電気通信大学(電通大)、国立極地研究所(極地研)、総合研究大学院大学(総研大)、名古屋大学、金沢大学、東京大学(東大)、大阪大学の7者は9月27日、数秒から数十秒で準周期的に脈を打つように点滅する「脈動オーロラ」の形状、地球近傍の宇宙空間に形成されている「磁気圏」から地球大気中に降り込んでオーロラ発光を引き起こす電子、および磁気圏における電子密度の管状構造「ダクト」の関係を解明したと共同で発表した。

同成果は、電通大大学院 情報理工学研究科の伊藤ゆり大学院生(現・極地研 宙空圏研究グループ 特任研究員 兼 総研大 大学院生)、同・細川敬祐教授を中心とした20名の研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する地球物理の中でも太陽-地球システムなどの宇宙物理に関する全般を扱う「Journal of Geophysical Research: Space Physics」に掲載された。

脈動オーロラの発光を生み出す「脈動オーロラ電子」は、一般的に約10キロ電子ボルト(keV)のエネルギーを持ち、その多くは磁気圏の赤道面で発生する自然電磁波「コーラス波動」によって散乱され、宇宙から大気中に降下してくる。最近になり、同オーロラの発生中には同電子よりも高エネルギーの「相対論的電子」も降下しており、中間圏・上部成層圏のオゾンの破壊を誘発していることが示唆されている。そのため、同オーロラの特性を理解することの重要性が高まっていた。

  • 2021年1月12日に光学機器、EISCATレーダー、「あらせ」によって観測された時系列データ

    2021年1月12日に光学機器、EISCATレーダー、「あらせ」によって観測された時系列データ。オーロラの形状の違いに対応して、超高層大気の電子密度の様子、地球に近い位置におけるコーラス波動の観測の有無、降下電子のエネルギーが変化している。MLT(磁気地方時)、MLAT(磁気緯度)、Rはあらせ衛星の位置を表す指標。MLATの大きさは磁力線に沿って地球に近いことを示しており、今回の研究において重要なパラメータだという(出所:電通大プレスリリースPDF)

これまでに、脈動オーロラ電子のエネルギーが高まっている時に脈動オーロラの形状が斑状になるという観測がいくつかされていた。また、コンピュータシミュレーションにより、同電子のエネルギーが大きくなるためには、磁気圏を伝搬するコーラス波動が発生した後に、地球近傍まで減衰せずに伝搬する必要があることが示唆されていた。しかし、それらの関係を支配する物理メカニズムを解明するために十分な条件を満たした、オーロラ撮像装置、大気レーダー、磁気圏における衛星の同時観測の事例がなく、観測的な解明には至っていなかったという。

そこで研究チームは今回、ノルウェーのトロムソに設置されている「全天型オーロラ撮像装置」と大型大気レーダーで観測されたオーロラや超高層大気の電子密度と、磁気圏で衛星観測された波動や電子などの時系列データを比較することにしたとする。

エネルギーが高い電子が降下するほどの低い高度において、超高層大気の電子密度は高くなるため、降下電子のエネルギーを逆算して推定することが可能。その結果、発光している領域の境界が明瞭な「斑状」の脈動オーロラの発生、準相対論的電子(数十~100keVの高エネルギー電子)の降下、およびコーラス波動の地球近傍までの伝搬が同時に観測されていたことが判明した。

この同時成立の関係から、「磁気圏の電子密度が管状に高く、あるいは低くなった構造のダクトが、コーラス波動の磁力線に沿った地球方向の伝搬を促し、さらにダクトの断面の形状を反映するようにして脈動オーロラの形状を決めている」という物理メカニズムを提案することにしたとする。

  • 観測結果から提案された物理メカニズムの模式図

    観測結果から提案された物理メカニズムの模式図。磁気圏における電子密度の管状構造「ダクト」の有無によって、コーラス波動の伝搬の様子、降下する電子のエネルギー、および脈動オーロラの形状が変化(出所:電通大プレスリリースPDF)

また、そのメカニズムを解析事例で証明するため、磁気圏の電子密度と脈動オーロラの発光の比較が行われた。そして、同オーロラの斑状構造に対応する磁気圏電子密度の空間変動が確認され、提案された物理メカニズムの妥当性が証明されたとした。

今回の研究成果は、脈動オーロラの形状を見ることでダクト構造の有無を把握することが可能になり、さらには宇宙天気予報の枠組みの中で、磁気圏高エネルギー電子の生成・消滅プロセスを可視化できることが示されているとする。しかし、これは1つの事例による解析であり、統計的な傾向は不明。そのため研究チームは今後、同様の事例を得るため、地上におけるオーロラ撮像装置と「EISCAT(欧州非干渉散乱)レーダー」、および磁気圏における宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星「あらせ」による連携観測を継続して実施していく予定とした。さらに、これまでの膨大なデータを利用し、同オーロラの斑状構造の特徴(くっきり度、大きさなど)、相対論的電子の降下、コーラス波動の地球近くまでの伝搬について、統計的な解析を進めていくとしている。

  • 最先端の大型大気レーダー「EISCAT_3D」

    最先端の大型大気レーダー「EISCAT_3D」。約1万本のアンテナを用いて、超高層大気の3次元観測を行う(極地研 伊藤ゆり特任研究員撮影)(出所:電通大プレスリリースPDF)

また、2025年以降には世界でも最先端の大型大気レーダーシステム「EISCAT_3D」による超高層大気の三次元観測も始まる。それにより、これまで観測できなかった脈動オーロラの発光がある空間とない空間における降下電子のエネルギーの違いを把握できると考えているとした。さらに、衛星との同時観測を継続することで、今回提案された物理メカニズムの理解が進み、相対論的電子の宇宙空間における分布の可視化やオゾン破壊への影響など、宇宙天気予報に貢献していくことが期待されるとしている。