皆さん、こんにちは。
科学コミュニケーターの伊藤映美です。
イグ・ノーベル賞公式イベント「Ig Nobel Face-to-Face in JAPAN」のYouTube公開を記念したブログ、第2弾です。今回は、イベント当日の会場の様子や、実施に込めた思いを、科学コミュニケーターとしての私自身の視点からお届けします。第1弾では「イグ・ノーベル賞とはどんな賞なのか?」についてご紹介しました。
なお、イベントの様子はYouTubeチャンネル「Miraikan Channel」でも公開しています。この記事とあわせてご覧ください!
Ig Nobel Face-to-Faceとは?
コロナ禍の最中、イグ・ノーベル賞の授賞式はオンラインだけで行われました。でも、対面イベントで受賞者の研究内容やお人柄をもっと知りたい!──そんな期待に応えたのが「Ig Nobel Face- to Face」で、2023年に本国アメリカで始まりました。イグ・ノーベル賞の受賞者だけでなく、ノーベル賞受賞者も登場します。日本では、日本科学未来館を会場に、「笑い」と「発見」を入り口として、科学の面白さや研究の自由な発想を楽しんでもらいたいという思いで最初の年である2023年以降、毎年開催しています。それぞれの研究の魅力や背景について語っていただくとともに、イグ・ノーベル賞授賞式をオマージュしたユーモアあふれる演出も交えながら、会場全体で楽しめるトークイベントです。
2025年イベントの様子
ここからは、2025年の「Ig Nobel Face-to-Face in JAPAN」イベント当日の様子をご紹介します! イベントの幕開けは、授賞式と同様に紙飛行機飛ばしと開会の挨拶からスタートしました。
まず登場したのは、日本科学未来館の副館長・高木啓伸。白衣に黒のガムテープを貼った、とても手づくり感のあるユニークな衣装を身にまとっています。実はこの衣装、2025年のイグ・ノーベル賞で日本人研究者の兒嶋朋貴さんが受賞した研究、いわゆる「シマウシ」をオマージュしたものです。牛に縞模様を描くことで、吸血昆虫が寄りつきにくくなるという研究にちなんでいます。
この演出にあわせて、紙飛行機には吸血昆虫のイラストが描かれていました。来館者が“しましま”の副館長に向かって紙飛行機を投げると——なかなか当たらない。「それは縞模様のせいかも?」と、思わず研究をなぞるような場面もありました。
どうすれば参加者の皆さんに楽しんでもらえるのだろう。未来館のスタッフ自身もイグ・ノーベル賞らしさを全開にして、準備の段階から楽しみながらイベントをつくり上げてきました。開会の挨拶にも、2025年の受賞研究にちなんだひと工夫があります。例えば、事前のミーテイングでは、「爪の長さを測り続けた研究」にちなんで「副館長にギャルみたいなつけ爪をつけてみたらどうだろう?」といったアイディアまで飛び出しました。さぁ一体どんな挨拶のアイディアが実現したのか、その続きはぜひ動画でご覧ください。
第1部:受賞研究者によるスピーチ
幕開けのあとは、受賞研究者の皆さんのトークを通して、科学の面白さを体感していく時間が続きました。登壇いただいたのは、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さん、2025年にイグノーベル生物学賞を受賞した兒嶋朋貴さん、2023年にイグノーベル栄養学賞を受賞した宮下芳明さん、そして2017年にイグノーベル生物学賞を受賞した吉澤和徳さんの4名です。
研究者の皆さんには、5分間という限られた時間の中でご自身の受賞研究について語っていただきました。大学院まで研究をしていた私にとって、5分という時間はとても短く、何も伝えることができないのではないかと思ってしまいます。しゃべりたいことが多すぎてパンクして、結局何も伝わらなくなってしまう……そんなこともよくありました。
しかし、受賞者の皆さんの話は違いました。5分でどんな研究なのかがしっかりわかる。しかも話を聞いていて面白い。納得感があるのに、気になることがどんどん出てくる。そんな発表でした。研究の面白さや本質を深く理解しているからこそ、限られた時間の中でも伝えるべきことを的確に選び取り、参加者の皆さんの興味を引き出せるのだと感じました。科学コミュニケーターとして、そして科学の伝え方を探究する研究者を目指す私にとって、まさに憧れの姿でした。
第2部:対談「ヒトはなぜ科学をするのか?」
ここからは、参加者の皆さんも加わり、会場全体での対話の時間です。テーマは「ヒトはなぜ科学をするのか?」。研究者同士のやりとりや来館者からの質問を通して、科学とはどんなものなのかをあらためて考えました。
参加者の皆さんからの質問タイムでは、質問を募るとすぐに会場のあちこちで多くの方が手を挙げてくださり、終了まで質問が途切れることはありませんでした。皆さんの関心と意欲の強さに驚かされると同時に、「恥ずかしがったりして手が挙がらなかったらどうしよう」という私の心配は、不要だったと思い知らされました。
それはきっと、参加者の皆さんの普段からの科学への興味関心に加え、研究者の皆さんが自分を隠さず人間性を見せ、「どんな質問でも歓迎する」という姿勢を示してくださったこと、そして会場全体に流れていた温かい雰囲気のおかげだと思います。私自身も、「そんな発想があるのか」と驚きながら、ファシリテーションを心から楽しみました。
私がこの対談の時間を設計するうえで心がけたことは、会場に来てくださった皆さん全員が単なる聴衆ではなく「参加者」になることでした。5分間のスピーチを聞いて、それぞれに気になることが生まれていたはずです。その疑問を「くだらない」と思って心の中にしまわず、大切なものとして発信してほしい。そんな思いから、先生同士の質問コーナーの前に、このあと参加者の皆さんの質問タイムがあることを事前にお伝えするなど、自分なりの考えを持ちながら話を聞いてもらえる構成を意識しました。
皆さんのおかげで、「みんなで科学を行う場」を作り上げることができました。本当にありがとうございました。
イベントを通して感じたこと
最後に、このイベントを通して私が強く感じたことをまとめます。研究は、本当に自分の身近なところにあるのだと感じました。自分のいる環境や好きなこと、日常生活の中でのちょっとした違和感や直感、友人や同僚との何気ない雑談。頭を抱えてパソコンの前に向かうことも大切ですが、身近なところにこそ、たくさんの研究や新しいひらめきのヒントが詰まっているのだと思います。
「自分にはできない」と思うのではなく、「これちょっと面白いのでは?」と自分がくすっと笑ってしまうようなことが、誰かの何かを支えたり、考えさせたりする研究につながるのかもしれません。
私自身も、自分の気になることを研究として進めていきたい。そして、いつかイグ・ノーベル賞を取れたら。そんな人生の目標をもらえたイベントでした。
それでは! 恒例の挨拶でこちらのブログを締めさせていただきます。
Goodbye! Goodbye!
関連リンク
- イグ・ノーベル賞公式イベント「Ig Nobel Face-to-Face in JAPAN」イベントページ https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202601104345.html

執筆: 伊藤 映美(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画・運営全般に携わり、来館者への展示解説や対話活動、情報発信を行う。これまで主に、イグ・ノーベル賞や特別展「大南極展」関連、防災イベントの企画・実施を担当。
【プロフィル】
小学生の頃、地域の学習施設に毎週通い、自然や科学技術に関する講座に参加する中で、科学や防災に興味をもちました。そこで出会った先生方に憧れ、科学コミュニケーターを志し、未来館で勤務しています。大学・大学院では福島の放射能汚染や防災教育について学び、研究を行いました。現在は、より多くの人に科学や防災を身近に感じてもらえるよう、イベントの企画や効果的な伝え方について日々考えています。
【分野・キーワード】
防災教育 リスクコミュニケーション 地球科学 イグ・ノーベル賞



