高価なフォトマスクを使わないマスクレス(直描式)露光機の導入が、半導体製造の後工程で台頭している。

背景にあるのはAIチップに代表されるチップレットと再配線層(RDL)の急速な大型化だ。生産効率を上げるには50cm(センチメートル)角以上の柔らかい樹脂基板に微細なパターン形成が必要で、既存のリソグラフィでは対応が難しくなってきた。まだ発展途上にある技術だが将来性を見込んでニコンが新規参入したほか、研究開発用途でも輸入品が使われはじめた。

  • 「JPCA Show 2026」(電子機器2026トータルソリューション展、会期:6月10~12日)において大型ブースを設け、最新機能を訴求していたオーク製作所

    「JPCA Show 2026」(電子機器2026トータルソリューション展、会期:6月10~12日)において大型ブースを設け、最新機能を訴求していたオーク製作所

  • 同展示会で同様に大型ブースを設けたニコンが展示していたのが、相模原製作所内の共創プラットフォーム「S3S LAB」に設置したマスクレス露光装置だ

    同展示会で同様に大型ブースを設けたニコンが展示していたのが、相模原製作所内の共創プラットフォーム「S3S LAB」に設置したマスクレス露光装置だ

なぜ直描式露光機が注目を集めるのか

直描式露光機が注目されるのは歪みが大きくなってしまう樹脂のRDL基板上に1µm(マイクロメートル)台の微細配線を形成できることにある。これは設計値と実際の基板の反りや伸縮の違いをリアルタイムで読み取り、ソフトウェアで補正できるデジタル機能による。ロール・トゥ・ロール(巻取法)による生産性の向上にもつながっている。

直描式露光機が最も期待されるのは、精緻な配線パターンと高生産性が要求されるHBM(High Bandwidth Memory)。極薄基板が熱で膨張して変形してはブリッジチップの位置がずれてしまう。従来のフォトマスクでは不可能なリアルタイム計測によって位置連れデータを露光機に反映し、レーザー加工を補正できる。

トップシェアのオーク製作所

直描式露光機の先駆けであるオーク製作所は世界トップクラスのシェアをもち、配線幅/配線間隔1µmという解像度を実現している。

最大の特徴はRDLのように不安定な有機材のうえでの高い解像度であり、ドライフィルムレジスト、液体レジストの両方に対応する。光源はドライフィルムレジストではh線、液レジでポリイミドに描画する場合は波長365nm(ナノメートル)のi線を使う。

従来は半導体と同じシリコンのインタポーザーだったが、AIサーバー向けにチップ性能が上がりチップレットが大型化してきたことから、510×515mm(ミリメートル)のRDL基板にi線ステッパーで描画するニーズが増えている。

基板サイズが大きくなると精度との両立が難しいが、同社の装置は最初にターゲットマークをみて基板の歪みを計測し、瞬時に平坦になるようにデータを調整する。これまでのステッパーが対応できない2µm台の配線幅/配線間隔も可能になった。高価なフォトマスクを省けるうえ微細化も実現できる利点は大きい。

後工程向け直描式露光機市場に参入したニコン

高成長が見込める後工程向けの直描式露光機市場には、ニコンも参入した。

本格量産は2027年以降になる予定だが、液晶パネル露光装置で長年培った大型基板技術を適用し、「配線幅/配線間隔1.5µmというスペック以上の性能を出せる」と、営業の現場は自信満々。独自のマルチレンズ方式によって,基板の大型化が進んでも容易に対応できるのも強みだ。

開発中の同機はロール・トゥ・ロール対応で、乾燥機を除くサイズは約2.0×1.8メートル。基板になるフィルムには安価なポリエチレンテレフタレート(PET)や耐熱性の高いポリイミドなど用途別に使い分けられる。フィルム厚は剛性確保や工程で生まれるシワを抑えるために25µm以上が望ましい。理想はハンドリングがしやすい100〜125µm程度としている。

レーザー光の向きを多角形ポリゴンミラーを使って制御し、描画対象に照射するしくみで、スポットサイズは2〜3µmである。ひとつのレーザーで露光できる幅は50mmほどだが、6本のレーザーを使えば幅300mmのフィルムに露光できる。光学モジュールを増やしていけば幅900mmも実現可能だ。

フィルムは熱や圧力、応力によって100mm単位で大きく歪むことがある。従来の露光機で補正するのは不可能だが、直描式であれば計測した歪みデータを露光機に反映し、平坦になるよう補正しながら描画できる。同社はこの露光機技術を幅広く展開する方針で、すでにマイクロLED(発光ダイオード)製品のバックプレーンへの適用もデモしている。

試作・研究開発需要に応えるフィジックステクノロジー

直描式露光機は量産だけではなく、試作や研究開発向けにも需要が高まっている。

海外の光学機器や計測機器を扱う技術商社のフィジックステクノロジー(千葉・市川市)は、フランス製の直描式露光装置を大学から初受注した。この露光機は52×52×69センチメートルの卓上型で、波長385ナノメートルのレーザー光源とDMD(デジタル・マイクロミラー・デバイス)を使う光学系をもち分解能は1.5µm。「他社品にくらべてパワーがある」と、好評を得ている。ユーザーはプラズマエッチング装置とセットで使うケースが多いとしている。

  • フィジックステクノロジーは、パシフィコ横浜で開催された「OPIE'26」(OPTICS & PHOTONICS International Exhibition 2026、会期:4月22〜24日)で、フランスの製品を披露した。

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