この半導体ニュースのまとめ

・京セラと東北大がシリコン光回路に光アイソレータを直接集積する技術を開発
・レーザーアニールによる局所加熱で周辺の光回路や金属電極への熱影響を低減
・試作デバイスで13.6dBのアイソレーション比を確認し、戻り光を約20分の1に低減

京セラと東北大学 電気通信研究所は9月10日、レーザー光で局所的に熱処理する「レーザーアニール」を用いて、シリコン光回路上に光アイソレータを直接集積する技術を開発したと発表した。

試作デバイスを用いて、光通信で利用される波長域において13.6dBのアイソレーション比を確認。回路内で反射して光源へ戻る光を約20分の1に低減できることを実証した。

研究成果をまとめた論文は、2026年9月3日付でIEEEの学術誌「IEEE Access」に掲載された

CPOの安定動作に必要となる光アイソレータ

生成AIの普及やAIデータセンターの拡大に伴い、サーバやネットワーク機器の内部では、より多くのデータを低消費電力で伝送することが求められている。

その実現手法の1つとして開発が進むのが、シリコン基板上に光回路を形成するシリコンフォトニクスである。中でも、光回路と電子回路を同一パッケージ内に搭載するCPO(Co-Packaged Optics)は、電気信号の伝送距離を短くすることで、信号損失や消費電力を抑えられる技術として注目されている。

一方、光回路内で発生した反射光がレーザー光源へ戻ると、レーザーの発振状態が不安定になり、通信品質の低下を招く可能性がある。光アイソレータは、信号光を一方向へ通しながら、逆方向に進む戻り光を抑制するための光学部品となり、CPOを小型・高密度化するには、個別部品として光アイソレータを配置するのではなく、シリコン光回路上へ直接作り込む技術が求められる。

レーザー光で必要な領域だけを局所加熱

光アイソレータには、光と磁気の相互作用によって光の進み方を制御する「磁気光学ガーネット」と呼ばれる結晶材料が用いられる。

この材料に光アイソレータとして必要な特性を持たせるには、約600℃以上で熱処理して結晶化させる必要があるが、シリコン光回路のチップ全体を高温で加熱すると、すでに形成されている金属電極や配線、ほかの素子へ熱的な影響を与える可能性があるため、周辺回路を傷めることなく、磁気光学ガーネットだけを熱処理することが課題となっていた。

今回、研究グループでは、磁気光学ガーネットを成膜した約700μm四方の光アイソレータ回路領域へ、近赤外波長帯のレーザー光を照射する手法を開発。レーザー光を照射した領域だけを局所的に加熱することで、磁気光学ガーネットを結晶化させながら、周囲の光回路や金属電極への熱影響を抑えられるようにした。チップ全体を加熱炉へ入れる従来の手法と異なり、必要な箇所だけを選択して処理できることが特徴となる。

  • レーザーアニールを用いた光アイソレータの形成方法

    レーザーアニールを用いた光アイソレータの形成方法。磁気光学ガーネットを形成した領域だけをレーザー光で局所加熱することで、チップ全体を炉で加熱する従来手法と比べ、周囲の光回路や金属電極への熱影響を抑えられる (提供:京セラ)

戻り光を約20分の1に低減

研究グループでは、光の干渉を利用するシリコンベースのマッハツェンダー干渉計構造を用いて光の干渉を利用する構造のデバイスを試作。信号として進む順方向の光と、反射して光源側へ戻る逆方向の光の出力を比較したところ、光通信で使用される波長域において13.6dBのアイソレーション比を確認し、戻り光を約20分の1に低減できることを実証したとする。

  • レーザーアニールを用いてシリコン光回路上に直接集積した光アイソレータの顕微鏡画像

    レーザーアニールを用いてシリコン光回路上に直接集積した光アイソレータの顕微鏡画像。緑色で示された局所加熱領域に磁気光学ガーネットを形成し、非加熱領域への熱影響を抑えながら光アイソレータ回路を作製した (提供:京セラ)

また、電子顕微鏡による観察では、レーザー光を照射した部分の磁気光学ガーネットが、シリコン導波路上で良好に結晶化していることも確認したという。

光電融合チップの高度集積化へ

今回の技術を利用すれば、シリコン光回路や金属配線などを形成した後に、光アイソレータを必要な位置へ直接作り込める可能性がでてくる。

光アイソレータをシリコン光回路へモノリシック集積することができるようになれば、外付け部品や光学調整が減り、光回路の小型化や高密度化、製造工程の簡素化につながることが期待される。

AIデータセンター向けのCPOでは、光トランシーバの小型化に加え、多数の光入出力を安定して動作させる必要がある。戻り光によるレーザー光源への影響をチップ上で抑えられれば、光電融合チップの集積度と通信の安定性を高められる可能性がある。

京セラと東北大は今後、光アイソレータの低損失化と高効率化を進めるほか、量産に向けてレーザーアニール工程の生産性を高めていき、シリコンフォトニクスやCPOに適用できる光アイソレータを実用化することで、AIデータセンターなどの高速・低消費電力な光通信基盤の実現につなげていきたいとしている。