7月22日~23日、「日本DX大賞2026 サミット&アワード」が開催された。これは、DXの現場に立つ実践者が一堂に会し、成功した取り組みだけでなく、うまくいかなかったことも含めて語り合うイベントである。本年で5回目となる「日本DX大賞2026」と、第4回を迎える「日本ノーコード大賞」の表彰式もあわせて実施された。

本稿では、22日の基調講演の様子と、日本DX大賞2026表彰式から支援部門、地域DX部門、庁内DX部門、サステナビリティ部門、価値創造部門、業務変革部門、特別賞の受賞自治体・企業・団体を紹介する。

DXの敵は技術ではなく、「縦割り」

基調講演に登壇したのは、元デジタル庁統括官の村上敬亮氏だ。「協調か自滅か。人口減少時代の新しい地域社会の作り方」と題し、マイナンバーカードの民間活用事例や自治体の交通DXを通じて、DXの本質を語った。

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同氏はまず、マイナンバーカードの交付枚数が1億枚を突破し、民間事業者が本人確認サービスに活用するケースが1000社を超える勢いにあることを紹介した。

代表例として挙げたのが、ゴルフ場予約サイト大手のゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)との連携だ。ゴルフ場のカウンターにマイナ保険証と同じICカードリーダーを設置し、GDOで予約した利用者がマイナンバーカードをかざすだけでチェックインできる仕組みを構築した。既存のインフラを転用し、決済はGDO側で処理する。新規投資がほとんど不要な点も特徴だという。

静岡県伊東市では、ゴルフ場を訪れる観光客が毎回同じ土産物店に立ち寄るだけで帰ってしまう状況を課題視し、地域振興ポイントとマイナンバーカードをひも付けて地元商店街への回遊を促すという取り組みを進めたそうだ。

同様の考え方は能登半島地震の被災地でも用いられた。ATMカードを失った被災者が、マイナンバーカードによる本人確認だけで金融機関から現金を引き出せるようにしたのだ。

これらの事例に共通するのは、技術的なハードルの低さである。既存の本人確認インフラを転用するだけで新たな仕組みを実現しており、大掛かりなシステム開発は必要としていない。

ただ、最初から全てが順調に進んだわけではないと村上氏は明かす。ゴルフ場との交渉では当初マイナンバーカードとの連携を提案したところ門前払いに近い反応を受けたという。そこで、個別に説得するのではなく予約サイト側のGDOと組んで仕組みを展開する方向性に転換した。その後も、組織の意思決定の場では新しい取り組みへの慎重論が根強く、話が止まりかける場面が何度かあったそうだ。同氏はここに、DXが直面する本質的な難しさがあると指摘する。

「DXのための技術は全て揃っており、技術は課題ではありません。DXの敵は縦割りです」(村上氏)

では、縦割りを越えるために必要なのは何か。村上氏は自身の経験から、「正論や命令ではなく“それ、面白いね”という現場の空気」だと述べた。

人口減少が地域を「必然的に」DXへ向かわせる

続いて村上氏は、人口減少と地域サービスの持続可能性の関係について解説した。人口増加期には供給が需要をけん引するが、人口減少期には逆に需要が供給を規定するようになるという。

こうした需給の逆転に対応するために、長野県茅野市はある取り組みをした。朝夕の通勤・通学時間帯以外の路線バスを、事前に利用者の希望時間・行き先を聞いて配車するAIオンデマンドタクシー約20台に切り替えたのだ。その結果、公共交通の利用者数は8万人から14万人へと増加し、市民1人当たりの交通関連補助額は約3分の1減少したという。この変化を、単なる利便性向上ではなく、「1台当たりの乗車効率を維持するために、需要を先に把握して計画的に配車する必要が生まれた結果」と同氏は説明する。

AIを活用したオンデマンド型であれば、従来は前日までに必要だった配車計画をリアルタイムのマッチングへと進化できる。同様の構造は交通に限らない。村上氏は学校統合でのオンライン授業や、経験の浅い研修医をベテラン医師がオンラインで支援するような体制などの可能性にも言及した。

小さく始め、縦割りを越えて広がる - 白馬村の実践

村上氏が最後に紹介したのが、長野県白馬村での交通改革の事例だ。

訪日外国人観光客の急増に伴い、宿泊施設が夕食提供をやめる「宿食分離」が進んだ結果、タクシー配車の需要が急増し、フロント業務をひっ迫する事態が生じた。

この課題を解消するため、地域のタクシー会社5社が競合関係を越えて共同の予約管理システムを導入。さらに、ホテルやレストランへの個別送迎をやめ、駅近くの既存の商業施設を共通の「降車ポイント」として活用するよう呼びかけた。これが相乗りを促進し、タクシー会社の収益性の改善にもつながった。

その後も、この取り組みは必然性に応じて対象を広げていった。高校生のスキー教室と外国人観光客の送迎需要が重なる時間帯の混雑を解消するため、教育委員会と調整してスキー教室の終了時刻を変更した。また、日中の稼働率向上のため、AIオンデマンドタクシーの一部を社会福祉施設向けの送迎に転用するなど、当初は交通問題として始まった取り組みが、教育や福祉の領域を巻き込みながら拡大していった。

こうした展開の在り方こそがDXの本質だと村上氏は力を込める。

「本当にうまくいくDXは、小さな必然性から始まり、教育委員会や社会福祉といった他の領域を巻き込みながら広がっていくものです。逆に、最初から大きく整った絵を描いてしまうと、責任の所在や予算の出どころをめぐる議論が煩雑になり、結局やめてしまうことになります」(村上氏)

小さな一歩の積み重ねが、組織の壁を越える力になる。同氏の講演は、そのことを改めて印象付けるものとなった。

講演に続いては、日本DX大賞2026表彰式が執り行われた。以降では、各部門の受賞企業・団体を紹介しよう。

支援部門表彰式

自治体・商工会議所・金融機関・産業支援機関・大学などが、他者のDX推進を支援した取り組みを対象とする。戦略性、変革力、価値創出、推進力、展開性の5つが審査基準。

大賞:ふくおかフィナンシャルグループ

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プロジェクト名:4,000社を訪問した地銀のDX支援 ― 現場対話を起点に戦略策定・業務改革・IT導入まで伴走

評価ポイント:約7年間で4,000社を訪問し、地域の中小企業が抱える悩みを一つひとつ解決してきた実績を評価。銀行単独ではなく地域のITベンダー等と連携し、良い取り組みを互いに広げていく姿勢が高く評価されました。

優秀賞:堺市・堺DX推進ラボ

プロジェクト名:“デジタル化止まり”を超えろ!堺DX推進ラボの挑戦 ~堺 NeXt Driveで本質的なDX支援を実践~

優秀賞:NTT DXパートナー

プロジェクト名:「取り残さない中小企業DX支援」は、こうして社会実装された。〜地域金融機関と創る、中小企業DXの新常識〜

奨励賞:北九州産業学術推進機構

プロジェクト名:個社のDXから地域のDXへ ― 北九州地域DX共創モデルの構築

地域DX部門表彰式

行政機関・地域団体による住民サービス向上、窓口改革、地域課題のデジタル解決などが対象となる。審査基準は戦略性、変革力、価値創出、推進力、展開性。

大賞:横須賀市

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プロジェクト名:「待ちの保健指導」から「攻めの予防」へ AI×ビッグデータ×人の温もりが生み出した全国初の一貫支援モデル

評価ポイント:予備軍段階でリスクを予知する着眼点、40名規模の実証における高い継続率、トップから現場までの強いコミットメントが評価されました。医療データ領域で企業と連携した全国へ広がる可能性を秘めたモデルです。

優秀賞:日本ヘルスケアプラットフォーム

プロジェクト名:地域の医療をデジタルでつなぐ!「紙・電話・FAX」からの卒業

奨励賞:熊本県玉名市

プロジェクト名:変革の連鎖 デジタルツイン×防災・都市政策・関係人口・インフラ

奨励賞:磐田市立総合病院

プロジェクト名:病院の課題解決から近隣自治体へ展開!静岡県西部地域を支える「介護タクシーWEB予約システム」

庁内DX部門表彰式

行政機関による業務プロセスの改善、働き方改革、職員の業務効率化などが対象となる。審査基準は戦略性、変革力、価値創出、推進力、展開性。

大賞:福島市・富士フイルムシステムサービス

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プロジェクト名:被災者支援DXで庁内業務を大幅に軽減 ~迅速・確実な支援を実現する福島市モデル~

評価ポイント:住民基本台帳と被災者台帳を連携させ、申請主義で漏れがちな被災者へプッシュ型で支援が届く仕組みをアジャイル開発。平時利用が有事の備えとなる設計で、他自治体への横展開モデルとして選ばれました。

優秀賞:玉名市役所

プロジェクト名:「備災DX」の確立と持続可能なインフラ保全 ─10年3巡の現場知×SIPが打ち破る「無理ゲー」─

奨励賞:長崎県

プロジェクト名:「現場」が主役、「改援隊」は黒子 ― 3年時限・10名専任チームが、職員の手で業務改善が自走する文化をつくる長崎県の挑戦

奨励賞:日向市

プロジェクト名:庁内生成AI活用の効果を見える化する共通ロジックの確立

サステナビリティ部門表彰式

環境・社会課題への対応を契機に、事業構造や経営判断の仕組みを変革した取り組みが対象となり、戦略性、変革力、価値創出、推進力、展開性の5つが審査基準である。

大賞:もりやま園

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プロジェクト名:廃棄ゼロ・労働生産性4倍を目指す りんご園のDX革命

評価ポイント:一次産業の構造課題に対し、背景にある思いや思想に真摯に向き合った点。一農園から業界全体を盛り上げ、次世代へつなぐ姿勢が高く評価されました。

優秀賞:クラダシ

プロジェクト名:AIで「余らせない」を設計する 滞留予測AIで実現する、食品ロス原因療法型DX

優秀賞:会津若松市上下水道局

プロジェクト名:IoT×官民連携で実現する「水道工事施工情報システム」の実装化 ─地域水道の持続を守る水道工事DX戦略

奨励賞:松江土建×フォーラムエイト

プロジェクト名:3Dデジタルツインが実現する「次世代スマート除雪支援システム」

価値創造部門表彰式

顧客体験の創出やビジネスモデル変革により、新たな価値を生み出した取り組み、DXの推進により、事業モデル・収益モデル・顧客体験が根本的に変わった事例が対象となる。審査基準は戦略性、変革力、価値創出、推進力、展開性の5つ。

大賞:追手門学院

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プロジェクト名:学生体験(CX)を軸にしたDXへの挑戦 OIDAI DXプロジェクト

評価ポイント:効率化に偏りがちな学校DXにおいて「学生の体験価値」を起点に据えた点。試行錯誤の過程を学生の学びにつなげ、卒業後もつながる仕組みへの発展性が高く評価されました。

優秀賞:アート引越センター

プロジェクト名:引越し業務におけるRFIDを活用した“ART RFID Evolution”システム

優秀賞:ヒューマングループ

プロジェクト名:ヒューマニティー経営 自社DXを価値に変え地域へ広げる One-Chat DXモデル

奨励賞:Seibii

プロジェクト名:「品質を作り込む」DXが、整備士を社会の主役に ~整備士1,300名の現場品質を8名で支える仕組み~

業務変革部門表彰式

社内の仕事・働き方・意思決定が変わった取り組み(生産性、標準化、内製化、データ活用など)が対象となる。審査基準は戦略性、変革力、価値創出、推進力、展開性の5つ。

大賞:大成建設

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プロジェクト名:T-BasisX:建築DX標準基盤 ―「夢のある建築現場」実現のために―

評価ポイント:建設業界が直面する人手不足や資源高騰の課題に対し、業界のイメージを根本から変えるほどのラジカルな業務変革に取り組み、確実な成果を上げている点が高く評価されました。

優秀賞:三共電機

プロジェクト名:中小製造業がローコードとデータ連携で自走する仕組みづくり ~現場主導で進化し続けるDX~

奨励賞:大阪ガス

プロジェクト名:120年の「いちびり精神」×独自AI基盤:6,000人の熱量で創る22万時間と社会価値

奨励賞:東京ガスネットワーク

プロジェクト名:DXによる他工事巡回優先順位付の高度化・簡易化 ~スリムで持続可能な体制の構築~

特別賞表彰式

ポスターセッション賞(最優秀賞):掛川市

プロジェクト名:変えてみよう、市役所の「あたりまえ」~100人のリーダーが切り拓く掛川市のDX~

ポスターセッション賞(最優秀賞):オリエントコーポレーション

プロジェクト名:【データ利活用ユースケース拡大】・【人材育成・データ基盤整備】・【データビジネス拡大】の三本柱による、包括的データ活用によるDX変革

ポスターセッション賞(優秀賞):高エネルギー加速器研究機構

プロジェクト名:研究者×伴走型リーダーシップで挑む!「支援の連鎖」で創る「持続可能な運営モデル」

ポスターセッション賞(優秀賞):ホリエ

プロジェクト名:人をシステムに合わせない「優しいDX」

勘定奉行クラウド賞:ふくおかフィナンシャルグループ

プロジェクト名:4,000社を訪問した地銀のDX支援 ― 現場対話を起点に戦略策定・業務改革・IT導入まで伴走(支援部門大賞と同一プロジェクト)

Field Transformation DX Award:ニイミ産業

プロジェクト名:ガス配送・点検業務のDX化プロジェクト

オーディエンス賞(事前投票最多得票):福島市・富士フイルムシステムサービス

プロジェクト名:被災者支援DXで庁内業務を大幅に軽減 ~迅速・確実な支援を実現する福島市モデル~

オーディエンス賞(事前投票最多得票):会津若松市上下水道局

プロジェクト名:IoT×官民連携で実現する「水道工事施工情報システム」の実装化 ─地域水道の持続を守る水道工事DX戦略

以上、本稿では基調講演の様子と各部門賞の受賞企業・団体を紹介した。23日に実施された個人賞の表彰式については、こちらの記事でレポートしている。併せてぜひご覧いただきたい。