
与野党間で繰り広げられた激しい駆け引きの末、自民党の高市早苗総裁が第104代首相に選出され、高市内閣が発足した。自民党と日本維新の会による初の連立政権はどこに向かうのか。物価高、財政再建、社会保障改革、外交・安全保障……。課題が山積する中、憲政史上初の女性首相となった高市の手腕に注目が集まっている。
公明離脱で政界混迷
「未来への不安を希望に変える」─。高市は首相就任後初めての記者会見で自らの内閣を「決断と前進の内閣」と命名し、こう力を込めた。
「国家国民のため多数を形成し、政治を安定させる。国家国民のためであるならば決してそれをあきらめない。これがこの内閣の不動の方針だ」。笑顔を浮かべながら熱弁を振るうその姿からは、固い決意がにじむ。
4日の自民党総裁選で小泉進次郎らを破り、女性として結党以来初の総裁の座を射止めた高市。だが、首相の座までの道のりは、波乱の連続だった。
「落とし穴」となったのが、26年間連立を組んでいた公明党の離反だ。公明と支持母体の創価学会は総裁選中から「高市総裁の場合は離脱」の方向性を決めていたフシがある。だが公明とのパイプが乏しい高市は、公明の「本気」にギリギリまで気づくことはなかった。10日の自公党首会談で、公明代表の斉藤鉄夫から離脱の意向を告げられ、「一方的に、連立政権からの離脱を伝えられた」と不満をあらわにしたが、これを機に、政局はめまぐるしく動いた。
勢いづいたのが、野党第1党の立憲民主党だった。幹事長の安住淳は「十分、政権交代の可能性が出てきた」と高揚感をにじませた。代表の野田佳彦は記者会見で「矜持と覚悟だけでは物事が動かない。『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』ということもあり得る」と表明した。
描いたのは、首相選出選挙(首班指名)で国民民主党代表の玉木雄一郎を念頭に一本化を図る構想だった。「高市首相」の見通しは一気に不透明さを増した。高市サイドにとって、最も誤算だったのは国民民主の「自民離れ」だった。
自民党の議席数は、定数465の衆院で196議席、総定数248の参院では101議席にとどまる。公明党の議席(衆院24議席、参院21議席)を足しても両院ともに過半数に満たない。かたや、昨年の衆院選と今年7月の参院選で躍進した国民民主党の議席数は衆院で27議席、参院で25議席。自公連立に国民民主党を加えれば、安定政権を築くことができる。
この構想は高市の「後見役」の副総裁・麻生太郎も後通しし、高市は総裁選翌日の5日、国民民主党の玉木と密かに会談。連携に向けた働きかけを強めていた。玉木を財務相として閣内に招き入れる腹づもりもあった。ところが、公明の連立離脱直後から玉木の態度は一変した。「公明党が抜けたら仮に加わっても、(衆院では)過半数にいかない」。玉木はこう強調し、自民との連携も「あまり意味のない議論になってきている」と突き放した。
幻の「玉木首相」
窮地に追い込まれた高市がすがったのは日本維新の会との連携だ。
高市は自民党奈良県連会長だった2023年、同県知事選で自らに近い総務官僚を擁立し、維新の候補者と激しく戦った経緯がある。高市にとっては、維新は遠い存在だったが、その維新にとっても事情は同じだった。
維新は当初、「改革志向」で共鳴する小泉との連携を模索し、維新代表の吉村洋文(大阪府知事)も小泉を「約束したことは実行する数少ない改革を実行できる人」と評価し、秋波を送った。総裁選での小泉の敗北は維新にとっては痛手だった。
総裁選直後、吉村は「高市総裁」への感想を聞かれ、「一緒に政治をやってきたり、詳しく話したりしたことはないので、評価できるものを持ち合わせていない」とそっけなく突き放した。
自民と維新の「遠い距離」をつなぐカギとなったのが、維新国対委員長の遠藤敬だ。維新に人脈が乏しい高市にとって、遠藤は食事を共にしたことがある数少ない知人だった。遠藤は公明の連立離脱が決まる前日9日夕、高市にねぎらいの言葉をショートメッセージで送った。これが両党を結びつけるきっかけとなった。
30分後に高市は遠藤に電話し「維新ともうまくやっていきたい」と呼びかけた。このとき、高市は公明が離反するとは思っていなかったが、この電話が維新を引き寄せる呼び水となった。
公明の連立離脱から2日後の12日夜。高市は維新共同代表の藤田文武と東京・赤坂の衆院議員宿舎の会議室で密かに会った。3時間にわたる協議の末、維新側は高市の本気度を感じ取った。
高市は翌13日夕、吉村にも電話で協力を呼びかけた。これを機に自民、維新両党は一気に協議を進め、15日夕に、吉村が大阪から上京して高市と直接会談し、連立に向けた政策協議入りで合意した。「高市新総裁の熱量も本気度も含めて判断しました。私どもも本気でぶつかっていく」。会談直後の吉村の宣言は他党を驚かせた。実はこの会談の2時間前、立憲民主、国民民主、日本維新の会による初の3党党首会談が開かれていた。
会談直後、「スタートとしてはよい意見交換ができた」と手応えを語っていた野田は、吉村の宣言に顔色を失った。「自民党と維新が接近しているという情報は入ってきていたが、政策協議までまとめるというところまでは予想していなかった」。野田は後日、こう振り返った。
この3党会談の席上、玉木は藤田に「(首相指名選挙で)高市さんって書くんですか?」と尋ねた。藤田の「(自維党首会談で)決まるわけではない」との返答に安堵した玉木だが、この日の夜、自身のユーチューブ番組で藤田への怒りをぶちまけた。
「つい数時間前まで藤田さんと野党の統一候補を目指して真剣に議論していた。二枚舌みたいな感じで扱われて残念だ」
玉木から名指しで批判された藤田は2日後の17日、「連携は難しい」として3党協議の打ち切りを表明した。この瞬間、「玉木首相」は幻となった。
維新にくすぶる警戒感
高市と吉村は20日夕、国会内で会談し、連立政権合意書に署名し、初の自民・維新による連立政権樹立が固まった。合意書の文面には、双方に対する配慮がにじんだ。維新が政策協議で自民に対し、12項目にわたる政策の実現を求めたが、自民が難色を示した「食品消費税2年間ゼロ」と「企業・団体献金の禁止」は事実上棚上げし、合意を優先させた。合意書では、「(食品消費税2年ゼロも)視野に法制化につき検討を行う」との表現にとどめた。
企業・団体献金については維新の「完全廃止」と自民の「禁止より公開」の双方の主張を明記する玉虫色の内容となった。
ただ、両党がどこまで結束を強められるかについては、不透明さが残る。維新は自民との「調整役」として遠藤を首相補佐官に充てながらも閣僚を出さない閣外協力の枠組みにこだわった。
もともと維新は統治機構など独自の政策実現を目指す改革政党で自民と一線を画しており、合意文書で結んだ「約束」が履行されないことへの警戒感は強い。維新には苦い記憶がある。
維新は昨年の通常国会で、当時の岸田文雄首相と調査研究広報滞在費(旧・文書通信交通滞在費)の見直しなどで合意文書を交わし、衆院での政治資金規正法改正案の採決で賛成した。ところが自民は維新との合意を事実上、反故にし、維新の要求実現を先送りした。猛反発した維新は参院の同法案採決で反対に回り、岸田首相の問責決議案も参院に提出した。
維新の党内では、この記憶は鮮明に残っている。今回の政策協議でも、当時、岸田首相に「だまされた」と憤慨した前共同代表の馬場伸幸らが閣外協力を強く主張した。維新側の不信感が残る中、両党結束の焦点となるのが、維新が自民に求めた「副首都構想」「社会保険料引き下げを含む社会保障改革」「議員定数1割削減」の3つの政策だ。
「副首都構想」は東京の一極集中を是正し、災害時などに備えて首都・東京のバックアップ機能を持つ地域を創出するのが目的。そこには中央省庁の一部移管なども含まれる。国の持つ権限や財源を副首都に移すことで地域の成長につなげるのも狙いだ。維新が念頭に置くのが、大阪の副首都認定で、同党が過去2回の住民投票で否決された「大阪都構想」の実現も視野に入れる。
合意書では、21日召集の臨時国会中に協議体を設置し、来年の通常国会中に「法案を成立させる」と明記した。ただ、この構想は副首都の選定地が「大阪ありき」と映れば、他地域から反発を受けるのは確実だ。
社会保障改革については、維新は現役世代が負担する社会保険料を年6万円削減する案を提示している。合意書では、今年度内に「具体的な骨子で合意」し、来年度から「具体的な制度設計を行い、順次実行する」ことを盛り込んだ。自民も現役世代の負担軽減を目指す方向には賛同する意見は多いが、焦点はその財源だ。
維新が主張するのは、年4兆円以上の医療費削減。具体的には、市販薬と似たOTC類似薬の保険適用除外、余剰病床約11万床の削減、所得に応じた窓口負担への見直しなどで対応できる─などと説明するが、自民内では「財源を本当に確保できるのか」と懸念する声が出ている。
議員定数削減については、合意文書では衆院の小選挙区比例代表並立制の廃止や中選挙区制の導入も含めて検討するとし、今年度中に「両党による協議体を設置する」との表現にとどめた。だが、少数政党の切り捨てにもつながりかねず、立憲民主や公明などは早くも「比例代表の削減」に反発している。
温度差埋められるか
3つの「絶対条件」以外で注目されるのが、今後の経済財政対策だ。成長戦略を巡っては自民と維新の方向性は微妙に食い違う。
もともと高市は安倍晋三政権が進めた経済政策「アベノミクス」の継承・発展を提唱している。掲げるのは、安倍政権が掲げた「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間活力を引き出す成長戦略」の「3本の矢」のうち、3本目を「大胆な危機管理投資・成長投資」に代える「サナエノミクス」だ。
高市は首相就任後の記者会見で「内閣の成長戦略の肝は危機管理投資だ。経済安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障など様々なリスク、社会課題に官民手を携えて、先手を打って行う」と宣言した。高市は危機管理投資の財源については赤字国債の発行も辞さない構えを示している。こうした姿勢が、「歳入と歳出の抜本的な見直しにより財政の健全化を図る」と公約に掲げた維新にどう映るのか。今後の焦点の1つとなる。
数々の溝がありながら、連立政権樹立という共闘を選んだ自民と維新。初の女性首相・高市はいかに初の自維連立政権を動かすのか。その手腕が早くも問われている。(敬称略)