鹿児島県・屋久島の固有種と考えられてきた、淡水に生息する二枚貝「ハベマメシジミ」。その形態とDNAの分析を統合することで、世界に広く分布する「ハイイロマメシジミ」と同種であることが明らかになったと、東京大学、静岡大学、東海大学の3者が8月7日に共同発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科 生物科学専攻の澤田直人特任研究員(日本学術振興会 特別研究員PD)、屋久島町の小西祐伸氏、同・上野あや氏、静岡大 学術院理学領域の伊藤舜助教、東北大学大学院 生命科学研究科の石井康人大学院生(現・総合研究大学院大学 先端学術院 大学院生)、オランダ・アムステルダム自由大学の齊藤匠研究員/日本学術振興会 海外特別研究員(現・チェコ・マサリク大学 理学部 研究員)、筑波大学 生命環境系/下田臨海実験センターの香川理助教(現・東海大 海洋学部 海洋生物学科 助教)らの研究チームによるもの。詳細は、「Biologia」に掲載された。
人類がこれまでに発見し、正式に命名・登録した生物種は、地球上に現存するうちのほんの一握りにすぎない。他種とは異なる独立した種と考えられながらも、一度も命名がなされていない、あるいは正式な手続きを経て学名が与えられていない「未記載種」が数多く存在するとされている。
年間を通して涼しい屋久島の標高約1,600mの高地湿原に生息する二枚貝「ハベマメシジミ」も、1955年に初めて報告された際に論文中で「Pisidium habei」という学名が与えられたものの、当時の命名要件を満たさなかったため未記載種の1つとなっていた。
同種は、その稀少性から鹿児島県の絶滅危惧種に選定されているが、その正体は長年不明とされていた。近年のDNA分析では、世界に広く分布するハイイロマメシジミに近縁である可能性も示されており、独立した種なのかもわからない状況だった。
そうした中、研究チームは今回、屋久島の高地だけでなく標高約10mの低地でも新たにハベマメシジミの個体群を発見。そこで、計4つの個体群における貝殻や軟体部の構造、DNAの特徴を他のマメシジミ類と比較すると同時に、これまで高地の冷涼な環境にしか生息しないと考えられていたことから、低地生息地での水温や水位の変化も調査することにした。
その結果、屋久島のハベマメシジミは典型的なハイイロマメシジミよりも蝶番(ちょうつがい)がやや狭く、独自の「ハプロタイプ」を持つといった特徴を持っていた。ちなみにハプロタイプとは、同種の中に存在する、DNA配列の特定の遺伝的変異の組み合わせにより区別される遺伝的なタイプのことだ。
しかし、得られた形態とDNAの情報を総合分析したところ、ハベマメシジミとハイイロマメシジミの差異はわずかであり、同種であると結論づけられた。また、低地では水温が約27度まで上昇しても生息が確認され、屋久島におけるハイイロマメシジミは、従来考えられていた以上に幅広い環境へ適応できることも明らかにされた。
日本のマメシジミ類は1930年代以降、分類の見直しがほとんど進んでいなかったという。今回の研究は正体不明だったハベマメシジミの分類を見直し、長年停滞していた国内におけるマメシジミ類の研究を前進させる成果となった。また、屋久島はハイイロマメシジミの国内南限にあたり、未確認だった低地生息地が発見されたことで、同種の分布や保全上の重要性を再評価する必要性が示された。
なお今回新たに発見された低地生息地は、屋久島空港の延伸計画区域に含まれているため消滅の危機に瀕しており、開発と生物多様性保全の両立を図る検討が望まれるとのこと。

