VAIOは9月10日、ディスプレイを反転できるマルチフリップ機構を搭載した13.3型モバイルPC「VAIO T」と「VAIO T work」を発表した。個人向けがVAIO T、法人向けがVAIO T workとなり、いずれも9月18日10時から順次受注を開始。法人向けモデルは専用サイト「VAIOストアビジネス」で販売する。

独自のマルチフリップ機構を備え、キーボードで作業するノートPCモード、画面で直接操作するタブレットモード、対面する相手への画面を見せられるビューモードという、3つのスタイルを1台で利用できる点が特徴だ。

  • VAIO TとVAIO T work

    VAIO TとVAIO T work

画面が反転、3タイルに変身する「VAIO T/T work」

「マルチフリップ機構」という言葉に覚えがある方も多いだろう。これはソニー時代のVAIO Fitシリーズ(2013年)や、独立後のVAIO Z フリップモデル(2016年)などで採用された独自の画面回転機構で、今回のVAIO Tシリーズで再復活した形だ。

ディスプレイの裏側中央にヒンジを設け、画面の上部を外側に倒すとそのまま回転し、相手側へ画面を見せるビューモード、画面を閉じればタブレット形状となる。9月10日に開催されたVAIO新製品発表会では、なぜマルチフリップ機構を復活させたのか、その理由が語られた。

  • 画面を倒してタブレット形状へ変更させる【GIF】

    画面を倒してタブレット形状へ変更させる【GIF】

  • タブレット形状からノートPC形状へ変更する【GIF】

    タブレット形状からノートPC形状へ変更する【GIF】

発表会では、3スタイルで使えるVAIO Tは仕事における「一連の作業を中断させない」点が大きなメリットだと強調された。

例えば2人で資料を確認する場合、まずタブレットモードで画面を共有し、気になった箇所へタッチ操作で直接マーキング。その後、端末を持ち上げることなくノートPCモードへ戻し、キーボードで要点を追記して資料を送信――「見る、考える、書く、伝える」といった流れが、1台で連続して行える。ディスプレイはタッチ操作に対応し、音声入力と組み合わせた自然なインタフェースで、生成AIやAIエージェントも活用できるとする。

法人モデル「VAIO T work」の主な仕様は、OSがWindows 11 Pro 64ビット、CPUがCore Ultra 7 356H、メモリが32GB、ストレージが第五世代ハイスピードSSD 512GB、ディスプレイが13.3型ワイドWQXGA(2,560×1,600ドット)、通信機能がWi-Fi 7・Bluetooth(WWAN非搭載)など。本体サイズは約312×224.6×14.6~19.6mm、重さは約1.299kgから。

  • 背面に備えた“一本の線”を起点に、ディスプレイが後方へ回転する

    背面に備えた“一本の線”を起点に、ディスプレイが後方へ回転する

  • ノートPCモードでは、一般的なクラムシェルタイプの13.3型PCとなる

    ノートPCモードでは、一般的なクラムシェルタイプの13.3型PCとなる

「マルチフリップ」がAI時代に復活。その理由は

マルチフリップ機構復活に至った要因のひとつには、VAIOの事業構造とブランド戦略の転換がある。

同社はソニーから独立して以降、コンシューマ中心だった事業の軸足を法人市場へ移してきた。VAIO 取締役 執行役員常務 開発本部 本部長の林薫氏によると、FY2015とFY2025を比較すると、法人向けPCの販売台数は約7倍に増加し、販売台数に占める法人向けの構成比も35%から85%へ拡大した。

法人市場は“保守的な傾向”があり、品質や信頼性、細かな使い勝手のよさが求められる一方で、VAIOの魅力でもあった「驚きのある体験」を提供できていないことが課題となっていたという。2025年にノジマグループ傘下となったことで、「失敗を恐れずに挑戦していく」ノジマの文化の後押しを得て、画面が回転するVAIO Tの開発に至ったとした。

VAIO Tは、VAIOがノジマグループとの連携を活かし企画した初のプロダクトでもある。かつてのVAIOのマルチフリップ機構搭載PCは、Windowsのタッチ環境が発展途上で、PCのタッチ操作が現在ほど普及しておらず、結果として後継製品が登場しないまま展開を終えてしまった。

再挑戦を提案したのは、店舗で利用者と接するノジマ側だった。マルチフリップ機構搭載PCはノジマ店頭で高い評価を得ていたため、グループ連携を活かし、現場の声を取り入れて生まれるVAIO新製品として「迷うことなく選んだ」候補の1台となった。

ノジマ M&Cソリューション推進部 情報ソリューショングループの益田巧氏は、過去のマルチフリップ搭載PCについて、店頭で画面を反転させると来店者から「これは面白い」と反応があり、評価も高かったと振り返った。

「(マルチフリップ機構を)体験すると『これは面白い』と満足いただく場面を何度も見てきたので、後継機種が途絶えてしまったことは残念に思っていた。振り返ると、PCのタッチ操作が今ほど普及しておらず、お客様の要望があまりなかったと思う。Windowsの環境も(タッチ操作への対応は)発展途上でだった。今はタッチ操作がごく当たり前で、時代がようやくこの機構に追いついた。だからこそ、もう一度チャレンジしてみたい」(益田氏)と、タッチ操作や音声入力、AIが一般化した現在なら製品として成立できるとの判断が、復活の一因になったとする。

とはいえ、ノジマからの提案を受けたVAIO側には、マルチフリップ機構搭載PCが「大きな手応え得られないまま収束してった」過去から、不安もあった。しかし、ノジマ店頭での反応が伝えられる中で、後継機が途絶えたのは機構そのものに問題があったのではなく、その価値を必要とする顧客へ十分に訴求できていなかった可能性に気づいたという。

  • ノジマ M&Cソリューション推進部 情報ソリューショングループの益田巧氏(左)と、VAIO 取締役 執行役員常務 開発本部 本部長の林薫氏(右)

    ノジマ M&Cソリューション推進部 情報ソリューショングループの益田巧氏(左)と、VAIO 取締役 執行役員常務 開発本部 本部長の林薫氏(右)

開発から店頭提案まで、製販一体で価値を伝える

VAIO Tは商品の完成後に販売方法を考えるのではなく、どのような機構を採用するかという企画の初期段階から、企画製造を担うVAIOと販売現場を担うノジマが意見を交わして開発が進んだ。開発をスタートしてからも両社で定例会を設け、利用者のニーズや製品仕様について意見交換を重ねたそうだ。

VAIOがノジマグループの一員となってから、ノジマ店舗では認定試験に合格した販売員がVAIOの設計思想やこだわりなどを説明する「VAIOマイスター制度」や、VAIOの製品をまとめて展示するショップインショップを展開してきた。顧客が店頭で実機に触れた際の反応を、製品開発へつなげる体制を目指している。

VAIO Tの販売においても、全国のノジマ売り場に実機を展示し、利用者がマルチフリップの動きを体験して購入できるようにする。個人向けモデルはVAIO直営オンラインストアやノジマ店頭で9月18日10時から受注を開始。ノジマ店頭では9月22日から販売し、VAIO直営オンラインストアでの最速お届け日は9月30日となる。

VAIO Tは、これまで同社が培ってきた品質・信頼性を基盤に、新しい顧客体験を提案する「Nextシリーズ」の第1弾となる。今後の「Nextシリーズ」の取り組みについて林氏は「必ずしも既存製品の派生形として作ることは必須ではない」とし、消費者からの需要がある新製品も検討していくとした。