オーロラは、地球近傍の宇宙空間である「磁気圏」から大気中に降り込んできた電子が、大気中の酸素や窒素などと衝突することで発生する発光現象だ。中でも明滅する「脈動オーロラ」は、磁気圏で発生するプラズマ波の一種である「コーラス波」によって高エネルギー電子が散乱し、地表へ向かって降下することで発生している。コーラス波は磁気圏の赤道面付近で発生すると考えられており、そこから磁場に沿って地球方向へ長い距離を伝搬するほど散乱される電子のエネルギーは高まる。しかし、一般的にコーラス波は磁場に沿って伝搬せず、途中で減衰してしまうことが知られていた。

総合研究大学院大学、国立極地研究所、名古屋大学、電気通信大学、金沢大学の5者は8月28日、これまでの研究に基づいて提唱した、「コーラス波の長距離伝搬、超高エネルギー電子の散乱と降下、および脈動オーロラのパッチ状構造は、磁気圏における電子密度のダクト構造によって支配されている」という物理モデルが統計的にどの程度の普遍性をもって成立するのか、どの時間帯で多く発生するのかを定量的に評価することを目的とした統計解析を行った結果、80%超の割合で同モデルが成立することを確認したことを共同発表した。

  • 先行研究および今回の研究で示したモデルの概要。真夜中前(夕方側)ではコーラス波の発生そのものが少ない。真夜中付近になるとコーラス波が発生し、脈動オーロラも出現する。真夜中以降(朝側)では、ダクトによるコーラス波の長距離伝搬と超高エネルギー電子散乱、およびパッチ状脈動オーロラの発生が多くなる。(出所:共同プレスリリースPDF)

    先行研究および今回の研究で示したモデルの概要。真夜中前(夕方側)ではコーラス波の発生そのものが少ない。真夜中付近になるとコーラス波が発生し、脈動オーロラも出現する。真夜中以降(朝側)では、ダクトによるコーラス波の長距離伝搬と超高エネルギー電子散乱、およびパッチ状脈動オーロラの発生が多くなる。(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、総研大 先端学術院 極域科学コースの伊藤ゆり大学院生(極地研 特任研究員兼任)、総研大/極地研の小川泰信教授、名大 宇宙地球環境研究所の三好由純教授、電通大大学院 情報理工学研究科/宇宙・電磁環境研究センターの細川敬祐教授、金大 学術メディア創成センター/理工研究域 先端宇宙理工学研究センターの笠原禎也教授ら17名の研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する、宇宙空間物理学や地球・惑星環境を扱う専門論文誌「Journal of Geophysical Research: Space Physics」に掲載された。

脈動オーロラの先行研究

数秒から数十秒の周期で明滅を繰り返す脈動オーロラは、発光が弱く形状がぼんやりとした「ディフューズオーロラ」の一種だ。パッチ状に決まった構造を持つタイプと形状が不定形な非パッチ状のタイプに大別される。パッチ状タイプは、非パッチ状タイプよりも遅い時間帯(より朝側)に多いことがこれまでの研究で示されていた。

研究チームではこれまで、地上カメラ、大型大気レーダー、地球磁気圏を観測するジオスペース探査衛星「あらせ」の同時観測が成立した単一事例の解析に基づいて、「コーラス波の長距離伝搬、超高エネルギー電子の散乱と降下、および脈動オーロラのパッチ状構造は、磁気圏における電子密度のダクト構造によって支配されている」という物理モデルを提唱していた。

そこで次のステップとして、提唱モデルが統計的にどの程度の普遍性をもって成立するのか、どの時間帯で多く発生するのかを定量的に評価することを目的とした統計解析を行うことにした。

今回の研究成果

今回の研究では、北欧スカンジナビア半島の計6地点に設置されている全天型オーロラ撮像カメラと、「あらせ」による脈動オーロラの同時観測データを用いて、コーラス波の長距離伝搬とパッチ状脈動オーロラの発生が統計的に調査された。

「あらせ」の観測が開始された2017年3月から2024年3月までの冬季のうち、オーロラの観測が困難な白夜期間を除いた時期において、(1)晴れてオーロラの有無や形状が確認できること、(2)「あらせ」がコーラス波の発生源である磁気赤道面から遠く離れた場所に位置していたこと、の2点を満たす同時観測事例として60イベントが抽出された。

そのうち、脈動オーロラまたは「ディフューズオーロラ」(今回の研究では、コーラス波由来ではない明滅のないオーロラを指す)が観測され、かつ長距離伝搬するコーラス波が観測された事例(ケース1)は真夜中から朝方にかけて発生頻度が増加することが確認された。一方、脈動オーロラまたはディフューズオーロラは観測されたが、長距離伝搬するコーラス波が観測されなかった事例(ケース2)は真夜中付近に発生頻度のピークを迎え、朝方にかけては減少する傾向が示された。

さらに、両ケースについて、オーロラの形状(パッチ状/非パッチ状)についての調査も行われた。その結果、ケース1では93%のオーロラがパッチ状脈動オーロラであるのに対し、ケース2では86%でディフューズオーロラまたは非パッチ状脈動オーロラであることが確かめられた。このことから、研究チームが先行研究で提唱したモデルが、80%超の割合で成立することが証明された。

  • (a)ケース1(赤)とケース2(青)のイベント数。(b)全イベント数に対するケース1(赤)とケース2(青)のイベント数の割合。ケース2の発生割合が真夜中付近でピークを持つのに対し、ケース1は真夜中から朝側にかけて増加していくことが示されている。(出所:共同ニュースリリースPDF)

    (a)ケース1(赤)とケース2(青)のイベント数。(b)全イベント数に対するケース1(赤)とケース2(青)のイベント数の割合。ケース2の発生割合が真夜中付近でピークを持つのに対し、ケース1は真夜中から朝側にかけて増加していくことが示されている。(出所:共同ニュースリリースPDF)

今回の研究によって、ダクトがパッチ状脈動オーロラに深く関係していることが解明された。ダクトは、磁気圏において電子密度が周辺よりも極端に高い、あるいは低い管状構造を指す。光ファイバのように、磁場構造に沿った電子密度や磁束密度の粗密の違い(屈折率の違い)によって波をダクト内に閉じ込めて長距離伝搬を促すと考えられている。しかし、ダクトが形成される時期、領域(電離圏または磁気圏)、プラズマ物理における形成メカニズムは未解明のままだった。

そこで近年は、ダクトや長距離伝搬する波を観測することを目的とした衛星プロジェクトが進行中だ。それに加え、北欧で運用が始まる「EISCAT_3Dレーダー」による極域電離圏の三次元観測を組み合わせることで、「いつ・どこで・どのように」ダクトが形成されるのかについて、アプローチできる可能性があるとした。そこから宇宙天気予報の予測精度向上や超高エネルギー電子が存在する場所の可視化へとつなげることを目指すとしている。

近年では、地球大気中のオゾン減少を誘発すると考えられている超高エネルギー電子の降り込みとパッチ状脈動オーロラの発生は関係していることが明らかにされつつあり、脈動オーロラ研究の重要性は一層高まっている。今回の成果は、パッチ状脈動オーロラとダクトの関係を明らかにしたことで、パッチ状構造から超高エネルギー電子分布の可視化につながることが期待されるとしている。