米宇宙企業スペースXは2026年6月23日、無人の再突入カプセル「スターフォール」(Starfall)の実証機を、「ファルコン9」ロケットで打ち上げた。 スペースXはスターフォールについて、「宇宙での科学研究や製造のために、手頃な価格で、微小重力環境を繰り返し利用できるようにする新しい機体」と説明している。 しかし、具体的なミッション内容や将来構想については、多くが謎に包まれている。
スターフォールはどんな宇宙機なのか
スターフォール実証機(Starfall Demo)を搭載したファルコン9ロケットは、日本時間2026年6月23日19時53分(米東部時間同日6時53分)に、フロリダ州のケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーションから打ち上げられた。打ち上げから約9分後には、第1段が大西洋上のドローン船への着陸に成功した。
ただ、スペースXは詳細な飛行プロファイルを明らかにしていない。生中継も第1段の着陸後に終了し、第2段やスターフォール本体の映像は公開されなかった。その後、同社は打ち上げから約3時間後に、スターフォールの分離を確認したと発表している。
スペースXは、スターフォール計画について多くを公表していない。ただ、米国連邦航空局(FAA)が公開した環境影響評価書から、機体の概要や運用構想の一端が見えてきた。
この評価書によると、スターフォールは直径約3.1m、高さ約0.75mの、円盤型のカプセルだ。カプセルの質量は約2.1tで、最大で約1.0tのペイロードを搭載できる。最大時の総質量は約3.1tとなる。
機体はふたつの部分から構成されている。ひとつはアルミニウム製の「トップ・プレート」、もうひとつはカーボンファイバー製の耐熱シールドだ。ペイロードはトップ・プレート側に収められ、ペイロード・ベイの寸法は長さ約2.5m、幅約1.5m、高さ約0.5mとなっている。
また、耐熱シールドは取り外し可能とされている。これは、再突入時に大きな熱負荷を受ける耐熱シールドを交換式にすることで、トップ・プレート側を再使用し、運用の低コスト化や高頻度化を図っている可能性がある。
打ち上げには、同社の主力ロケットであるファルコン9を使うほか、開発中の巨大ロケット「スターシップ」を使うことも想定されている。
スターフォールは姿勢制御用に不活性ガスを使用したスラスターを搭載している。ただし、軌道変更や軌道離脱を行うための、推力の大きなスラスターは搭載していない。そのため、宇宙から帰還する際には、ロケット上段や軌道離脱用の推進モジュールなど、別の推進系によって軌道離脱させる必要がある。
再突入後の降下には、パイロット・パラシュート、ドローグ・パラシュート、メイン・パラシュートを使用して減速する。
FAAの環境影響評価書は、今回打ち上げられたスターフォールを含む同計画の再突入運用を扱ったもので、少なくとも最初の2機については、米国西海岸から約1,300km沖合の太平洋上に着水させる計画が示されている。スペースXも今回のミッションについて、「スターフォールは、地球低軌道に向けて打ち上げられたあと、制御された飛行を行い、太平洋に着水する」と説明している。
ただし、今回のミッションでスターフォールが1機だけ打ち上げられたのか、それとも2機が同時に打ち上げられたのかは明らかにされていない。また、具体的な軌道滞在期間や再突入時期も公表されていない。
前述のように、スペースXは打ち上げから約3時間後にスターフォールの分離を確認したと発表している。この時刻は、低軌道をおおむね2周したあとにあたる。スターフォール自体には軌道離脱用の主推進系がないため、第2段が軌道離脱噴射を行い、スターフォールを再突入軌道に乗せた可能性がある。
一方で、スターフォールが別のプラットフォームに搭載されている場合には、ロケットからの分離後もしばらく軌道上に滞在し、その後、プラットフォームの推進系によって軌道離脱し、再突入する可能性もある。
スペースXが掲げる、スターフォールの“ふたつの目的”
FAAの環境影響評価書によると、スペースXはスターフォールに関してふたつの主要な目標を掲げていることが記されている。
ひとつは「宇宙空間を経由した重要な貨物の迅速なポイント・トゥ・ポイント輸送を可能にする」こと、もうひとつは「微小重力と真空へのアクセス、軌道上での滞在、そして軌道からの安全な帰還をサービスとして大規模に提供し、自立した商業宇宙製造市場を創出する」ことだ。
前者は、米軍の計画との関連が示唆される。2021年に米軍は「ロケット・カーゴ・ヴァンガード」(Rocket Cargo Vanguard)と呼ばれる計画を立ち上げ、商業ロケットを使って、軍需品や人道支援物資を世界各地へ迅速に運ぶ技術や能力を検討し始めた。現在は、「REGAL」(Rocket Experimentation for Global Agile Logistics)や「P2PD」(Point-to-Point Delivery)という計画名で、実験や開発が進んでいる。
2022年には、空軍研究所(AFRL)がスペースXに対し、こうした技術や能力を検証するため、5年間で1億200万ドル規模の契約を出している。AFRLはまた、シエラ・スペースやロケット・ラボといった他の宇宙企業にも関連する契約を出している。
今回の打ち上げも、詳細な飛行プロファイルやミッション内容は明らかにされず、打ち上げの生中継も、打ち上げから約10分後に終了した。こうしたことは、偵察衛星の打ち上げなど、安全保障に関わるミッションで行われる慣例でもある。米軍との契約下、もしくは関連があるミッションであった可能性がある。
もうひとつの目的である宇宙製造は、決して新しい夢ではない。宇宙環境を利用した新しい材料や医薬品の研究、新技術の実証が、技術革新につながり、大きなビジネスになるのではないかという期待は、前世紀から語られ続けてきた。しかし、打ち上げコストはもちろん、宇宙から成果物を持ち帰ることも技術的、コスト的にハードルが高く、大きな商業市場としてはまだ十分に実現していない。
こうした中で、低コストなロケットによる打ち上げを実現し、さらにコストを下げようと取り組んでいるスペースXが、宇宙から物を持ち帰ることにおいても技術革新を行おうとしているというのは、不自然なことではない。
|I@004.jpg,スターフォール実証機を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ (C)SpaceX,A@|
宇宙から物を持ち帰る技術に取り組んでいるのは、スペースXだけではない。
たとえば米国のヴァーダ・スペース・インダストリーズ(Varda Space Industries)は、「ウィネベーゴ」(Winnebago)、あるいは「Wシリーズ」と呼ばれる無人カプセルを開発し、運用している。同社はすでに複数のミッションを実施しており、今年5月にはW-6カプセルの打ち上げ、回収に成功している。ほかにも数社が、この分野への参入を目指している。
こうした中で、スペースXには大きな優位性がある。自社開発のロケットを運用し、高頻度で打ち上げていることに加え、すでに有人の「クルー・ドラゴン」宇宙船と、無人の「カーゴ・ドラゴン」宇宙船も運用しているためだ。
その強みは、打ち上げ、再突入、回収に必要な技術やノウハウを有していることにとどまらない。米軍や民間企業が、どのような物資を、どの程度の価格や頻度で宇宙へ送り、地球へ戻すことに関心を寄せているのか、また、そこにどれほどの実需があるのかを見極めやすい立場にあることも、スペースXにとって大きな武器になるといえよう。
スペースXが今後、スターフォールをどのように展開していくのかは未知数だ。軍事的な即応輸送を主眼とするのか、宇宙製造の成果物を回収するための商業サービスを主眼とするのか、あるいはその両方を担うものになるのかは、まだわからない。
だが、いずれの道をたどるにせよ、スターフォールは、宇宙への打ち上げから地球への帰還・回収までを一気通貫で担う、新たな宇宙輸送インフラへと発展する可能性を秘めている。同社の技術力や運用実績から考えると、その実現はそれほど難しいことではないだろう。
参考文献


