2026年9月17~21日に幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2026」。マウスコンピューターのブースでは、「eスポーツがつなぐ産学連携の可能性 マウスコンピューター×四国大学」と題したトークイベントが開催された。このイベントでは、大学の教育現場で、パソコンやeスポーツがどう活用されているのかの対談が行われた。
登壇したのは、マウスコンピューター 取締役 法人営業本部 本部長の金子覚氏、四国大学 情報教育センター 講師で、同大学のeスポーツ部顧問を務める長瀬大氏、大阪公立大学 スーパーシティ研究センター 客員研究員、四国大学 学際融合研究所特別研究員でAVAD代表取締役の谷山詩温氏の3人だ。
eスポーツイベントから始まった四国大学とマウスの産学連携
マウスコンピューターと四国大学は、2021年10月に包括連携協定を締結しているが、両者の関係は、2017年ごろから始まったという。
金子氏によれば、徳島県内の販売パートナーであるサンシステムエンジニアリングとの協業を通じ、徳島市内の商店街で開催されたeスポーツイベント「闘電街」への出展・協賛を求められたことが、四国大学との関係につながった。
そこから両者は関係を深め、包括連携協定締結の翌年には、四国大学のPC教室にマウスコンピューター製PCやディスプレイを大量導入するとともに、学生が自ら購入して授業などで使用するBYODの推奨PCとして「MousePro」を指定した。さらに、ライブ配信設備を 備えたスタジオで学生のデジタル活動を支える「TAG-RI-BA STUDIO」(タグリバスタジオ)にも、ゲーミングPC「G TUNE」などの機材が提供された。
金子氏は、教育機関と包括連携協定を結んだ理由を、「PCメーカーは一般企業や個人ユーザーであれば、営業や直営店舗などを通じて利用目的や要望を聞く機会が多いですが、教育機関については、聞きたいことや、われわれが試したいことになかなかアプローチしきれませんでした」と説明した。
一方、四国大学ではコンピュータサイエンスやデータサイエンスへの取り組みを進めるとともに、eスポーツを通じたコミュニケーションやデジタルコンテンツの発信など、新たな活動も広げていた。
そして両者の関係は、PCメーカーが機材を提供するだけでなく、大学の現場からニーズや課題を吸い上げ、PC教室の刷新など一緒に教育環境をつくるといった具体的な取り組みへ発展していった。
212台のPC導入、目指したのは「空気のようなインフラ」
四国大学は徳島県にキャンパスを置き、3,000人弱の学生が学ぶ、文系を中心とした私立大学だ。こうした大学でも、いまやPCは一部の専門学科だけが利用する設備ではない。
同大学では、2021年にはPC教室にMousePro 212台を導入。長瀬氏が、その効果を表す言葉として挙げたのが、PCが「空気みたいな感じのインフラ」になったことだ。
以前はHDDを搭載したPCも使われており、授業開始前に学生へPCを起動しておくよう指示したり、トラブルで再起動すると復旧まで時間がかかったりすることがあったという。
「本学は文系の大学ですので、そこまで複雑な処理をさせることはありません。良さも悪さも感じることなく、空気みたいな感じのインフラになってくれたというのが、すごく大きいと思います」と長瀬氏は語った。
PCそのものを意識しなくてよくなったというのは、一見すると地味な変化だ。しかし、教育のデジタル化では重要なポイントだ。PCを起動する、アプリケーションを立ち上げるといった作業で授業が中断されるのではなく、本来学ぶべき内容に時間を使えるからだ。
導入時には別の課題もあった。2021年当時はコロナ禍によるPC需要の増加に加え、半導体をはじめとする部品不足が深刻化していた。そうした状況で200台を超えるPCを納期通りに用意する必要があった。
マウスコンピューターでは販売パートナーとも連携し、出荷時の設定などについても大学側の環境に合わせた対応を行ったという。
PCを売って終わらない、学生を支える定期点検会
産学連携の象徴的な取り組みの一つが「キャンパスPC定期点検会」だ。
BYODが進めば、学生一人ひとりがPCを授業へ持ち込むようになる。しかしPCに不具合が発生した場合、学生自身では、それが故障なのか、設定や操作の問題なのか判断できないこともある。その相談先となりがちなのが教員だ。
本来の授業に加えて、教員が個々のPCトラブルに対応することは負担にもなる。そこでマウスコンピューターは大学内に決まった日時と場所を設け、学生のPCをチェックする定期点検会を実施。バッテリーの状態やハードウェアの不具合などを確認できるようにした。
長瀬氏は、文系大学だからこそ学生へ「一つの模範回答」を示すことも重要だと説明する。PCに詳しい学生なら、自分でGPUなどのスペックを比較して機種を選べる。一方、何を買えばいいのか分からない学生にとって、大学が推奨モデルを提示し、さらにメーカーによるサポートを受けられることは安心材料になる。
PCの選定から導入、運用、保守までを一連の仕組みとして支える。ここにも、単なる機器調達とは異なる産学連携の姿がある。
谷山氏は、「今後も大学では、マウスコンピューターさんといろいろ拡大していくと聞いています。先進的なパソコンを取り入れて機材が整っている大学というのは、AIの時代に一番重要だと思います。ぜひ、推進していただきたいなと思っています」と感想を語った。
「TAG-RI-BA STUDIO」は学生の放送局
四国大学のデジタル化を象徴するもう一つの施設が「TAG-RI-BA STUDIO」だ。
ここにはeスポーツ環境だけでなく、動画の編集や配信などを行うための設備が用意され、マウスコンピューターも「G TUNE」などのPCを提供している。
金子氏がこの施設について強調したのは、単なる「eスポーツ施設」ではないという点だ。
「eスポーツをするだけではなく、それを編集し、配信する。eスポーツだけでなく、地域のニュース、学校のニュースも配信する。これは学生の放送局です」
ゲームをプレイするために高性能PCを設置するだけでなく、ゲームを入り口として映像制作、編集、配信、情報発信へ活動を広げており、学生が主体となってYouTubeチャンネルなどを運営する仕組みもつくられている。
長瀬氏によれば、このスタジオはオープンキャンパスでも高校生からの反応も大きいという。
一般的な大学の教室は、プロジェクターやマイクなど設備面では大きな違いを出しにくい。一方、学生自身が4K映像などを制作・配信できる環境は「プラスアルファの武器」になる。学生の学びを支えるだけでなく、大学そのものの魅力を伝える役割も果たしているわけだ。
eスポーツを地域や福祉へ、キャンパスを越えるデジタル活用
こうした設備は、学生の学内活動だけに使われているわけではない。
四国大学のeスポーツ部は2019年の茨城国体のころから活動を本格化し、長瀬氏によれば、現在は「幽霊部員も含めて100人くらい」が所属し、年間約50件のイベントに関わっている。
その活動範囲も競技大会だけではなく、高齢者を対象とした福祉分野での取り組みや、障害のある人とeスポーツを楽しむ活動にも展開している。スタジオから全国の障害者施設をオンラインでつなぎ、大会を実施したこともあるという。
ここではeスポーツが競技そのものではなく、人と人をつなぐコミュニケーションツールとして機能している。
大学、学生、企業、行政、地域住民などがデジタル技術を介してつながることで、教育活動がキャンパスの外へ広がる。PCやスタジオというハードウェアへの投資が、地域連携や社会活動へとつながっている点も、四国大学の取り組みの特徴といえる。
「eスポーツを学ぶ」のではなく「eスポーツで学ぶ」
四国大学ではさらに、2026年度からAIやデジタル技術を学ぶ「デジタル創生学部」がスタートしている。2027年には「デジタル創生館」とアリーナも完成予定で、マウスコンピューターはそこで使用する端末や機材についても協力しているという。
文系を中心としてきた大学がAIやデジタル技術を取り込み、文理融合型の教育へ踏み出そうとしている。その中でeスポーツは、学生をデジタルの世界へ導く入り口の一つとして位置付けられている。
長瀬氏は、その考え方を象徴する言葉として、「学生には、eスポーツを学びに来るのではなく、eスポーツで学んでほしい」と語った。
ゲームだけを学んで卒業するのではない。ゲームをきっかけとしてPCに触れ、映像を制作し、配信し、プログラミングを学び、人とのコミュニケーションを経験する。その先にはAIやゲーミフィケーション、STEAM教育などへの広がりもある。
谷山氏も、自身のゲーマーとしての経験を、現在はゲーミフィケーションやSTEAM教育へとつなげている。そして同氏は、「ゲームの仕組みを教育に取り入れ、学生のモチベーションや行動変容につなげることは、ゲームと教育を結びつける新しい可能性の一つだ」と指摘した。
マウスコンピューターにとっても、この連携は教育機関へのPC販売だけを意味するものではない。金子氏は、四国大学と連携を強化しながら、そこで得た学びをほかの顧客にも展開していきたいという。
PCメーカーがハードウェアとサポートを提供し、大学が教育と実践の場をつくり、学生がそこで新しい使い方を生み出す。そして、その成果が地域や企業へ還元される。四国大学とマウスコンピューターの関係から見えてくるのは、そんな循環型の産学連携だ。
地域のeスポーツイベントから始まった接点は、PC教室、BYOD、映像配信、地域・福祉活動、AI・デジタル教育へと広がってきた。eスポーツはその中心にありながら、最終的な目的ではない。学生がデジタル技術に触れ、自らの可能性を広げるための「入り口」なのだ。







