宇宙に存在するほぼ全ての銀河の中心には、太陽の数百万倍から約100億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール(SMBH)が存在するとされる。しかし、134〜135億年前の初期宇宙(宇宙誕生から3〜4億年)に存在する初期の銀河の中心にすでにSMBHが確認されており、このような短い期間でどのように大質量のSMBHが形成・成長したのかは解明されていない。
東京大学は新開発の手法を用いて、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が取得した高解像度の赤外線画像を解析。その結果、約125〜128億年前の宇宙で、SMBHが周囲の物質を活発に取り込んで急速に成長しているところとされる天体「リトル・レッド・ドット」(LRD)の近接ペア候補を4組発見し、そのうち2組の分光データ解析から、実際に初期宇宙で近接して存在する「LRDペア」だと確認できたことを8月31日に発表している。
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発見したLRDペア候補天体のJWST赤外線画像。1.5/2.8/4.4µm付近の3種のフィルターで撮影された画像を用いて作成された疑似カラー画像。右下スケールバーは約5,000光年に対応 (Credit: Tanaka et al. 2026, PASJ / COSMOS-Web)(出所:Kavli IPMU Webサイト)
同成果は、東大大学院 理学系研究科の田中匠大学院生、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のジョン・シルバーマン教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
超大質量ブラックホールの成長プロセスを解くカギとなる「LRD」
SMBHの成長プロセスを探るには、可能な限り初期宇宙に存在する天体を調べる必要がある。現在、JWSTにより初期宇宙で多数発見されているのが、非常に小さく赤い色を特徴とする新天体LRDである。
もし初期の小型銀河の中心にある小型SMBH同士が合体を繰り返して大型化したとすれば、初期宇宙ではLRD同士が接近・合体に向かう様子が観測されるはずだ。しかし、従来のLRD探索手法の課題により、これまではほとんど発見されていなかったことから、研究チームは今回、新たなアプローチを試みることにした。
一般的なLRD探索では、天体全体の色に加えて1つの点源に見えるものが選定対象とされる。そのため、非常に近接した2つのLRDは1つの複雑な形状の天体と見なされて、通常のLRDではないとして対象外と判別される可能性があった。
そこで今回の研究では、JWSTによる大規模観測プログラム「COSMOS-Web」の高解像度の赤外線画像に着目し、新開発の手法を用いて、近接して1つの天体に見えるLRDの探索に着手した。
今回の研究成果
新開発の「ピクセルごとの色選択法」は、天体全体の明るさや色だけではなく、画像を構成する個々のピクセル単位で色を解析する手法である。この手法を適用した結果、約125〜128億年前(宇宙誕生から10〜13億年後)の宇宙において、LRDペア候補が4組発見された。いずれのペアも天体間の距離は数千〜数万光年であり、直径約10万光年の天の川銀河と比較しても極めて小スケールであることが判明した。
遠方天体を観測する場合、全てが等距離の天球上に投影されて見えるため、画像上で近接して見えても実際には地球からの奥行き方向の距離が異なり、偶然同じ方向に並んで見えているだけの可能性が残る。そこで、観測領域内のLRDの個数や分布を基に、近接ペアが偶然生じる確率が計算された。その結果、4組全てが偶然の重なりだけで説明することは困難であり、LRDが数千光年スケールで強力に集団を形成しやすい可能性が示された。
さらに、4組のうち2組はJWSTの大規模分光観測プログラム「COSMOS-3D」の観測範囲に含まれており、分光データを解析した結果、構成する2天体の赤方偏移がほぼ一致していることが確認された。これにより、見かけ上の重なりではなく、実際に同じ時代に空間的に近接する真のLRDペアであることが実証された。
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典型的なLRDのJWST赤外線画像。1.5/2.8/4.4µm付近の3種のフィルターで撮影された画像を用いて作成された疑似カラー画像。右下スケールバーは約5,000光年に対応 (Credit: COSMOS-Web / Tanaka)(出所:Kavli IPMU Webサイト)
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天球上でのLRD同士の離角のヒストグラム。ランダムな分布を仮定した場合には、今回発見されたような離角で2つのLRDが見つかる可能性は非常に低い (Credit: Tanaka et al. 2026, PASJ)(出所:Kavli IPMU Webサイト)
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COSMOS-3Dにより取得されたLRDペアのスペクトル。各LRDから同じ波長に輝線が検出され、同じ時代に存在するLRDペアであることを強く示している (Credit: Adapted from Tanaka et al. 2026, PASJ / COSMOS-3D) (出所:Kavli IPMU Webサイト)
今回発見されたLRDペアは、銀河同士が相互作用して合体へ向かう過渡期の姿である可能性がある。銀河の相互作用は、中心部へ大量のガスを流入させ、SMBHへの物質集積を高める主な要因の1つとされる。この結果は、銀河同士の接近や合体が、初期宇宙におけるSMBHの急速成長を駆動している可能性を裏付けるものとなった。今後は、未分光の残り2組の検証を進め、それぞれの天体までの距離をより正確に決定すると同時に、各SMBHの質量、周囲のガスの運動などを調べる必要があるとしている。
なお、各LRD内に成長中のSMBHが存在しているのであれば、LRDの接近に伴ってSMBH同士も接近し、最終的には合体する可能性がある。その際、極めて低周波(ミリヘルツ帯)の重力波が放射されるが、地球の大気・環境振動の影響を受ける地上の重力波望遠鏡では観測できない。しかし、欧州宇宙機関(ESA)が2030年代の打ち上げを予定する宇宙重力波望遠鏡「LISA」であれば、そうしたミリヘルツ帯重力波の直接検出が可能になると期待されている。
また、新開発のピクセルごとの色選択法を広域のJWST観測データへ適用することで、未発見のLRDペアの発見が期待できるという。統計サンプルを拡充し、近接ペアの形成割合を定量化することで、SMBH同士の合体が初期宇宙でのSMBHの成長に及ぼした寄与を検証できることが見込まれるとした。
さらに、こうしたJWSTの光学・分光観測とLISAによる重力波観測を連携させることで、初期宇宙におけるSMBHの形成・成長・合体プロセスを包括的に解明することが期待されるとしている。