この半導体ニュースのまとめ

・ADEKAが埼玉県久喜市の新基幹研究所「半導体イノベーションセンター」を本格稼働、総工費は約120億円
・研究開発エリアを従来比2.7倍、クリーンルームをワンフロア850m2超へ拡張し、ALD装置など設備を強化
・2035年度に半導体材料事業で営業利益325億円を目指し、ALD材料、リソグラフィ材料、後工程・パッケージ材料へ領域を拡大

総工費約120億円、半導体材料に特化した新基幹研究所が稼働

ADEKAは7月2日、埼玉県久喜市のADEKAテクノロジーセンター久喜内に建設した新研究棟「半導体イノベーションセンター」を本格稼働させたことを発表した。同センターは、同社が2026年5月に実施した成長領域における研究拠点としての役割を明確化し、研究開発力の強化を図るという新たな研究構想のもとに旧久喜開発研究所を再定義して命名された「ADEKAテクノロジーセンター久喜(ACT-S:ADEKA Center of Texhnology for Semiconductor and Sustainalility)」の中核施設として位置付けられるもので、次世代半導体のキーマテリアルを創出する基幹研究所となる。

  • ADEKAの半導体イノベーションセンター

    2026年7月1日より本格稼働したADEKAの半導体イノベーションセンター (提供:ADEKA)

  • 研究拠点名称の新旧比較

    研究拠点名称の新旧比較。ADEKAテクノロジーセンター久喜には既存棟に「マテリアルソリューションセンター」が、新棟に「半導体イノベーションセンター」が設置。これまで本社に隣接する尾久中央開発研究所にあった半導体材料研究機能がすべてこちらに移設。さらに拡充が図られた形となった (提供:ADEKA)

同センターは地上7階建て、建築面積1990m2、延床面積1万1545m2で、総工費は約120億円。各フロアの主な内訳は、1階が分析技術室、2階がオープンエリア、3階にクリーンルーム、4階がフリーアドレスの執務室、5~7階が実験室となっている。2024年4月に着工し、2026年4月に竣工、6月に開所し、7月1日より本格稼働した。研究人員は2026年7月1日時点で約150名としており、半導体材料開発に携わる研究員は約130名弱ほどだという。

  • 「スキップフロア」

    2階から4階にかけては「スキップフロア」と呼ぶ開放的なスペースも用意。ここでイベントなども開催する予定だという (提供:ADEKA)

  • クリーンルーム

    クリーンルームは3階に設置。照明は通常、イエローの切り替えが可能となっている (提供:ADEKA)

  • 4階は執務室

    4階は執務室となっており、所属が異なっていても関係なく好きな席に座って業務を行うことが可能だという (筆者撮影)

  • 5~7階は実験室

    5~7階は半導体材料開発研究所の実験室。さまざまな材料の研究開発が行われている (提供:ADEKA)

  • 高誘電材料(ALD材料)
  • 高誘電材料(ALD材料)
  • 高誘電材料(ALD材料)「アデカオルセラ」の研究開発風景 (筆者撮影)

  • 光酸発生剤(リソグラフィ材料)「アデカアークルズ」

    光酸発生剤(リソグラフィ材料)「アデカアークルズ」。基本的には左のような粉末で提供するが、要望に応じて右のような液体で納品する場合もあるという (筆者撮影)

最大の特徴は、研究開発エリアを従来(旧尾久中央開発研究所)比2.7倍に拡張した点にある。クリーンルームはクラス1000をベースにワンフロアで850m2超と従来比2.5倍の規模を確保し、複数台のALD装置やエッチング装置、蛍光X線分析(XRF)やX線光電子分光法(XPS)などの分析機器を設置したほか、クラス100のエリアにはICP-MSを設置しており、こうした製造装置と分析装置を組み合わせることで、材料を合成して顧客に提供するだけでなく、実際に成膜し、膜厚や均一性、不純物、電気特性などを自社内で評価しながら、顧客環境に準じた提案を行える体制を整えた。

  • 実験室の広さは従来の2.7倍

    実験室の広さは従来の2.7倍に、クリーンルームは同2.5倍の850m2超となり、開発品目や種類を一気に拡充することが可能となった (提供:ADEKA)

2035年度に半導体材料で営業利益325億円を目指す

ADEKAの城詰秀尊 代表取締役社長兼社長執行役員は、同社グループ全体の営業利益を2015年から2025年までの10年間で2倍超に拡大してきたと説明。今後10年でもさらなる成長を目指し、2035年度には半導体材料事業だけで営業利益を2025年度比で4倍超となる325億円、同社全体利益の40%超を稼ぐプロフィットセンターとなることを目指す方針を示した。

  • 城詰秀尊氏

    ADEKAの半導体材料事業の現状と半導体イノベーションセンターの重要性の説明を行ったADEKA 代表取締役社長 兼 社長執行役員の城詰秀尊氏 (筆者撮影)

同社は直近5年間で、半導体材料事業の研究開発、製造、人員強化に累計約521億円を投じてきた。半導体材料事業は、先端メモリのALDプロセス向け高誘電材料を中心に成長してきたが、今後は先端ロジック向けALD材料、半導体リソグラフィ材料、後工程・先端パッケージング材料を加え、売上高と利益の成長領域を広げていく考えだ。

  • ALD材料の概要

    ADEKAが得意とするメモリのキャパシタ向けALD材料の概要 (提供:ADEKA)

半導体材料市場は、半導体需要の伸びを背景に今後も成長が期待されている分野である。半導体製造に用いられる材料は基本的に消費材であり、半導体デバイスが作られれば作られるほど、その使用量は増していくことになる。しかも、先端プロセス、そして先端パッケージングと製造技術が複雑化しており、使用される材料の種類や総量は増加傾向にある。

WSTS(世界半導体市場統計)の予測でも、半導体市場は以前は2030年に1兆ドル市場と言っていたものが、AI半導体需要の爆発とメモリ価格の高騰により、2026年に1.5兆ドル規模へと到達する見通しが示されており、それに伴い、先端材料の需要が拡大していくことが期待されている。

ALD材料の研究領域をメモリからロジック、配線へ拡大

ADEKAが長年強みとしてきたのが、先端DRAM向けの高誘電(hHigh-k)材料を中心とするALD材料である。ALDは、Atomic Layer Deposition(原子層堆積法)の正式名称のとおり、分子や原子を1層ずつターゲットの表面に積層させていき、必要とする膜厚に成長させる技術で、メモリのキャパシタに用いられる金属酸化膜などで重要な役割を担ってきた。

同社は、扱いが難しい有機金属錯体を自在に操り、不純物を制御しながら狙い通りの材料を生み出す合成技術と、顧客との密接な技術連携を通じたトータルソリューション提案力を競争優位とする。城詰氏は、こうした技術と提案力を背景に、世界トップメーカーとの20年超の実績を積み上げてきたと説明した。

  • ADEKAの競争優位性

    メモリ領域におけるADEKAの競争優位性 (提供:ADEKA)

今後は、先端メモリの構造やプロセスの変化に伴う形で、これまで強みとしてきたキャパシタ周辺材料に加え、電極や配線まで開発領域を拡大する。高アスペクト比化や狭ピッチ化が進む中では、電極間干渉を防ぐ材料や、メタルALD材料、ASD(Area Selective Deposition:選択的成膜)材料などの重要性が高まるとするほか、ALE(Atomic Layer Etching:原子層選択エッチング)やMLD(Molecular Layer Deposition:分子層堆積)といった次世代プロセスに対応する材料開発も進める。

  • DRAMもプロセスの微細化は継続
  • DRAMもプロセスの微細化は継続
  • DRAMもプロセスの微細化は継続しており、10nmプロセス世代の次の1桁nmプロセス世代に向けた動き、もしくは3D DRAMの実用化に向けた動きなど、さまざまな技術方向性が模索されており、その実現の鍵を握るのが材料といえる (提供:ADEKA)

2nm以降の先端ロジックの実現に向けて材料からアプローチ

先端ロジックでは、2nmプロセス世代以降、ナノシート(GAA)トランジスタや裏面電源供給などトランジスタや多層配線の構造が変化していく。さらに先の1nm以下のオングストローム世代ではCFETへとトランジスタが変わるなど、デバイス構造の複雑化が進んでいる。ADEKAは、こうした物理限界が見える領域では、これまでの高精度な装置によるプロセス制御だけでなく、化学的な構造解析や材料起点のアプローチが重要になるとADEKAではみている。同社は、先端メモリの顧客への材料提供と並行して、先端ロジックの顧客にも提案を進めてきた。城詰氏は、「(オングストローム時代を見据え)先端ロジックの顧客も意識が変化してきて、接点が増えてきた」と現在の状況を説明。ロジック顧客に向けたアプローチを加速させ、量産プロセスのキー領域に自社の材料が採用されるように取り組んでいく姿勢を強調した。

  • 先端ロジック

    先端ロジックプロセスはトランジスタ構造がFinFETからGAAへ、そしてその先にはCFETも待っている (提供:ADEKA)

特にリソグラフィ材料では、EUVおよび高NA EUVを見据え、化学増幅型レジスト(CAR)向け光酸発生剤(PAG)や、金属酸化物レジスト(MOR)向け金属化合物を強化する。同社はレジストそのものを手掛けるわけではなく、レジストメーカーにキーマテリアルを供給する立場だが、ALD材料で培った金属化合物の合成・精製・品質管理技術をMOR向け材料に応用できる点を強みとする。

  • EUVレジスト

    EUVレジストは、従来のCARからMORやMCR(Metal Containing Resist、富士フイルムが提案)などへと変更が進むことが見込まれており、その開発競争が激化している (提供:ADEKA)

後工程・パッケージ材料へ領域拡大、ハイブリッドボンディングも視野

新研究棟の本格稼働にあわせ、ADEKAは後工程・パッケージ材料への展開も加速する。半導体イノベーションセンターでは主に前工程材料の深化を担う一方、同じ久喜拠点内のマテリアルソリューションセンターでは、特殊樹脂や接着剤、界面活性剤などで培ってきた技術を半導体向けに応用し、後工程・パッケージ領域の材料開発を進める。

  • ADEKAの後工程向け技術ロードマップ
  • ADEKAの後工程向け技術ロードマップ
  • ADEKAの後工程向け技術ロードマップ。前工程や別の産業用途で培った技術を応用展開できる部分が多いという (提供:ADEKA)

具体的な適用領域としては、ダイボンディング、Thermal Interface Material(TIM:熱伝導材料)、放熱樹脂シート、Non-Conductive Film(NCF:絶縁接着フィルム)、低温焼結銅ペースト、セミアディティブプロセス(SAP)シードエッチング向け金属選択エッチング薬液などが挙げられる。チップの並列配置からインターポーザー利用、さらに3D-ICに向けたチップ積層へとパッケージ技術が進化する中、同社は既存の樹脂・接着・界面制御技術を後工程材料へ展開していく。

  • ハイブリッドボンディング

    ハイブリッドボンディングに関してはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)」に採択され、横浜国立大学と共同研究が進められている (提供:ADEKA)

注目領域の1つがハイブリッドボンディングである。従来のマイクロバンプを用いた接続では、はんだやアンダーフィルを用いる構造が一般的だったが、次世代の3D実装(ハイブリッドボンディング)では銅配線同士を直接接続する技術が求められる。同社は横浜国立大学と共同で、平滑化なしで配線を固定でき、銅配線同士を直接接続できるポリマー樹脂などの研究開発を進めているという。この技術が実現すれば、複雑化する後工程プロセスの負担を低減しつつ、従来より10分の1以上の省スペース化で、高性能化と省電力化の両立が可能になるとしている。

  • 光電融合

    光電融合分野については主に接着剤関連などの研究開発を推進していくとする (提供:ADEKA)

光電融合向け接着剤・封止剤も研究対象に

もう1つの注目領域として、ADEKAは光電融合向け材料を挙げる。データセンターの増加に伴い、電気配線の速度や発熱、消費電力の課題が顕在化する中、電気配線の一部を光配線へ置き換えることで高速化と低消費電力化を図る光電融合への関心が高まっている。

同社は、光導波路と電気配線の接続部を保護する接着剤や封止剤、光ファイバーを高精度に固定する材料、ミラーや光導波路周辺の接合材料などを研究対象としている。光・熱硬化技術、光学用/低塩素樹脂、樹脂配合・評価技術、界面制御といった同社の既存技術を活用し、光電融合用接着剤や封止剤の開発を進める方針だ。

日本、韓国、台湾、米国、中国で地域別の材料展開を強化

ADEKAは半導体材料の地域別展開でも体制強化を進める。韓国では最先端メモリ向け材料開発と新製品拡大を継続し、台湾では先端ロジック向けALD材料の展開を加速させる。米国についても、ロジック半導体をめぐる市場変化を踏まえ、現地のデバイスメーカーとの材料開発を進める必要があるとした。中国では、政治的な難しさを踏まえつつも、レガシー領域への材料展開を図っていくとする。そして、日本でこうした取り組みの基礎となる最先端の研究と量産技術を推進していくとする。

城詰氏は、半導体デバイスの進化に合わせて材料もゲームチェンジの局面を迎えていると説明。従来の研究スペースの制約を解消し、研究員の増員、評価設備の拡充、研究機能・技術の集約を進めることで、顧客からの要望に対して、より多くのテーマを同時並行で進められる体制を整えたとした。ADEKAとしては、同センターを起点に、先端メモリ、ロジック、リソグラフィ、後工程・パッケージまでをカバーする総合半導体材料メーカーへの転換を加速させる考えだ。