山口大学、岐阜大学、国立天文台(NAOJ)の3者は6月26日、NAOJの野辺山45m電波望遠鏡を用いて天の川銀河内のマイクロクェーサー「SS 433」を観測し、東西に延びる大規模なX線ジェットの再増光領域に存在する星間分子雲の位置とX線放射の分布を比較した結果、X線は分子雲のすぐ下流側で明るくなり、よりエネルギーの高いX線放射も分子雲表面付近で強くなることが判明、これによりジェットが分子雲に衝突することによって周囲の磁場が強められ、X線ジェットが再び明るく輝いている可能性があることが明らかにされたと共同で発表した。
同成果は、山口大大学院 創成科学研究科(理学系学域)の酒見はる香助教(NAOJ 野辺山宇宙電波観測所 特任助教兼任)、岐阜大 工学部 電気電子・情報工学科 応用物理コースの佐野栄俊准教授(岐阜大大学院 自然科学技術研究科 知能理工学専攻応用 数学物理領域/岐阜大 工学部 附属宇宙研究利用推進センター兼務)、同・福井康雄研究員(名古屋大学 理学研究科 名誉教授兼任)、NAOJ 科学研究部の町田真美准教授、東北大学 学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部の木村成生准教授、核融合科学研究所 メタ階層ダイナミクスユニットの小林将人助教、京都大学大学院 理学研究科 宇宙線研究室の佳山一帆大学院生(研究当時)、名古屋大学大学院 理学研究科 理学専攻 物理学第二の山本宏昭助教、同・理学研究科 附属南半球宇宙観測研究センターの立原研悟准教授、NAOJ アルマプロジェクトの永井洋准教授(総合研究大学院大学 先端学術院 天文学科コース兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
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(A)「SS 433」(白星印)周辺のX線と電波の合成画像。オレンジはX線で明るく輝く大規模ジェット構造、シアンは野辺山45m電波望遠鏡で観測した一酸化炭素分子が放つ電波を示す。SS 433から東西に延びるX線ジェットの再増光領域に、分子雲が存在していることがわかる。(B・C)SS 433から東西に延びるX線ジェット再増光領域の拡大図。背景の色は野辺山45m電波望遠鏡で観測した分子雲の分布を、等高線はX線放射の分布を示す。東西両側の再増光領域で、分子雲とX線放射が空間的に対応していることがわかる。この対応関係は、SS 433のジェットが周囲の星間分子雲と相互作用している可能性を示す重要な手がかりとした。(出所:岐阜大プレスリリースPDF)
SS 433のX線ジェット再増光の謎に迫る
SS 433は、ブラックホールまたは中性子星のどちらかのコンパクト天体と大質量星からなる連星系であり、「マイクロクェーサー」の代表格として、天の川銀河内で最も活発な天体の1つである。中心天体の近傍からは宇宙ジェットが噴き出しており、さらに中心から離れた東西の領域でも明るいX線ジェット構造が観測されている。それが活動銀河核の一種である「クェーサー」を彷彿とさせることから、こうした連星系はマイクロクェーサーと称される。
しかし、同天体のジェットがなぜ中心天体から遠く離れた場所で再び明るく輝くのか、その理由は未解明であった。その謎の解明は、ジェット活動の歴史や高エネルギー現象の理解における重要な課題だ。そこで研究チームは今回、野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて、SS 433の観測を行ったという。
野辺山45m電波望遠鏡は、ミリ波帯の電波観測に用いられ、20世紀から星間分子ガスの観測などで数多くの成果を上げてきた。今回は、SS 433の東西X線ジェットの再増光領域における、一酸化炭素分子が放つ電波輝線の観測が行われた。その結果、両側の再増光領域において、X線放射とよく対応する位置に複数の「分子雲クランプ」が初めて検出された。
分子雲クランプとは、巨大分子雲内に存在し、星の卵となる分子雲コアを数個から多数含む構造を指す。今回観測された分子雲クランプの典型的な大きさは約2パーセク(1パーセク=約3.26光年)で、一部の分子雲クランプはX線ジェットの構造に沿うような細長い形をしていることが示された。
続いて、分子雲とX線放射の位置関係が詳しく調べられた。その結果、X線放射のピークは分子雲のピークと完全には一致せず、ジェットの進行方向に対して分子雲のすぐ下流側で明るくなることが判明。このような位置関係は、両者が偶然同じ方向に見えているだけではなく、物理的に相互作用していることを示す重要な手がかりだという。
また、X線の性質も詳しく調べられた。すると、分子雲の中心ではなくその表面付近で、より高エネルギーのX線が強くなっていることが確認された。もし分子雲が手前にあり、X線の一部を吸収しているだけであれば、X線の見え方の変化は分子雲が最も濃い場所で起こることが考えられる。しかし実際には、そのような変化は分子雲の中心から約0.5~1パーセクずれた場所に見られた。このことから、観測されたX線の性質は単なる吸収効果ではなく、ジェットと分子雲の相互作用によって生じている可能性が高いと推測された。
今回の観測結果は、SS 433のジェットが周囲の星間分子雲に衝突し、その相互作用によってX線放射が強められているというシナリオで自然に説明できるという。ジェットが高密度の分子雲に衝突すると、分子雲の表面や周囲の層で乱流が発生する。この乱流によって磁場が増幅されると、高エネルギー電子が磁場中で曲げられる運動をすることで生じる「シンクロトロンX線放射」が強められる。そのため、X線放射は分子雲の最も密度の高い中心ではなく、分子雲表面やその下流側で強くなることが考えられるとした。
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SS 433と中心天体近傍から噴き出すジェット、さらにその東西両側の遠方で再増光するX線ジェットと再増光領域に分布する分子雲のイメージ。(c)国立天文台(出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)
今回の研究成果は、コンパクト天体から噴き出すジェットが周囲の星間物質とどのように相互作用し、どのように高エネルギー放射を生み出すのかを理解する上で重要な手がかりを与えるものとする。今後、より高解像度の分子輝線観測によって、分子雲クランプの詳細な形状や物理状態を調べることで、ジェットと分子雲の相互作用の実態がさらに明らかになるものと期待されるという。
さらに、この過程で増幅された磁場は、X線放射を強めるだけでなく、高エネルギー粒子の加速にも寄与している可能性がある。SS 433のX線ジェットからは非常に高いエネルギーのガンマ線も検出されており、ジェットと分子雲の相互作用が高エネルギー宇宙線粒子の生成にどのように関わるのかは、今後の重要な研究課題としている。