わが国の物資補給機「HTV-X」初号機が30日未明、国際宇宙ステーション(ISS)に到着した。2009~20年に活躍した「こうのとり」の後継機で、能力を大幅に強化。各種の実験機器、飛行士の食料や衣料など、ISSの活動に不可欠な物資を無事に届けた。ISS船内でロボットアームを操縦し、HTV-Xを捕捉した油井亀美也(ゆい・きみや)さん(55)は「日本の宇宙計画における歴史的なできごと。この金色の宝箱を開けるのが待ちきれない」と喜びを語った。

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    衛星搭載アダプター。H3ロケットの2段機体の上部に取り付けられ、この上に衛星が載る。製造時に内部で生じた剥離が、8号機失敗を招いた(JAXAの報告資料から)

8号機は昨年12月22日、政府の準天頂衛星「みちびき」5号機を搭載し、種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられた。しかし2段エンジンの燃焼に異常が発生し、衛星を所定の軌道に投入できず失敗した。飛行データから打ち上げの3分45秒後、ロケット上端の衛星搭載部のカバー「フェアリング」を分離した直後に、2段機体の上の、衛星を載せる部分が損傷したことが分かった。

原因究明のため、製造済みの衛星搭載アダプターを調べたところ、製造時に部材を貼り合わせた部分の周辺で、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の表面と、アルミ製の内部との間が想定以上に剥離していたことが分かった。アルミ製の内部は軽量化のため、空洞の小部屋が並んだハニカム(蜂の巣状)構造となっている。

再現実験の結果、部材を接着剤で貼り合わせる前に衛星搭載アダプターなどを加熱して乾燥させた際、部分的に規定以上の高温になったことが分かった。その高温部分の接着力が弱まり、かつハニカム構造の中の空気が温まって膨張したことで、CFRPとアルミの間に剥離が発生していた。打ち上げ時に機体が真空に到達すると、内外の圧力差などで剥離が拡大した。フェアリング分離時の衝撃で、この剥離が起点となって破壊が広がったとみられる。

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    衛星搭載アダプターは4枚の扇形パネルを組み合わせて完成する。H3ではスプライスと呼ばれる部材を接着剤で貼り合わせる。内部はハニカム構造。製造時の高温などにより、右図の赤い部分に剥離が生じ、8号機失敗を招いた(JAXAの報告資料から)

 こうして衛星搭載アダプターが座屈し、衛星とともに2段燃料タンクの方へと落下した。その結果、燃料タンクの配管が壊れ、タンク内の圧力が低下してエンジンの燃焼に異常が生じた。さまざまなデータや検討からJAXAは、この過程が8号機失敗の主要因である可能性が極めて高いと結論づけた。他の要因が関係した可能性は低いが、今後さらに検証するという。

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    衛星搭載アダプターが座屈し、衛星とともに2段燃料(LH2)タンクの方へと落下。燃料タンクの配管が壊れた(JAXAの報告資料から)

衛星搭載アダプターの組み立ては、昨年6月に運用を終了した先代の「H2A」ではボルトで固定する方法を採用していた。H3では軽量化や低コスト化のため、CFRP製の部材で貼り合わせる方法に変更した。貼り合わせの接着力は、飛行中に生じる圧力差に十分耐える設計だった。製造や検査も規定通り行われたが、製造時の高温や接着力低下、ハニカム内の空気の影響による剥離を、H3の開発段階に想定できていなかった。

再発防止策として、衛星搭載アダプターの組み立てについて、次の2つの方式を検討した。(1)製造済みのアダプターの、剥離した部分や接着が弱い部分を補修する方式、(2)H2Aで採用していたボルト固定に改善の補強策を加える方式。いずれも十分な強度となることを確認したという。

JAXAは今後の当面の打ち上げでは(2)のボルト固定方式を採用する。ただし、次に打ち上げる6号機は試験機のため(1)の補修方式を採用。原因究明の正しさの検証やデータ取得に役立てる。なお、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ補給機「HTV-X」を搭載する際のアダプターは設計が異なり、対策の対象外という。

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    再発防止策として、衛星搭載アダプターの組み立てについて2方式を検討した。(左)製造済みのアダプターの、剥離した部分や接着が弱い部分を補修する方式、(右)H2Aで採用していたボルト(ファスナ)固定に改善策を加える方式(JAXAの報告資料から)

今月13日、小委員会に報告したJAXAの有田誠プロジェクトマネージャは「このような複合要因は、初めて経験するような現象だった。“テスト・アズ・ユー・フライ(実際の飛行と同条件で試験すること)”を標榜(ひょうぼう)してやってきたが、真空での衝撃試験は現実には難しく、できていない部分があった。教訓を今後に生かしたい」と述べた。

H3は2段式の液体燃料ロケット。H2Aと、2020年に終了した強化型「H2B」の共通の後継機で、JAXAと三菱重工業が開発した。政府は固体燃料の小型機「イプシロン」と共に、基幹ロケットに位置づけている。初号機は23年3月、電気系統の異常で2段エンジンに着火できず失敗し、地球観測衛星を喪失した。対策を講じ、その後は昨年10月の7号機まで5回連続で成功していた。

ブースターなし「最小形態」6号機打ち上げへ

今年度に打ち上げる6号機は、固体ロケットブースターを装備しない最小の機体構成「30形態」とする。国産大型ロケットでは初の形態だが、開発に時間がかかり、ブースターのある7、8号機を先に打ち上げた。

6号機の昨年7月の燃焼試験では、燃料タンクの圧力が十分に上がらない問題が発生。原因はエンジン3基のうち1基の系統で、コスト削減のため、タンクの加圧ガス弁を取り付けなかったことだった。ガスの流量を調整する対策を講じ、2回目の燃焼試験を先月15日に実施した。JAXAは対策が有効であることを確認し、検証を概ね終えたとしている。

6号機は30形態の試験機とし、大型衛星ではなく、金属製のダミーの重りと超小型衛星6基を搭載する。8号機失敗後の復活飛行にも位置づけられ、成否が注目されている。

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    H3ロケット6号機の2回目の燃焼試験。1回目に生じた課題の対策の有効性を確認できたという=先月15日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

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