宇宙航空研究開発機構(JAXA)と広島大学の両者は6月26日、JAXAが運用するX線分光撮像衛星「XRISM」を用いて観測した中性子星連星の「鉄蛍光輝線」に対し、ガスの動きを立体的に捉える「ドップラートモグラフィ」を適用した結果、X線領域では初となる同輝線の放射領域の特定に成功したと共同で発表した。

  • コンパクト連星系のイメージアニメーション

    コンパクト連星系のイメージアニメーション。伴星(大型の天体)からコンパクト天体(円盤構造のある天体)へ物質が流れ込み、コンパクト天体の周囲には円盤および高温領域が形成されている様子を表している。(出典:BinSimを用いて、筆頭論文著者の鮫島大学院生が作成)(出所:XRISM公式サイト)

同成果は、東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻/JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)の鮫島直人大学院生、ISAS 宇宙物理学研究系の辻本匡弘准教授(東大大学院 理学研究科 天文学専攻/関西学院大学 理工学研究科 物理・宇宙物理学専攻兼任)、広島大 宇宙科学センターの植村誠准教授の共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

中性子星に流れ込むガスを“CTスキャン”で解析

白色矮星は、太陽の約8倍未満の小・中質量の星が燃え尽きた後に残る、電子の縮退圧で支えられた地球サイズの天体である。また極限の超高密度天体である中性子星は、太陽の約8~30倍の質量を持つ大質量星の中心核が、生涯の最期に重力崩壊を起こした後に誕生する。そして大質量星の質量が太陽質量の約20倍以上になると、条件次第では生涯の最期にブラックホールが誕生する(約30倍以上はほぼブラックホールとなる)。これらの小型かつ強い重力を持つ天体は、「コンパクト天体」と総称されている。

コンパクト天体が恒星などと連星系を構成している例は珍しくない。伴星が主系列星や赤色巨星の場合、コンパクト天体は強い重力で伴星からガスを引き剥がし、自らの赤道面上に「降着円盤」を形成する。ガスなどの物質は、コンパクト天体上に直接落下、または直接吸い込まれるのではなく、降着円盤内を高速で周回しながら徐々に天体へと落下していく。物質はこの落下過程でエネルギーを放出するため、連星系全体が極めて明るいX線源として観測されることになる。ただし、このガスの流れは遥か遠方に位置するため、従来の望遠鏡でその構造を直接観測することは不可能だ。

一方で、連星系内を運動する物質は重力の影響を受けて軌道運動しているため、物質の運動に応じて光のエネルギーがわずかに変化する「ドップラーシフト」が生じる。これは、救急車のサイレンで知られるドップラー効果と同様の現象であり、電磁波(光)でも生じる。輝線を放出する物質が地球に近づく時は高エネルギー側(青方偏移)へ、遠ざかる時は低エネルギー側(赤方偏移)へと波長がずれる。連星の公転周期に合わせてこのドップラーシフトを詳細に捉えることで、物質がどの方向にどれほどの速度で流れているのかという「速度分布」を算出することが可能となる。

多様な方向から連星系内を観測して物質の運動を捉えるこの手法は、医療用CTスキャンと似ていることから「ドップラートモグラフィ」と呼ばれ、これまで主に可視光で確立されてきた。しかしX線領域においては、高いエネルギー分解能と十分な統計量を両立させることが困難なため、長らく実現できていなかった。それが、光速の約10万分の3の速度を識別可能な精密なX線分光器「Resolve」を搭載したXRISMの稼働により、遂に実現されることとなった。

そこで研究チームは今回、X線連星として知られる「ぼうえんきょう座」の中性子星連星系「4U 1822-371」をXRISMによって詳細に観測し、X線ドップラートモグラフィの適用を試みたという。

  • ドップラートモグラフィの概念図とXRISMが捉えた連星軌道位相ごとの鉄蛍光輝線のスペクトル

    (左)ドップラートモグラフィの概念図。連星系の公転運動に伴い、地球からは多様な角度で物質の運動を観測できるため、医療用CTスキャンのように運動速度に応じた光のエネルギーのずれ、つまりドップラーシフトを測定できる。(右)XRISMが捉えた連星軌道位相ごとの鉄蛍光輝線のスペクトル。観測方向によって輝線の中心エネルギーが周期的に変動(ドップラーシフト)していることが示されている。(出典:Sameshima et al. (2026) を元に論文筆頭著者の鮫島大学院生が作成)(出所:XRISM公式サイト)

観測の結果、連星の公転軌道に伴って鉄蛍光輝線の中心エネルギーが周期的に変動していることが確認された。なお輝線とは、天体周辺の物質の状態を診断する際の手がかりとなる、原子やイオンが特定の波長で放射する鋭いピークを持つ光のことだ。中でも鉄蛍光輝線は、鉄原子の内殻電子が強力なX線などによって弾き飛ばされた後、外殻の電子がその空席を埋める際に放射する特有のX線輝線を指す。

得られたデータにX線ドップラートモグラフィを適用したところ、物質の速度分布の画像化に成功。その結果、鉄の蛍光X線は、幾何学的に対称な円盤や星の表面からではなく、伴星から流れ込んだ物質のストリームが降着円盤と衝突し、円盤上空へと激しく拡散した局所的な領域から放射されていることが確かめられた。これは、X線観測によってコンパクト天体周辺における物質の流れを可視化し、その具体的な放射位置を直接突き止めた初の成果となる。

従来の可視光ドップラートモグラフィが、主に比較的低温な物質の流れを解明してきたのに対し、今回のX線ドップラートモグラフィはコンパクト天体近傍で強烈なX線放射を受けて駆動される高温・高エネルギー物質を鮮明に浮かび上がらせる。この新たな手法を応用することで、今後はブラックホールや中性子星の周囲において、物質がどのように降着し、どのような極限構造を形成しているのかをより詳細に解明できるようになることが期待されるとしている。

  • ドップラートモグラフィを用いて描かれた鉄蛍光輝線の速度マップ

    X線領域では世界初となる、ドップラートモグラフィを用いて描かれた鉄蛍光輝線の速度マップ。縦軸・横軸は位置ではなく物質の「運動速度」を示しており、特定の領域に放射が集中していることが視覚化された。(出典:Sameshima et al. (2026) を元に論文筆頭著者の鮫島大学院生が作成)(出所:XRISM公式サイト)