近年、地球温暖化の主要な原因物質とされる二酸化炭素(CO2)を、化学的手法により有用物質へ変換する研究が進められている。しかし、CO2は大気中では平均約0.04%と低濃度でしか存在せず、回収効率の低さが課題となっていた。

長崎大学は、大気中の約100倍となる約4%の濃度でCO2を含む呼気に注目。そのCO2を化学的手法で資源化する技術を開発したと、9月29日に発表した。

  • 今回の研究成果の概要。炭素資源がきわめて限られる宇宙空間において、人間の持続的な活動を支える炭素循環システムの構築に向けた基盤技術となることが期待されている (出所:長崎大Webサイト)

    今回の研究成果の概要。炭素資源がきわめて限られる宇宙空間において、人間の持続的な活動を支える炭素循環システムの構築に向けた基盤技術となることが期待されている (出所:長崎大Webサイト)

同成果は、長崎大大学院 総合生産科学研究科(環境科学部所属)の白川誠司教授によるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する、総合化学分野のオープンアクセスジャーナル「RSC Advances」に掲載された。

炭素供給源が限られる宇宙で、人が暮らすための資源化技術

大気中から直接CO2を回収する技術「DAC」(Direct Air Capture)はすでに存在しているものの、大気中のCO2の低濃度に起因する回収効率の低さが課題となっており、現状では社会実装があまり進んでいない。そこで研究チームは今回、大気中の約100倍の高濃度でCO2を含むヒトの呼気から、CO2を資源化するための技術を開発することにした。

ヒトは呼吸によって酸素を取り込み、CO2を放出する。これは、単純に肺の中で取り込んだ酸素に炭素が結合するのではなく、全身の細胞における代謝プロセスの結果として生じるものだ。体内に取り込まれた酸素は赤血球によって全身の細胞に運搬され、食物由来の有機物からエネルギーを取り出す代謝反応に利用される。

たとえば、ブドウ糖が細胞内で段階的に分解される過程で、細胞の「エネルギー通貨」である「ATP」(アデノシン三リン酸)が合成されると同時に、炭素がCO2として遊離する。このCO2が血液経由で肺へと運ばれ、呼気として体外へ排出されている。

呼気中からCO2を回収して資源として利用するための技術を確立できれば、CO2回収効率を大幅に高められるだけでなく、今後、炭素供給源の限られる宇宙空間に人類が本格的に進出する際にきわめて有効な手段となることが期待されるという。

今回の研究成果

今回の研究では、まずアミン化合物を充填したフラスコに呼気を吹き込んだ風船を取り付け、1日かけて反応させた。その結果、アミン化合物と呼気中のCO2が反応して中間体物質が得られ、続いて「有機ケイ素化合物」(フェニルシラン)と反応させることで、機能性化合物である「有機ウレア化合物」類の合成に成功した。合成された化合物には、呼気中のCO2に由来する炭素が組み込まれている。

合成された有機ウレア化合物の中には、創薬候補となる生物活性分子や自然界の天然物分子、あるいはCO2の資源化反応を促進する触媒分子が含まれており、今回の手法によって呼気中のCO2を利用した多彩な有用物質が合成可能であることが実証された。

呼気中のCO2は、炭素源としての幅広い利用が期待できる資源である。研究チームは今後、人類の本格的な宇宙進出を見据え、呼気中のCO2を活用した炭素循環技術の確立に向け、ものづくり研究を進めていく方針とした。

また、呼気中にはCO2以外にも資源となり得る化学物質が多数含まれている。これらの回収および有効利用技術の開発を推進することで、宇宙空間におけるヒトの活動の実現に向けた物質循環システムの構築に寄与する技術の確立を目指すとしている。