電脳社長・尾﨑保生〈日本再生をどうするか?〉運転適性検査を手がけて約60年 なぜ今、交通事故が多いのか?【第1回】

営業マンが交通事故を起こせば、その企業のブランドイメージが地に落ちる─。そんなリスクを抱える中、企業からの安全運転研修の要請を受けている企業がある。運転適性検査「OD式安全性テスト」の開発・販売などを手がける電脳だ。社長の尾﨑保生氏は「適性検査は一人ひとりの個性や特性を把握するためのツール」と強調する。交通事故を未然に防ぐためには何が必要なのか。話を聞いた。

 交通事故が企業の損失に

 ─ 自動車の安全性能の向上などで2024年の交通事故件数は30万件弱と減っていますが、事故ゼロは実現していません。ドライバーの安全教育などを主軸とする電脳の使命と役割から聞かせてください。

 尾﨑 青臭い言い方になりますが、企業は社会に役に立つことをやって初めて成り立つ存在です。これは私の父にも言われましたし、実際に今までの仕事を通じても、それを感じています。その中で当社の仕事とは何なのか。それがまさに「安全・安心」の実現になります。

 安全・安心とよく言われますが、社員が安全に、かつ、安心して車を営業活動などに使うことができれば、それは当社が社会に貢献していることになります。というのも、企業か個人かにかかわらず、交通事故は経済的な損失をもたらしますし、企業ブランドのイメージダウンにもつながってしまうからです。

 ─ 事故を起こした企業にマイナスのイメージがつけば、事業にも影響が出ますからね。

 尾﨑 大企業であっても、保険をかけているから、それで済むということはあり得ません。もし事故を起こせば、その対応のための人件費などの事故関連経費がかかりますし、次回からの保険料の支払額も増えます。

 逆に言えば、事故を減らすことさえできれば、保険料の支払額は減りますので企業経営にはプラスになります。一方で中小企業の場合は事故をきっかけに倒産することもあり得ます。

 その意味では、1962年に当社が開発に着手し、67年に誕生した運転適性検査「OD式安全性テスト」は全国の多くの自動車学校で採用され、初めて免許を取得しようとする教習生が自分の運転適性に気づくことができる検査になります。

 安全運転に関わる大きな4つの領域「運動機能」「健康度・成熟度」「性格特性」「運転マナー」をベースに、16個の特性を測定し、運転適性を診断します。教習生自身が運転に対する心構えや特性を知るきっかけにもなります。

 それをきっかけとして、事故のない社会を生み出すことができれば、当社が社会に貢献できていると言えるのではないかと思います。

 思いやりや気配りをもう一度

 ─ この場合の肝とは。

 尾﨑 自動車は手と足で動かしているように思うかもしれませんが、最も肝心なのは考え方や心になります。運転をする上で大事なのは、もちろん運転操作の技術です。これは間違いありません。自動車を走らせるわけですから、ルールも最低限は知っておかなければなりません。

 しかし、それ以上に大事なことがあると思うのです。それは人への思いやりや歩行者に道を譲ってあげるなどという気配りといったものです。日本には昔からそういう文化がありました。

 ─ インバウンドが増えていますが、日本人の気配りに感動する外国人がいるほどです。

 尾﨑 ええ。私はJICA(国際協力機構)の海外協力隊の専門家として開発途上国で安全運転の普及のお手伝いをしたことがあります。そのときに数多くの外国人と接してきたのですが、キリスト教徒にしても、イスラム教徒にしても、外国人のものの考え方と日本人のものの考え方は大きく違うと感じました。

 外国人は神に反すると罰せられるといった考え方をしますが、日本人はお天道様が見ているから、人として恥ずかしいことをしてはいけないといった考え方をします。恥の文化と言いましょうか。だからこそ、様々な災害が起きたときでも、外国人が日本人の素行を見て、高く評価してくれると思うのです。

 ─ 東日本大震災のときも強盗などが起きませんでした。

 尾﨑 はい。だからこそ、この心が大事になってくるのです。ただ、心と簡単には言いますが、それは一朝一夕で身につくものではありません。それこそ、幼少期からの両親のしつけや学校教育、あるいは地域社会を経て自然と身についてくるものです。

 ─ 昔は雷おじさんと呼ばれる近所に住む人が子どもを叱ったりしていましたからね。

 尾﨑 ええ。ところが今はどうでしょうか。最近では学校でも厳しいしつけはできなくなっているようですし、家庭でも両親が悪いことをした子どもをしっかり叱ることも少なくなったように感じます。それは若い子たちの言動を見ていて感じます。

 自動車学校の教習は、学科教習が26時間、技能教習が34時間というルールは変わっていません。しかし、技能教習の中で実際に走行しているときに指導員が何を教えなければいけないかというと、先ほど申し上げたような人に対する思いやりや、人としてやってはいけないことです。

 ─ それがあまりできていないということでしょうか。

 尾﨑 はい。おそらくインターネットがその一因だと思います。ネット上での誹謗中傷が大きく影響しているのです。今では「A自動車学校のB号車のCという指導員は感じが悪い」「優しく教えてくれない」「怒ってばかりいる」といった書き込みがあれば、すぐにネットで炎上します。

 自動車学校を運営する経営者の立場からすれば、ただでさえ少子化で教習生が少なくなっている上に、ネットで炎上でもしてしまえば、たちまち経営が立ち行かなくなってしまいます。一生懸命教えている指導員であればあるほど、そういったリスクが高くなってしまうのです。

 ─ 熱心な人ほど誹謗中傷を受けやすい社会になったと。

 尾﨑 そういうことです。今の若い人たちは「これはやってはいけませんよ」と注意されたことをどのように表現するかというと、「怒られた」と表現するのです。注意されたという受け取り方をしないのです。ですから、根本的に物事の考え方が昔とは違っているのです。これは一般の企業も同じだと思います。

 ─ 上司や先輩が指導したと思っても、本人はパワハラだと主張する話をよく聞きます。

 尾﨑 その通りです。上司がその人のために良かれと思ってアドバイスしたことでさえも、相手は怒られたという言い方をする。このままでは商売としても、なかなか成り立たなくなってきてしまいます。ここをどう切り替えていくかは自動車学校共通の悩みになっています。

 厳しさを増す 自動車学校の経営

 ─ 自動車学校の経営自体も厳しくなっているのですね。

 尾﨑 そうですね。教習でも私が指導員を務めていた1970年代から90年代はストレートで合格できる教習生などほとんどいなかったのですが、今はそこまでではなくなってきています。

 また、自動車学校は合宿も行っていますが、合格できずに延長すればするほど、教習生には宿泊料金や食事代といった金銭的な負担が大きくなってきますから、どうしても教習生の負担を軽く済むようにしてしまいます。

 ─ しかし、そうなれば習熟度が十分ではなく、事故を起こしてしまうリスクも高まると。

 尾﨑 その通りです。ですから、企業の新入社員が運転し始めて1週間も経たないうちに事故を起こしたというケースが増えているのです。だからこそ、企業も研修の一環として当社に安全教育の研修を要請してくるケースが増えているのです。

 本来であれば、自動車学校が研修を行うのですが、先ほど申し上げたように、教習生が減って自動車学校も経営が厳しくなって人員整理をしなければならないケースが増えてきています。私が所属していた自動車学校でも、ピーク時には140人近くの職員がいましたが、今は半数を切っているほどです。

 ─ 自動車学校数も減っている?

 尾﨑 はい。多いときで全国に1500校近くありましたが、今は1200校を割り込み、近いうちに1100校台になると言われています。数年後には1000校を切るかもしれません。このような背景から、企業から要請される研修に派遣できる指導員がいないのです。

 ─ 企業研修が必要だと分かっていても、そこに人手を割けないという現状ですね。

 尾﨑 そうです。しかも、免許の種類も増えました。昔は大型免許と普通免許しかありませんでしたが、今ではさらに細分化され、多岐にわたります。そうすると、自動車学校の業務は細分化されて細かい業務も膨大になってきます。一方で指導員の高齢化という課題もあります。

 ある自動車学校では80歳に近い方が指導員をやっているそうです。高齢者が高齢者講習をする状況が生まれているわけです。それだけ若い人で指導員になりたいと思う人が少なくなっているということなのでしょう。ですから、指導員不足も自動車学校の課題になっています。

 その中での当社の役割は人の教育です。人には感情や性格、パーソナリティがあります。自分の個性や特性が影響しますので、自分の個性や特性をあらかじめ知っていただくことが第一歩になります。そういったことを当社のOD式安全性テストで知るわけです。

 適性検査の本来の意義とは?

 ─ まずは自分の個性や特性を客観的に知るわけですね。

 尾﨑 ええ。企業であれば、個々の社員の個性を知り、その社員に合った仕事を与えることができるでしょうし、その人にあった社員教育を実施することが可能でしょう。

 人は一人ひとり違うわけですから、逆に一律の教え方をすることの方が無理があります。もちろん、効率の面で言えばデメリットはあります。

 しかしながら、自動車の運転教育は、やはり可能な限り個別化した方がいい。例えば、5人の社員がいたとすると、平均的な研修を実施したとしても、技能の高い上の2人は物足りなく感じるでしょうし、技能の低い下の2人は追いつけない。ピッタリなレベルの人は1人しかいないということになります。

 ─ 平均的な研修をしているだけでは成果が出ませんね。

 尾﨑 そういうことです。均一化した研修をすることは危険性をはらむということなのです。ですから、人を教育するというのは、一人ひとりに教えていくことが大事になります。一人ひとりが素晴らしい素質や素養を持っているはずですし、その一方で、それぞれに弱点もあります。

 それらをトータルでしっかりと把握した上で教育を行わなければなりません。当社のOD式安全性テストを行えば、教育の手助けになります。注意すべきは適性検査が間違って使われているケースです。

 ─ この人は運転に合わないから営業から外すといったケースですね。

 尾﨑 そうです。適性検査をすることによって、一人ひとりの個性や特性を把握し、その人に合った教え方をするためのツールなのです。事故を起こさない良い運転手を育成することが企業研修の本質です。ただ、進み具合はそれぞれ異なります。

 事故は技術ではなく心で起きるのです。ですから当社も「心の教育」を実施することを心がけています。誰もが自分の性格や特性が交通事故の原因だとは思っていません。

 だからこそ、その原因にいかに気づいてもらうかが大事なことであり、その対処方法をその場限りではなく、実際に実行してもらわなければなりません。

(次回に続く)

高山博和・セカンドサイトアナリティカ社長が進める、データ、AIを活用した企業の課題解決の姿とは?