琉球大学は、これまで世界で1例(3標本)しか報告がなかったヒメジ科ウミヒゴイ属の希少種「Parupeneus moffitti」が沖縄県・北大東島沖で漁獲され、日本初記録種(4標本目)として報告したことを9月4日に発表。生息海域が太平洋上の孤島の沖合であることにちなみ、標準和名「コトウヒメジ」を提唱している。

  • 北大東島沖で捕獲され、日本初記録となったヒメジ科の希少種「コトウヒメジ」 (出所:琉球大Webサイト)

    北大東島沖で捕獲され、日本初記録となったヒメジ科の希少種「コトウヒメジ」 (出所:琉球大Webサイト)

この研究成果は、琉球大大学院 理工学研究科の篠田将太郎大学院生、同・金子哲平大学院生(研究当時)、琉球大 理学部 海洋自然科学科の小枝圭太助教らの研究チームによるもの。詳細は、日本動物分類学会が刊行する、動物の分類・系統・進化・生物地理などを扱う英文オープンアクセスジャーナル「Species Diversity」に掲載された。

鮮魚市場で見つけた“赤くて珍しい魚”が研究対象に

誕生以来、一度も大陸とつながったことがない島は「海洋島」と呼ばれ、ハワイ諸島や小笠原諸島のほか、大東諸島なども該当する。大東諸島は沖縄県に属するが、沖縄本島から東に直線距離約360km(東京〜京都間に相当)、周囲が水深1000m以上の深海に囲まれている。

また、同諸島では近年、「ホラアナヒスイヤセムツ」や「サイハテユゴイ」、「シマグツ」など、ハワイをはじめとする海洋島にのみ分布する魚類の発見が相次いでいる。さらに、水深100〜300mの「トワイライトゾーン」(弱い光が届く薄暗い水深帯)はダイビングでのアクセスが困難なために研究が進んでおらず、同じ沖縄県の八重山列島に属する石垣島の沖水深210mで釣獲された「エレキハゼ」をはじめ、新種の発見が相次いでいる深度でもある。

そうした中、金子大学院生(研究当時)が、那覇市内の鮮魚流通販売施設(泊いゆまち)にて鮮やかな赤色の体色と2本のあごひげを持った珍しい魚が販売されているのを発見。研究用標本として購入し琉球大に持ち帰り、詳細な解明に向けた研究が開始された。

今回の研究成果

下あごに2本の特徴的なひげを持つ魚類としては「ヒメジ科」が存在する。同科の魚は、英語では「Goatfish」(ヤギ魚)と呼ばれるほどひげが特徴的で、沖縄県では「かたかし」の名で流通し、スーパーにも並ぶ馴染み深い食用魚だ。世界で105種が知られ、日本国内からはこれまでに29種が知られていた。

ヒメジ科の「ウミヒゴイ属」(Parupeneus)の研究に取り組んでいた篠田大学院生がその標本を調べたところ、エラやひげの長さ、「鰓耙」(さいは:エラ内にある鰓弓内側にある突起のことで、種によって数が異なる)の数、色彩などがこれまでに日本から知られているウミヒゴイ属とは異なることが見出された。

続いて、これまでに世界で知られているウミヒゴイ属35種との比較が行われた。その結果、グアムおよび北マリアナ諸島のアナタハン島から過去にわずか1例(3標本)しか知られておらず、1993年に学名がつけられて以来、追加の採集記録がない希少種「Parupeneus moffitti」であることが判明。

そこで、泊いゆまちや沖縄県漁連(イマイユ市場)、北大東村水産組合などの協力を得てその流通経路を追跡した結果、この魚が北大東島北東沖の水深180mで漁獲されたものであることが確認された。

さらに、これまで同種で一度も実施されていなかった遺伝子解析が今回の標本を用いて行われた。その結果、形態が類似するハワイの「Parupeneus chrysonemus」と近縁であるものの、遺伝的に別種といえる相違点が突き止められた。Parupeneus moffittiは長めのひげや黒色帯・黒色斑がないこと、背中に桃色の縦帯があることなどが特徴として挙げられる。

なお、Parupeneus moffittiが含まれる「posteli種群」は、紅海に生息する1種を除く4種が海洋島からのみ記録されているため、同種も海洋島に適応していると考えられている。同種が北大東島で発見されたことは、大東諸島とマリアナ諸島などの海洋島との間に生物地理学的なつながりがあるとする仮説を裏付ける成果となったとした。

同種は、今回が世界でも2例目、日本初記録であり、これまで和名が存在していなかった。そこで研究チームは、同種が生息している大東諸島とマリアナ諸島がいずれも太平洋上の孤島であることにちなみ、新標準和名として「コトウヒメジ」を提唱したとしている。