山陰合同銀行(ごうぎん)は7月17日、サイボウズと共同で、kintoneを活用した業務改善やDX推進の取り組みを紹介するイベント「ごうぎんDXアワード2026 ~kintone導入企業が語る現場のリアル~」を島根県松江市のくにびきメッセで開催した。
同行は2020年10月からサイボウズと業務提携し、地域企業のDXを支援するICTコンサルティングサービスを展開。事業性評価を通じて企業の課題を可視化し、業務分析やICT化のロードマップ策定、ツールの導入・運用までを一貫して伴走支援してきた。同イベントでは、その取り組みを通じて成果を挙げた島根県・鳥取県の企業5社が登壇し、現場でのリアルな活用事例を紹介した。
IT人材ゼロでも全社員が使うDXへ - 朝日住宅
最初に登壇したのは、朝日住宅 売買事業部の稲村百香氏だ。同氏は「もう後戻りはしない! 専門人材ゼロからのkintone奮闘記」と題し、IT専門人材がいない企業でもDXを推進できた取り組みを紹介した。
同社では紙を中心とした業務が多く、複数帳票への二重・三重入力や伝達漏れが課題となっていた。何から始めればよいか分からない中、ごうぎんへ相談したことをきっかけに、kintone導入プロジェクトがスタートした。
DXでは、「社員が毎日使うツールにすること」と「売上情報を一元管理すること」を目標に設定。まずは伝言メモや休暇申請、稟議書など日常業務をkintoneへ移行し、社員が自然に使える環境づくりを進めた。その後、売上管理や進捗管理もダッシュボードへ集約し、現在では社員自らがアプリを内製できるまでになっている。
その結果、電話メモの対応漏れや「言った・言わない」といったトラブルが減少したほか、申請・承認のスピードも向上。帳票作成も自動化され、紙の使用量削減や業務効率化につながったという。
一方で、現場から寄せられる要望が増え、プロジェクトの方向性が見えにくくなる場面もあった。しかし、ごうぎんがロードマップを示しながら伴走支援を続けたことで、迷わず取り組みを進められたという。
最後に稲村氏は、「通常業務を抱えながらDXを進めるのは簡単ではありません。だからこそ外部の力を借り、自分たちが取り組まざるを得ない環境をつくることが成功への近道だと思います」と来場者へ呼びかけた。
お寺のDX、情報の一元管理を実現 - 一畑寺
続いて登壇したのは、島根県出雲市にある一畑薬師(一畑寺)の管長・住職を務める飯塚大幸氏だ。
近年は少子高齢化や家族構成の変化を背景に、永代供養や納骨堂、樹木葬へのニーズが高まり、お寺の業務も大きく変化している。契約管理、顧客管理、過去帳、墓地区画の管理、各種案内文書など、管理すべき情報は年々増加していた。
飯塚氏は、「職員それぞれが対応しているため情報が分散し、LINE WORKSやGoogleカレンダーも利用していましたが、どこに何があるのか分からなくなっていました。Excelへの重複入力や入力ミスも多く、属人化も課題でした」と説明する。
こうした課題を解決するため、ごうぎんに相談し、kintone導入プロジェクトが始まった。
まず現状をヒアリングし、ロードマップを策定。その上で、永代供養契約や納骨堂、樹木葬などを管理する複数のアプリを構築した。
飯塚氏はkintoneのメリットについて、「自由に一覧画面をカスタマイズできる点が非常に便利です。個人情報や契約内容、対応履歴まで一元管理でき、別の画面へ同じ内容を入力する必要もありません。帳票も自分たちで修正できるので、運用しながら改善を続けられます」と評価する。
現在は墓地区画を図面上で確認できる仕組みの開発も進めており、さらなる利便性向上を目指している。
導入を検討している企業へのアドバイスとして飯塚氏は、「DXはシステムを導入することが目的ではありません。組織や業務に成果をもたらすためには、経営者やリーダーが率先して取り組み、改善を繰り返すことが重要です」と語った。
年間360時間を削減した介護DX - 大徳会
3番目に登壇したのは、鳥取県大山町で軽費老人ホーム「玉真園」を運営する社会福祉法人 大徳会だ。
施設では利用者の高齢化に伴い業務量が増加し、記録や情報共有を紙や複数の帳票で管理していたため、二重入力や情報共有の非効率が課題となっていた。主任栄養士の吉田祥子氏は、「本来の利用者支援に時間を充てるため、無駄をなくしたかった」とICT化の背景を説明した。
介護ソフトも検討したものの、自施設には不要な機能が多かったことから、kintoneを採用。ICT委員会を中心に、ごうぎんの支援を受けながら、従来業務をそのままデジタル化するのではなく、「本当に必要な業務なのか」という視点で見直しを進めた。
完成したアプリでは、一度入力した情報を複数の業務へ連携できるようになり、二重入力を解消。さらにスケジュールも一元管理できるようになった。また、操作説明会や小グループ制度を通じて職員への定着も図った。
その結果、年間約360時間の業務削減に加え、印刷コストの削減や、職員自ら改善提案を行う文化も生まれたという。今後は紙業務をさらに減らし、施設だけでアプリを改善・運用できる体制づくりを目指すとしている。
電話とFAX中心の建設会社を変えたDX - 寺谷組

寺谷組 代表取締役 平尾義之氏
4社目として登壇したのは、鳥取県智頭町で総合建設業を営む寺谷組の代表取締役 平尾義之氏だ。
同社では、紙の日報や電話、FAXを中心とした業務により情報が分散し、現場の確認や日報の転記作業などに多くの時間を費やしていた。平尾氏は、「若手社員が働きやすい会社にしたいという思いがあり、人手不足が進む中でDXに踏み切った」と振り返る。
ごうぎんの支援を受けながら、現場情報のリアルタイム共有や紙の日報の廃止を目標にkintoneを導入。現場での使いやすさを重視し、紙の日報に近い画面設計としたことで、社員はスマートフォンから直接入力できるようになった。
その結果、全現場の状況や車両・重機の稼働状況をリアルタイムで把握できるようになり、確認のための電話や担当者を探す時間は大幅に減少した。現在では見積書や請求書、承認フローまでkintone上で運用し、「情報を会社の資産として活用できるようになったことが最大の成果」としている。
一方で、平尾氏は「最も苦労したのはシステムを作ることではなく、社内へ定着させることだった」と振り返る。そこで自ら率先してkintoneを利用し、管理職や会議でも活用を徹底。現場の意見を取り入れながら改善を続けることが、定着につながったと説明した。
現在では見積書や請求書、承認フローまでkintone上で運用しており、「情報を会社の資産として活用できるようになったことが最大の成果」と語った。
課題の見える化から始めたDX - 浜田ビルメンテナンス

浜田ビルメンテナンス 総務部 主任 石井雄太氏
最後に登壇したのは、島根県浜田市で総合ビル管理業を営む浜田ビルメンテナンス 総務部主任の石井雄太氏だ。
同社では以前からDXを進めたいと考えていたものの、何から着手すべきか分からず、具体的な行動へ移せずにいたという。転機となったのが、ごうぎんのICTコンサルティングサービスだった。
まず全部署へのヒアリングを実施し、現場の課題を整理した上で優先順位を設定。人事評価や勤怠管理をテーマにkintoneを導入し、評価フローや申請状況をリアルタイムで把握できる仕組みを構築した。
導入当初は権限設定やワークフロー設計、スマートフォン操作への対応に苦労したものの、操作マニュアルの整備や個別フォローを通じて定着を進めた。
石井氏は、「kintoneは現場でもアプリを作りやすく、申請状況も可視化できる点が魅力です」と評価。「変化を恐れず、まず小さく始め、周囲を巻き込みながら改善を積み重ねることが重要です」と来場者へメッセージを送った。
最優秀賞は一畑寺、「自社に合ったDX」が評価
イベントの最後には、来場者投票による表彰が行われ、「参考にしたい」「心を動かされた」「改善効果が高い」という観点から最優秀賞が選出された。
受賞したのは、一畑寺のDX事例だった。
受賞後、飯塚氏は改めてkintone導入の効果について、「寺院向けのパッケージソフトもありますが、私たちの業務には合いませんでした。一方、Excelでは情報が分散し、属人化も避けられません。kintoneなら情報を連携でき、いつでもスマートフォンから確認できる点が非常に便利です」と話す。
また、ごうぎんの支援についても、「寺院特有の業務を理解した上で、どこをkintoneで実現できるか、逆に難しい部分は何かまで整理しながら提案していただけたことが非常に心強かった」と振り返った。
地域DXを支える伴走支援が成功の鍵に

イベントを締めくくったサイボウズ リージョナル共創推進部 部長 渡邉光氏
イベントの最後に登壇したサイボウズ リージョナル共創推進部 部長の渡邉光氏は、「理想があるからこそ課題が見えてきます。山陰からさらに多くのDX企業を生み出し、今後はAIを活用したAXへと発展させていきたい」と期待を語った。
今回紹介された5社の事例に共通していたのは、最初から大規模なシステムを導入したわけではないという点だ。
まず現場の課題を洗い出し、小さな改善を積み重ねながら、社員が日常的に使える仕組みを育てていく。その過程で、ごうぎんが業務分析からロードマップ策定、導入・定着支援まで伴走したことが、各社の成功を支える大きな要因となっていた。

















