東京科学大学(科学大)は6月22日、保護者の調理技術が子どもの心の発達とどのように関係しているのか、日本の小学4年生とその保護者3641組を対象に2年間の追跡調査を実施した結果、保護者の調理技術が高いほど、2年後(小学6年生)の子どものレジリエンス(困難にうまく対処する力)や、向社会的行動(他者を助けるために自発的に行う行動)が高くなることが明らかにされたと発表した。

  • 保護者の調理技術が高いほど2年後の子どものレジリエンスや向社会的行動が高くなる傾向が判明

    保護者の調理技術が高いほど、2年後の子どものレジリエンスや向社会的行動が高くなることが明らかにされた。(出所:科学大Webサイト)

同成果は、科学大 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の谷友香子准教授、同・藤原武男教授らの研究チームによるもの。詳細は、心理学および人間の行動に関連する分野を扱うオープンアクセスの論文誌「BMC Psychology」に掲載された。

子育ては親にとって楽しいことも多いが、容易ではないのも事実で、多くの家庭が何らかの課題を抱えているとされる。子どもの個性にもよるが、特に対応が困難になるのが思春期だ。成長の過程で誰もが通過する一方で、多くの精神的問題が顕在化し始める時期でもある。

将来の健康やウェル・ビーイング(身体的・精神的・社会的に満たされた良好な状態)の維持には、レジリエンスや向社会的行動を育むことが重要とされる。これらは個人の性質だけでなく、家庭環境からも大きな影響を受けることがこれまでに明らかにされており、特に家族のつながりや親子の関わり、家庭内の生活習慣が重要視されている。

思春期初期の子どもにとって、食事は家族交流の中心であり、親子が一緒に過ごす時間の中でも大きな割合を占める。家庭における調理や食事の時間は、協力や思いやり、感情のコントロールなどを学ぶ機会となるだけでなく、親子のコミュニケーションや家族の絆を深める役割を果たす可能性がある。

また、高い調理技術を持つ保護者は、安定した食事環境の提供や、子どもに調理を教えることなどを通じて、子どもの心の成長に良い影響を与える可能性があるとされる。そこで研究チームは今回、保護者の調理技術と子どものレジリエンスおよび向社会的行動との関連を解明することを目的とした調査を行うことにしたという。

今回の研究では、東京・足立区内の小学4年生とその保護者3641組を対象に、小学6年生まで2年間の追跡調査が実施された。保護者の調理技術は、信頼性が確認されている5項目の調理技術尺度を用いて、子どもが4年生の時点で評価された。その上で5項目の平均値を算出し、参加者は調理技術のレベルに応じて4グループに分類された。

子どものレジリエンスと向社会的行動の評価には、確立された尺度が用いられた。4年生および6年生時点でのレジリエンスは8項目(0~32点)、向社会的行動は5項目の尺度を用いて、保護者が評価した。いずれも得点を100点満点に換算し、数値が高いほど各指標が高いことを示す仕組みとした。

また、保護者の調理技術が子どものレジリエンスや向社会的行動の発達にどのように関係するのかを理解するため、(1)食に関する習慣、(2)親子の関わり、(3)家族のつながりの3点が、その関連を説明するかどうかの検証が行われた。具体的に食習慣としては、野菜摂取や朝食の頻度、家庭での調理頻度、親子での調理や外出の頻度が、親子の関わりについては、学校生活やニュース、テレビなどについて会話する頻度がそれぞれ評価された。家族のつながりについては、家族の協力関係や信頼感などを測る7項目の尺度で評価された。

保護者の調理技術と子どものレジリエンスおよび向社会的行動との関連は、子どもの性別、同居状況、世帯収入、保護者の属性、保護者のK6(心理的ストレス指標)、母親の就業状況、父親の年齢・学歴・就業状況の影響を調整した多変量線形回帰分析で検討された。さらに、その影響経路を詳細に調べるため、(1)食に関する習慣、(2)親子の関わり、(3)家族のつながりの3点が、その関連をどの程度説明しうるかについて、媒介分析を用いて検証が行われた。

解析の結果、保護者の調理技術が高いほど、子どものレジリエンスおよび向社会的行動が高いことが判明。保護者の調理技術が最も低い群の子どもと比べて、最も高い群の子どもでは、6年生時点のレジリエンスが8.8点、向社会的行動のスコアが9.5点、有意に高いことが確認された。

  • 保護者の調理技術と子どものレジリエンスおよび向社会的行動の関連

    保護者の調理技術と子どものレジリエンスおよび向社会的行動の関連。調整された項目は、子どもの性別、同居状況、世帯収入、保護者の属性、保護者の心理的ストレス指標(K6)、母親就労状況、父親の年齢・学歴・就労状況だ。(出所:科学大Webサイト)

媒介分析の結果、保護者の調理技術と子どものレジリエンスとの関連は、子どもの野菜摂取などの食習慣、学校生活についての親子の会話、家族のつながりによって、一部説明できる可能性が示された。同様に向社会的行動についても、親子で調理をする頻度などの食習慣、親子の会話、家族のつながりが関連の一部を説明している可能性が示されたという。

以上の結果から、保護者の調理技術は、家庭内の食習慣や親子関係、家族のつながりを通じ、子どもの心の発達に良い影響を及ぼしている可能性が示されたとした。

今回の研究成果により、保護者の調理技術が子どもの心の発達に関連し、レジリエンスや向社会的行動の向上につながる可能性が示された。特に、食習慣や親子の会話、家族のつながりを介した影響が確認されており、保護者が適切な調理技術を身につけることが、子どもの健全な成長を支える重要な役割を果たす可能性が示唆された形だ。

従って、保護者の調理技術の向上を支援することで、子どもの健やかな成長を促進できる可能性があるとする。また、子どもを持つ保護者が適切な調理技術を習得できる環境を整備することは、次世代の健全で前向きな心の発達に貢献することが期待されるとした。

今後は、保護者の調理技術の向上が子どもの精神的発達に与える因果関係を検証すると同時に、保護者向けの料理教育プログラムの効果を評価する必要があるという。さらに、食事、親子関係、家族機能への影響を踏まえた介入方法を開発し、学校や地域と連携した実践的な支援策へ応用していくことが期待されるとしている。