高価なフォトマスクを使わないマスクレス(直描式)露光機の導入が、半導体製造の後工程で台頭している。
背景にあるのはAIチップに代表されるチップレットと再配線層(RDL)の急速な大型化だ。生産効率を上げるには50cm(センチメートル)角以上の柔らかい樹脂基板に微細なパターン形成が必要で、既存のリソグラフィでは対応が難しくなってきた。まだ発展途上にある技術だが将来性を見込んでニコンが新規参入したほか、研究開発用途でも輸入品が使われはじめた。
| 【訂正】初出時の本文・写真キャプションのうち、ニコンに関する文章などを訂正し、半導体後工程に関わらない記述は省いて差し替えました(8月27日 13:30) |
なぜ直描式露光機が注目を集めるのか
直描式露光機が注目されるのは歪みが大きくなってしまう樹脂のRDL基板上に1µm(マイクロメートル)台の微細配線を形成できることにある。これは設計値と実際の基板の反りや伸縮の違いをリアルタイムで読み取り、ソフトウェアで補正できるデジタル機能による。直描式露光技術は、太陽電池パネルなどのロール・トゥ・ロール(巻取法)による生産性向上にもつながっている。
直描式露光機が最も期待されるのは、精緻な配線パターンと高生産性が要求されるHBM(High Bandwidth Memory)。極薄基板が熱で膨張して変形してはブリッジチップの位置がずれてしまう。従来のフォトマスクでは不可能なリアルタイム計測によって位置ずれデータを露光機に反映し、レーザー加工を補正できる。
トップシェアのオーク製作所
直描式露光機の先駆けであるオーク製作所は世界トップクラスのシェアをもち、配線幅/配線間隔1µmという解像度を実現している。
最大の特徴はRDLのように不安定な有機材のうえでの高い解像度であり、ドライフィルムレジスト、液体レジストの両方に対応する。光源はドライフィルムレジストではh線、液レジでポリイミドに描画する場合は波長365nm(ナノメートル)のi線を使う。
従来は半導体と同じシリコンのインタポーザーだったが、AIサーバー向けにチップ性能が上がりチップレットが大型化してきたことから、510×515mm(ミリメートル)のRDL基板にi線ステッパーで描画するニーズが増えている。
基板サイズが大きくなると精度との両立が難しいが、同社の装置は最初にターゲットマークをみて基板の歪みを計測し、瞬時に平坦になるようにデータを調整する。これまでのステッパーが対応できない2µm台の配線幅/配線間隔も可能になった。高価なフォトマスクを省けるうえ微細化も実現できる利点は大きい。
ニコンも後工程向け直描式露光機市場に参入
高成長が見込める後工程向けの直描式露光機市場には、ニコンも参入する。需要が旺盛な先端パッケージ市場を狙い、大面積パネルと微細プロセスの両方で差別化を図っていく。
同社初となる後工程向けのデジタル露光装置は、配線幅/配線間隔(L/S)が1.5µm/1.0µmと、業界トップの微細化レベルにある。また、半導体受託生産会社が検討している600mm角という大型パネルレベルパッケージ(PLP)基板にも対応する。
これらは、世界唯一の第10.5世代をはじめとするフラットパネルディスプレイ(FPD)露光装置で長年培ってきた技術がベースにある。大画面を露光できるマルチレンズテクノロジーは独自のものであり、営業の現場は製品力に自信を見せている。
現時点で製品ラインナップはふたつ。L/S 1.0µm対応機は2027年3月までに、同1.5µm対応機は2028年3月までに発売予定だ。
試作・研究開発需要に応えるフィジックステクノロジー
直描式露光機は量産だけではなく、試作や研究開発向けにも需要が高まっている。
海外の光学機器や計測機器を扱う技術商社のフィジックステクノロジー(千葉・市川市)は、フランス製の直描式露光装置を大学から初受注した。
この露光機は52×52×69cm(センチメートル)の卓上型で、波長385nmのレーザー光源とDMD(デジタル・マイクロミラー・デバイス)を使う光学系を備え、分解能は1.5µm。「他社品にくらべてパワーがある」と、好評を得ている。ユーザーはプラズマエッチング装置とセットで使うケースが多いとしている。


