宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月24日、文部科学省の宇宙開発利用部会/調査・安全小委員会において、H3ロケット8号機の打ち上げ失敗に関する原因調査状況を報告した。前回、衛星搭載部で剥離という有力な手がかりが見つかっていたが、それ以外の要因はほぼ排除、原因の特定に近づいた。今回の報告では、この問題への是正対策も示された。
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剥離から破壊に至るメカニズム
今回問題が発生したと考えられている衛星搭載アダプタ(PSS)は、衛星の荷重を支える円錐形の土台だ。PSSを構成するハニカムパネルは、表面のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)スキンと、内部のアルミコアで作られているが、前回2月25日の報告で明らかになったのは、製造工程でスキン/コア間に想定以上の剥離が発生していたことだ。
剥離が見つかったのは地上で保管していた製造済みのPSSだが、8号機に搭載したPSSも剥離があった状態で飛行していた可能性が高い。剥離があると、ハニカムパネルの強度は低下する。しかし、それが飛行中にPSSの破壊にまでどうつながるのか、これまでの打ち上げではなぜ発現しなかったのか、といったことは分かっていなかった。
今回、原因の特定にこそ至らなかったものの、試験や解析などにより、この解明が大きく進展。JAXAの有田誠・H3プロジェクトマネージャは、「データに基づく原因究明は9割方、原因の特定は6割方終わった」との見方を示した。
まず、飛行中に剥離が拡大するかどうか調べるため、剥離部の周辺を部分的に真空にする試験を実施。コア内部には1気圧の空気があるため、その差圧でスキンを外側に引き剥がそうとする力が発生するが、その力で剥離が拡大することが分かった。今後、パネル全体を真空チャンバーに入れて確認する試験を追加で実施する予定だ。
さらに、フェアリング分離時に短時間で破壊に至るかを調べるため、飛行中の荷重と衝撃を再現した試験を実施したところ、瞬時に剥離が進展することが分かった。また解析により、剥離が広がった場合にはパネルの剛性が失われ、瞬時に全体破壊に至る可能性を確認。今後、詳細モデルを使って、このメカニズムをさらに検証する予定だ。
PSS内部の剥離が打ち上げ失敗の原因と断定するには、まだこれら試験や解析の結果を待つ必要があるものの、今のところ飛行中に剥離が拡大し、フェアリング分離の衝撃で一気に破壊に至ったというシナリオに矛盾はなく、確度がより高まった。
なお、FTA(故障の木解析)については、PSS内部の剥離以外にも4つの要因が残っていたが、試験や解析の結果、ひとつを排除。まだ△(可能性あり)が3項目で残っているが、いずれも「単独で主要因とはならない」と結論付けられており、この点からも、剥離が原因である可能性がきわめて高くなったといえる。
カメラ映像の事象も確認
今回の打ち上げでは、フェアリング分離時、オンボードカメラの白飛びが通常より長く続いていたことが特徴的だった。この現象については、PSSの破壊によってハニカム内の空気が真空中に噴出し、断熱膨張で温度が低下して水分が霧状になり、フェアリングの隙間から入った光が散乱したと想定。CGや試験による再現で、それを確認した。
また、衛星のMLI(多層断熱材)やパネルが、内部からの圧力で吹き飛んだように見えた現象については、衛星メーカーから提供されたモデルを使って解析を実施。ロケット側の壊れた加圧配管から高圧ヘリウムなどが衛星内に流れ込み、フェアリング分離後0.9秒ほどで、パネルを破断する圧力に到達することが分かった。
剥離はなぜ発生したのか
PSSでの剥離が原因となった可能性がより高くなったが、この剥離はなぜ生じたのか。そのメカニズムが次の焦点となる。
PSSは、まず4分割の状態でハニカムパネルを製造。次に、スプライスというCFRPのシートで継ぎ目を接着し、結合する。パネル製造後には超音波で剥離がないことを確認しており、スプライス接着後も接着部のみ異常がないことは検査していたが、その周囲までは調べておらず、剥離の発生を見逃してしまっていた。
今回、実機パネルを使い、スプライス接着工程を再現したところ、接着前に乾燥させるための加熱で、剥離の発生が確認できた。この加熱にはヒーターを使うが、ふたつのヒーター間のパネル温度が想定以上に上昇。その部分を切り出して試験したところ、スキン/コア間の接着強度が低下していることが分かった。
ハニカムコア内部には空気が閉じ込められており、加熱による膨張で圧力が上昇する。強度が低下したところで接着が剥がれ、スキンの剥離が発生したと考えられる。
また、8号機で使用したPSSの製造・検査記録を詳細に確認したところ、ほかの号機との差異として、スプライス接着を実施した時期が9月であり、接着前のパネルが高温・多湿の環境下で一時保管されていたことが分かった。
接着剤は一般的に、加湿によって強度が低下する。スキン/コア間はパネル内部のため、外気に直接露出はしていないものの、スキンが非常に薄いため、水分が透過して接着剤が吸湿した可能性があるという。吸湿の影響を評価する試験を実施したところ、吸湿によって接着強度が約25%低下することが分かった。
つまり、8号機では、より大きな剥離が発生していた可能性があるということになる。2号機で使用したPSSも似た条件であり、同じように剥離が発生しやすい状態だったが、搭載衛星が約2.6トンと軽かったため、耐えられた可能性がある。それに対し、8号機は約4.8トンと重く、ここで初めて発現したと考えても矛盾はない。
ちなみに、H3ロケットでは、フェアリングでも同様のスプライス接着を行っていたが、追加で検証したところ、剥離はまったく見つからなかった。フェアリングは海上に落下後水没させるために、PSSと違って穴開きのハニカムコアを使用している。接着時に加熱しても、空気が外に逃げて圧力が上がらず、剥離しなかった可能性がある。
となると、PSSも穴開きのコアにすれば問題が解決する可能性があるが、「接着時に空気が抜かれ、表面のスキンが中に落ち込む副作用もあり、現場からはできれば避けたいという声があった」(有田プロマネ)という。
剥離の対策として2案を検討
まだPSSでの剥離が原因と特定されたわけではないものの、いずれにしてもこの問題への対策は不可欠。今回の報告では、JAXAから「補修案」「ファスナ結合案」という、ふたつの対策が示された。
補修案は、製造済みのPSSで見つかった剥離を直して、フライトに使おうという案だ。剥離していた部分だけスキンを除去し、内部に樹脂を充填した後、外側をスキンで接着するという。この案は、すでに製造済みのPSSを使うため、比較的短期間で実現できるというメリットがある。
一方、ファスナ結合案は、ボルトで固定する方式に変更する案だ。H-IIAではファスナ結合が採用されていたが、H3では軽量化と低コスト化のために、新方式の接着結合に変更していた経緯がある。これをファスナ結合に戻すとなれば、重量増とコスト増になるのがデメリットだ。
H-IIAでの実績がある方式とはいえ、H3に適用するには、新たに設計する必要がある。ただ、結合前の製造済みハニカムパネルが数機分あり、これに適用することは可能だという。ハニカムパネルから作り直すわけではないので、そこまで長い期間が必要になることはないだろう。
JAXAは今後、技術的な成立性、質量等へのインパクトなどを検討し、対策方針を決める。H3ロケットは早期の飛行再開をめざす必要があり、当面はこの暫定案で進めるが、JAXAは別途時間をかけ、恒久的な対策も考えていくという。もし接着結合のままで行くのなら、そもそも剥離を発生させないよう、製造工程から改善する必要がある。
飛行再開の時期については、今回も言及はなかった。ただ、ここまで原因の特定が進んだ上、PSSの剥離の対策もすでに開始されている。おそらく次回の報告では、原因の特定が完了し、そのあたりの計画も見えてくるのではないだろうか。











