
・ニューハンプシャー州の2拠点で合計約100万平方フィートの生産基盤を計画
・2022年に開設したChiP Fab-1が能力上限に近づく中、Fab-2は約1年で初期設備を展開
Vicorは9月11日(米国時間)、AIシステム向け電源モジュールの供給能力を拡大するため、米ニューハンプシャー州の2カ所に「ChiP Fab-2」と「ChiP Fab-3」を整備する計画を発表した。
同州メリマックでは、66エーカーの工業用地にある延床面積33万4000平方フィートの建物を取得する。また、これとは別に、同州フックセットでも54エーカーの敷地を取得し、2拠点を合わせて約100万平方フィート規模の生産基盤を構築する計画である。
既存のChiP Fab-1は稼働率が生産能力の上限に近づいていることを受けた増産に向けた設備投資で、AIアクセラレータを搭載する高性能コンピューティングシステム向けを中心に、同社独自のChiP(Converter housed in Package)技術を用いた高電力密度電源モジュールの供給能力を拡大する。
2022年に全自動化拠点「ChiP Fab-1」を開設
Vicorは2022年5月、米マサチューセッツ州アンドーバーの本社近隣に、ChiPモジュールの製造拠点となる「ChiP Fab-1」を開設した。
同工場は16エーカーの敷地に、延べ床面積32万平方フィートの生産設備を整備したもので、ChiPの製造に必要な工程を統合した全自動化工場として建設された。
ChiPは一般的な個別電源部品とは異なり、半導体ウェハの製造に類似した工程を用いて、ウェハ状のパネル上に複数の電源モジュールを形成する。
Vicorは、パネルレベルでの製造と自動化を組み合わせることで、製造サイクルタイムの短縮と、生産能力の柔軟な拡張を可能にしたとしている。特許取得済みの製造プロセスを垂直統合した生産拠点で運用することにより、高い電力密度と電力効率を持つ電源モジュールの量産を進めてきた。
ChiP Fab-1は当初、AI、高性能コンピューティング、電気自動車、通信システム、産業機器などに向けた電源モジュール需要への対応を目的に整備された。開設から約4年を経て設備利用率が能力上限に近づいたことから、新たにFab-2とFab-3の整備を進めることとなった。
新たな2拠点はFab-1を上回る規模に
Fab-2とFab-3の建物面積は合計で約100万平方フィートとなる計画で、既存のFab-1の約3倍に相当する。
ただし、取得するすべての建物や用地へ生産設備を一括導入するのではなく、顧客需要に応じて製造設備を段階的に整備するとみられる。
このうちFab-2については、初期設備の展開まで約1年を見込んでいる。既存建物を取得するメリマックの拠点を活用し、Fab-1の設備利用率が上限へ達する前に追加の生産能力を立ち上げる考えだ。
Fab-3を整備するフックセットでは54エーカーの用地を取得するため、将来の需要に応じた工場建設や設備能力の拡張が可能となる。
既存のFab-1を含む複数のChiPファブを米国内に整備することで、単一工場への依存を軽減し、生産設備の停止や物流の混乱などが発生した場合の供給継続性も高める。
AI半導体の大電流化に垂直給電で対応
生成AIの普及に伴い、AIアクセラレータの演算性能と消費電力が増加している。
先端半導体の動作電圧は低い一方、必要な電力が増えるほど供給する電流は大きくなる。電源回路からAI半導体までの距離が長い場合、プリント基板上の配線抵抗やインダクタンスによる電圧降下、電力損失、発熱が大きくなる。
一般的な電源回路では、AI半導体の周囲に多相電圧レギュレータを配置し、基板の水平方向から電力を供給する。供給電流が増えると、必要な電源回路の規模と基板面積が拡大し、AI半導体の周囲に配置するHBMや高速インタフェースとの間で実装面積が競合する可能性もある。
Vicorが知的財産を持つ垂直給電「Vertical Power Delivery(VPD)」は、AI半導体の直下または近接する位置に電源モジュールを配置し、垂直方向から電力を供給するアーキテクチャである。
電源から半導体までの配線距離を短くすることで電力損失を抑え、大電流を効率良く供給することが可能で、AI半導体の周囲に配置する電源部品を減らし、演算チップやHBM、高速通信回路に利用できる基板面積を確保しやすくする効果も期待できる。
Vicorは、従来の多相電圧レギュレータや統合型電圧レギュレータでは対応が難しくなりつつある先端AIシステムに対し、VPDと高電力密度なChiPモジュールを組み合わせた電源システムを提案している。
OEMとハイパースケーラー向け供給能力を拡大
Fab-2とFab-3では、AIサーバや高性能コンピューティングシステムを開発するOEMとハイパースケーラに向けた供給能力の拡大を目指す。
AIインフラの構築では、GPUやカスタムAIアクセラレータだけでなく、HBM、ネットワーク、冷却設備、電源システムなどを含むすべての構成要素を確保する必要がある。
AI半導体の消費電力が増加すれば、サーバやラック内で必要となる電力を高効率に変換し、安定して供給する電源モジュールの重要性も高まる。必要な電源部品を確保できなければ、高性能なAI半導体が供給されても、サーバシステムの生産規模を拡大できない可能性がある。
同社は、全自動化したChiPファブの製造能力を拡張し、OEMやハイパースケーラーが必要とする電源モジュールを米国内から安定して供給できる体制を整えることで、そうした事態が、そうした顧客企業に生じないようにすることを目指す。
自社生産と特許ライセンスを組み合わせて展開
なお、Vicorは、2025年の米国国際貿易委員会(ITC)が発した同社の特許権を侵害するバスコンバータとそれを含むコンピューティングシステムの米国への輸入を禁止する限定的排除命令(LEO)を踏まえ、OEMやハイパースケーラと同社の高電力密度の電源部品や電力供給アーキテクチャに関する特許を中心とする基盤的知的財産に関するライセンス契約を締結している。
今回の増産投資は、そうした一連の流れで発生した知的財産権を侵害する電源システムが関係したコンピューティングシステムの輸入指止め措置を受けたOEMやハイパースケーラに対するFreedom to Operate(FTO:事業遂行の自由)と米国内での調達体制の確保を推進するものとなる。
今回の投資によりVicorは、Fab-2の初期設備を約1年で展開し、その後もFab-3を含めて生産能力を段階的に拡張していくことで、AIアクセラレータの高性能化と大電流化に対応する電源モジュールの供給規模を拡大し、米国内におけるAIハードウェアのサプライチェーン強化につなげていくとしている。
