九州大学(九大)、東北大学、兵庫教育大学(兵教大)、九州オープンユニバーシティ(QOU)の4者は7月9日、鹿児島県の屋久島において、これまで同一種と思われるほど外見が酷似しているにもかかわらず、実態はそれぞれ異なる種から収れん進化した2種類の「オトギリソウ属」の小型草本植物であることを確認し、新種「ヤエダケオトギリ」と新変種「ヤクシマオトギリ」として記載したと共同で発表した。

  • 今回記載された新種の生態画像

    今回記載されたグループ1の「ヤエダケオトギリ」(A)と、グループ2の「ヤクシマオトギリ」(B)の生態画像。両植物とも屋久島の標高1700m付近の湿原にて撮影された。両植物とも葉や花弁の長さが1cmにも満たない小型の草本植物だ。(出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、九大大学院 農学研究院の髙橋大樹助教、東北大大学院 農学研究科の陶山佳久教授、同・石川直子特任准教授、兵教大大学院 学校教育研究科の山本将也講師、QOUの矢原徹一研究部長(九大名誉教授兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本植物系統学会が刊行する、藻類や菌類を含む植物の分類・系統・進化・分布・地理などを扱う英文オープンアクセスジャーナル「Acta Phytotaxonomica et Geobotanica」に掲載された。

植物の“他人の空似”がDNA分析で明らかに

世界自然遺産に登録されている屋久島は、九州の南方約70kmに位置する直径約30kmの島だ。島内には九州最高峰の宮之浦岳(標高1936m)がそびえ、海岸から山頂部までの大きな環境勾配によって多様な植生が発達している。加えて、極めて多い降水量も相まって、樹齢数千年を超えるヤクスギの巨木が点在する原生的な天然林も見られる。

研究チームが2021年から屋久島の高標高域においてミニチュア化した草本植物の調査を進める中で、固有植物の1つであるオトギリソウ科オトギリソウ属「ヤクシマコオトギリ」を遺伝解析したところ、別種に相当するほど遺伝的に大きく分化している2グループが存在することが見出されたという。

両グループは形態的な違いが専門家でもわからないほど酷似しており、現地調査が重ねられた結果、オトギリソウ属植物の葉や萼(がく)にある「腺点」と呼ばれる、光に透かすと見える組織の違いが判明した。「グループ1」は葉に黒点のみを持ち、もう一方の「グループ2」は葉の縁以外に明点のみを持つことが確認されたほか、さらに両者の特徴を併せ持つ個体群「グループ3」も分布していることが明らかにされた。

そこで研究チームは今回、これら3つのグループがどのような進化の歴史をたどってきたのか、どのグループが従来知られてきたヤクシマコオトギリに相当するのか、また同じ高標高域で隣り合って生育し、同時期に開花するこれらの植物が、どのように種の境界を維持しているのかを解明するための調査を行ったという。

まず、改めて葉の腺点形態に着目した詳細な分布調査と形態調査が行われた。その結果、グループ2は標高約1000mから山頂付近まで広範囲に分布しているのに対し、グループ1は高標高域の中でも非常に限られた場所でしか見られないことが突き止められた。

また、グループ1と2が隣り合って生育している場所も確認され、グループ3の個体はすべてグループ1または2と近接して生育していることがわかった。これら3つのグループの外見は酷似しており、葉の長さや茎の長さなど、15項目を測定しても、明瞭に識別できる特徴は葉の腺点形態を除くと花の萼の腺点形態のみであった。

  • ヤエダケオトギリ、ヤクシマオトギリ、ヤクシマコオトギリの花、萼、葉の形態比較

    ヤエダケオトギリ、ヤクシマオトギリ、ヤクシマコオトギリの花、萼、葉の形態比較。葉と萼の腺点形態で識別ができる。白いバーはすべて1 mm。Takahashi et al. (2026) を改変。(出所:九大プレスリリースPDF)

次に、これら3つのグループの類縁関係を調べるための遺伝解析が行われた。グループ1と2は遺伝的に大きく異なる一方で、グループ3は1と2の中間的な遺伝的組成を持つことが確認された。さらに、グループ1と2の類縁関係を詳細に調べた結果、両グループは互いに最も近縁な関係ではなく、それぞれ別の種から独立にミニチュア化した姿へ進化したことが突き止められた。これらの結果により、グループ1と2は収れん進化で類似した形態となったこと、そしてグループ3はそれらの雑種である可能性が高いことが明らかにされた。

続いて、グループ1と2が雑種を作れるにもかかわらず、どのようにして狭い島内で種としての実体を保っているのかを調べるため、各グループの染色体数や核ゲノムサイズが測定された。その結果、グループ1が染色体数16本の2倍体、グループ2が染色体数32本の4倍体、さらにグループ3が染色体数24本の3倍体であると推定された。2倍体と4倍体が受精すると染色体を3セットもつ3倍体が生じ、これらは育つことはできるが、うまく減数分裂ができず、正常な花粉や胚珠を作れない。そのため、グループ3も正常な種子や果実を形成する能力がない個体群と考えられるとした。

以上により、グループ1と2は、交雑して雑種を作ってしまうが、その雑種は正常な種子をほぼ形成できず、染色体数の違いが種の境界を保つ障壁として働いていることで、両種は共存できていると結論づけられた。

最後に、これら3つのグループのうち、どの植物がヤクシマコオトギリに当たるのかが調べられた。従来の記載では「葉に明点がある」のが特徴のため、グループ2に該当すると考えられたが、分類学のルールに従って京都大学 植物標本庫に収蔵されている押し葉標本(証拠標本)を調べた結果、実はグループ3の雑種個体であることが判明した。

従って、従来使われていたヤクシマコオトギリという和名は雑種のグループ3を指す名前であり、グループ1と2に関しては別の名前が必要となったのである。そこで先行研究とも照らし合わせ、グループ1をヤエダケオトギリ(新種)、グループ2をヤクシマオトギリ(新変種)として報告したという。

  • 遺伝解析によって判明した日本産オトギリソウ属植物の系統関係

    遺伝解析によって判明した日本産オトギリソウ属植物の系統関係。ヤエダケオトギリとヤクシマオトギリは、互いに最も近縁な関係ではなく、それぞれ別の種から独立に進化したことが示された。Takahashi et al. (2026) を改変。(出所:九大プレスリリースPDF)

今回の研究で見出されたヤエダケオトギリは屋久島の高標高域でも分布が限られ、生育個体数も極めて少数と推測される。そのため、他の同島の固有植物同様に絶滅危惧種に指定される可能性があるとする。今回の成果は、同島の希少植物の効果的な保全計画の立案へと寄与できるとした。

研究チームは、屋久島のミニチュア化した植物の中には、今回と同様のケースが他にも存在する可能性があると考えているという。これらを踏まえて、今回の研究成果は世界自然遺産である屋久島における、ヤクシカと植物の関係が織りなす特異な生態系の価値をより一層アピールする重要な成果であるとしている。