サイボウズは今年5月、kintoneの活用アイデアをユーザー同士で共有するライブイベント「kintone hive 2026」を札幌で開催した。同イベントでは、クロスティホールディングス デジタル推進部 係長 大村優輝氏が、「『ここしかない』で、走り出した。進まなかった3年間と勝負の半年間」というタイトルの下、同社の全社員参加型DXに向けた取り組みを紹介した。

  • クロスティホールディングス デジタル推進部 係長 大村優輝氏

    クロスティホールディングス デジタル推進部 係長 大村優輝氏

クロスティホールディングスは、北海道を拠点に電気設備や空調、水道、不動産など住まいに関わる幅広い事業を展開する企業グループ。グループ全体の従業員数は257人(2025年4月時点)、売上高は82億円超に上る。地域密着型の事業を展開する一方で、近年はDX推進にも力を入れている。

利用者はわずか6人、kintoneが広がらなかった理由

2021年、大村氏が入社した頃に同社のデジタル推進部が立ち上がり、IT化への取り組みが本格化した。メールや電話、FAXが中心だったコミュニケーション基盤を見直し、LINE WORKSの導入やPCセットアップの標準化などに着手した。

「当時は、社内のIT基盤が十分に整っておらず、kintoneを導入できるような状態ではありませんでしたが、少しずつIT化を進めていきました」と、大村氏は当時を振り返った。

大村氏自身は函館未来大学でITを学び、札幌のIT企業を経て建設業界へ飛び込んだ人物だ。「建設業界をDXで変えてみないか」という大学の先輩からの誘いを受け、転職したという。

同社では当初、PowerAppsなどのローコードツールを活用しながら内製開発を進めていた。当時の開発体制はエンジニア3人だった。中小企業では大規模なシステム投資が難しい中、「コストをかけずに業務改善を進める」ための現実的な選択だった。しかし、その一方で課題も見えていた。

「このままだと保守が不安という気持ちもずっとありました」(大村氏)

そんな中で出会ったのがkintoneだったという。国内に豊富なコミュニティがあり、フリーランスを含め開発人材が多いことも安心材料になったという。

当初は工事進捗管理や案件管理など、現場向けのアプリを少しずつ開発していった。しかし、利用者は一部部署のわずか6人程度にとどまっていた。257人規模のグループ企業で、kintoneを使う社員はごく一部。大村氏が理想として掲げていた「全社員が現場主体で改善を進める市民開発」には程遠い状況だった。

  • 当初は工事進捗管理や案件管理アプリを開発したものの、利用者は6人にとどまっていた

    当初は工事進捗管理や案件管理アプリを開発したものの、利用者は6人にとどまっていた

「どうやって広めていこうか、本当に困っていました」(大村氏)

改善提案コンテストがDXを加速させた

そんな停滞感を打ち破るきっかけになったのが、社長から発表された「改善提案コンテスト」の開催だった。

「改善提案コンテストということは、グループ全社のアイデアが集まってくる。それに便乗してkintoneアプリを量産すれば、一気に全社展開も可能だと思いました」(大村氏)

そして、改善提案コンテストとkintoneを連動させるプロジェクトが本格始動した。

  • 「改善提案コンテスト」の開催が決定

    「改善提案コンテスト」の開催が決定

大村氏は2025年2月に「改善提案コンテスト」の話があって、すぐにサイボウズに相談したという。

「社長とWeb会議に出席して社長の熱い思いを話していただいたり、逆にサイボウズさんのチームワークを強化していくという理念をお話いただいたりして、すぐにkintoneと改善提案コンテストを掛け合わせて、いろいろな施策を打っていこうという話になりました」(大村氏)

まずは"ログインしてもらう"ことから始めた

コンテスト期間は2025年4月から10月までの半年間。この短期間で、大村氏は2つの目標を掲げた。

1つは「改善提案コンテストをkinetoneで成功に導くこと」。もう1つは「コンテストが終了する前に、kintone活用による費用対効果を生み出すこと」だったという。

まず着手したのが、「カイゼン自己診断アプリ」だ。改善提案コンテストの“会場”そのものをkintone上に作り上げた。

「まずはログインしたことがあるという状態を作ることが大事でした」(大村氏)

新しいシステムに抵抗感を持つ社員も少なくない。そこで、社内ポータルを入口にし、シングルサインオンを設定。社員が意識せず、kintoneへアクセスできる環境を整えた。

「とにかくkintoneにログインしてもらう仕組みを作りました」(大村氏)

年間3494時間削減を生んだ「材料発注アプリ」

さらに、費用対効果を示すために開発されたのが「材料発注アプリ」だ。

  • 「材料発注アプリ」

    「材料発注アプリ」

このアプリは、各拠点をまたぎ、さらにグループ会社の商社部門とも連携する全社横断型のシステムだ。従来、材料発注は紙で運用されていた。連番を書き、発注書を綴じ、保管し、必要な時には大量の紙をめくって探すという業務運用になっていた。発注書は、1年も経たないうちに段ボールいっぱいになっていたという。

それがkintone導入後は、発注書は「1レコード」ごとに管理されるようになった。検索もボタン1つで完了する。結果として、利用人数は91人に達し、1人当たり月3.2時間、年間では3494時間の業務削減効果を生み出した。しかも、このアプリ開発で注目すべきは、カスタマイズを非エンジニア社員が担ったことだ。ChatGPTを活用してプログラムやカスタマイズを進めたという。

  • 「材料発注アプリ」による効果

    「材料発注アプリ」による効果

「最初は、もっと使いやすくしてほしいという声もありました。それでも試行錯誤しながら、AIを活用して開発していました」(大村氏)

116件の改善提案につながったワークショップ

さらに、コンテストを盛り上げるために実施したのが「もやもや共有ワークショップ」だ。これは、日々の業務で感じる“もやもや”を共有し、それを改善アイデアへ昇華する場だ。そして、ここで出したアイデア提案を改善提案コンテストに持っていくというフローを作った。「もやもや共有ワークショップ」には部署横断で社員が集まり、サイボウズ社員も参加。さらに社長自身もワークショップに顔を出した。

  • 「もやもや共有ワークショップ」

    「もやもや共有ワークショップ」

「社長に聞いてもらえたのがうれしかったという声が本当に多かったです」(大村氏)

「もやもや共有ワークショップ」を通じて、部署を超えたコミュニケーションが生まれ、自分の部署だけが困っているわけじゃないと分かったり、『つなげたらいい』みたいな提案が増えたという。大村氏は、この変化を「kintoneが課題解決の第一選択肢になった」と表現する。

実際、コンテストでは116件もの改善提案が集まった。社長賞として21件が表彰され、商品券やカタログギフトも贈られた。さらに、アイデアは“提案だけ”で終わらなかった。例えば、「社食がない」という社員の声を受けて100円で購入できる冷蔵おかずを導入したほか、社員デザインのリサイクルボックスも実装された。

その結果、kintoneライセンス数は140まで拡大した。当初、一部部署の6人しか利用していなかったkintoneは、全社に広がる基盤へと成長した。

DXを根付かせた「相談できる文化」

しかし、大村氏は数字以上に重要な変化を感じている。

「アイデアを出したら何か動くかもしれない、という空気ができました。本当はもっと市民開発を進めたいと思っており、サポートしきれなかった人もたくさんいます。それでも相談できる基盤ができ、アイデアが実現してきました」(大村氏)

今後は、デジタル推進部のメンバーが各グループ会社へ入り込み、ヒアリングしながら一緒にアプリを作る体制を構築していくという。そして、最終的にはそこで必要なマスターであったり、グループ全体で共有してシナジーを生むようなアプリケーションを作ることを目指していくという。

そして大村氏は最後に、「kintoneならできるかな――そんな声が、皆さんの会社でももっと広がっていくことを願っています」と語り、講演を終えた。