九州大学(九大)、名古屋大学(名大)、国立天文台(NAOJ)の3者は4月22日、大質量星や星団の形成現場である「ハブ・フィラメント系分子雲」に見られる特徴的な放射状構造の形成メカニズムを、三次元磁気流体数値シミュレーションを用いて解明したと共同で発表した。
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実際に観測されたハブ・フィラメント系分子雲(左)と、今回のシミュレーションで形成された構造(右)の比較。どちらも、中心の高密度領域へ向かって複数のフィラメントが放射状に伸びる特徴を持つ。今回の研究により、このような構造が、くびれた磁場を持つ分子雲に高速の星間衝撃波が作用することで形成されうることが示された。(出所:NAOJ CfCA Webサイト)
同成果は、九大大学院 理学府の野﨑信吾大学院生と名大大学院 理学研究科の犬塚修一郎教授の共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
銀河内には数多くの星形成領域が存在し、そこには星間ガスや星間塵が集まる「分子雲」が漂っている。近隣の超新星爆発による衝撃波などをきっかけに、ガスや塵がより濃密に集積して「分子雲コア」が誕生し、それが原始星の誕生へとつながっていく。近年は、分子雲の中でも「フィラメント」と呼ばれる細長いガスの構造が注目されている。特に、複数のフィラメントが中心の高密度領域へ向かって放射状に集まる「ハブ・フィラメント系分子雲」は、大質量星や星団が形成される重要な現場と考えられており、実際に多くの星形成領域でもその存在が確かめられてきた。
しかし、このような整った放射状構造がなぜ形成されるのか、その物理的な起源には不明な部分が多い。これまで理論研究により、超新星爆発などによって発生する「星間衝撃波」と、分子雲の磁場が相互作用することによってフィラメントが形成されることは明らかにされつつある。だが、ハブ・フィラメント系分子雲に特徴的な「中心へ向かって放射状に並ぶ複数のフィラメント」の形成メカニズムは未解明のままだった。
そこで研究チームは今回、実際の分子雲では磁場が一様ではなく、重力の影響で中央に向かってくびれた「砂時計型」をしていることに注目。そのような分子雲に高速の星間衝撃波が衝突した際に何が起こるのかを、NAOJ 天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)が運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイIII」を用いて、三次元磁気流体数値シミュレーションを実施して詳細に調べたという。
公式動画「ハブ・フィラメント系分子雲の形成シミュレーション(星のゆりかごに広がる放射状ガス構造の起源を解明)」。星間衝撃波が分子雲を通過した後に、ハブ・フィラメント系分子雲に特徴的な、中心へ向かって放射状に並ぶ複数のフィラメントが発達する様子が描写されている。左は星間衝撃波の進行方向に対して横から見た映像、右図は星間衝撃波がやってくる方向から見た映像。左上の数字は計算開始後の経過時間。なお、右は左図よりも高密度なガスを鮮明にするため、異なる密度範囲で表示している。(c)野﨑信吾(九州大学)(出所:YouTube国立天文台CfCA公式チャンネル)
シミュレーションの結果、衝撃波の通過後に、衝撃波によって掃き集められたガスがくびれた磁場によって流れの向きを変えられ、中心方向に向かって細い流れに分裂しながら集まることで、放射状のフィラメント構造が形成されることが確認された。また、形成されたフィラメントの長さや幅は、実際に観測されているハブ・フィラメント系分子雲の特徴とよく一致していることもわかった。
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今回のシミュレーションの概念図。(a)砂時計型の磁場構造(マゼンタ)を持つ分子雲に星間衝撃波(オレンジ)が衝突する様子。青色の実線矢印は星間衝撃波の進行方向を表す。(b)星間衝撃波が分子雲を通過すると、磁場に沿って分子雲ガスが細長く集まり、くびれの中心に向かってガスが流入すること(青色の破線矢印)が今回示された。青色の破線矢印は、衝撃波を基準にして見たときのガスの流れを表す。(c)野﨑信吾(九州大学)(出所:NAOJ CfCA Webサイト)
さらに、ガスの運動には密度による明瞭な違いが現れることも判明した。高密度のガスほど中心方向に大きな速度を持つ一方、周囲の低密度ガスは中心方向の速度が小さいことが明らかにされた。これは、分子雲全体のガスが一様に中心へ集まるのではなく、衝撃波によって形成された高密度のフィラメントが、中心部への質量輸送を主に担っていることが示唆されるとしている。
こうした構造と運動の違いは、衝撃波が曲がった磁場構造と相互作用をすることで特徴的なガスの流れが生じ、圧縮された層が分かれて複数の細長い構造が形成されることで生まれると推測された。今回の結果は、ハブ・フィラメント系分子雲に見られる特徴的な形態と、高密度ガスが選択的に集まる仕組みを、単一の物理過程で説明できることを示している。
近年の観測では、ハブ・フィラメント系分子雲には、放射状に強く整列したものから非対称で複雑な形を示すものまで、さまざまな形態が見つかっている。その違いが何によって決まるのかは、星形成研究における重要な課題とされる」。今後は、衝撃波の向きや強さ、分子雲の密度や磁場の構造といった条件を系統的に調べることで、こうした多様なハブ・フィラメント系分子雲を統一的に説明する形成シナリオの構築が期待されるとした。
さらに、今回解明された衝撃波起源のハブ・フィラメント系分子雲から、どのような大質量星や星団が生まれるのかを調べることも重要だという。これにより、分子雲の環境の違いが、そこで生まれる星や星団の性質にどのように影響するのかを理解する研究へと発展することが考えられるとする。こうした研究が進むことで、銀河内で星や星団がどのような場所に、どのような条件のもとで生まれるのかを理解する、より大きな枠組みの研究へとつながることが期待されるとしている。