Amazon.comは、世界最大のオンラインマーケットプレイスでユーザーが商品を購入するのを支援するPerplexityの取り組みを止めるため、同社を提訴した。今回の訴訟はエージェント型AIの役割をめぐる今後の議論に影響を与える可能性がある。

現実世界のタスク実行範囲をどこまで広げられるかという前例を作る可能性

Amazonは、PerplexityのAIブラウザエージェント「Comet」がユーザーの代わりにオンライン購入を行うことを禁止するよう求める訴訟を11月4日にサンフランシスコ連邦地裁に提起した。Amazonは、Cometが実際の人物の代理で買い物をしていることを開示せず、利用規約に違反したとして、詐欺に当たると主張している。

Amazonは10月31日にPerplexityに対して、Amazonでの購買体験を損ない、プライバシー上の脆弱性を生じさせていると警告する停止要求書を送付していた。今回の訴訟は、AIエージェントが単なるコンテンツ生成にとどまらず、現実世界のタスクを自動的に実行する範囲をどこまで広げられるかという前例を作る可能性がある。

Perplexityの広報担当者は「この訴訟はAmazonが横暴であることを証明している」とコメント。以前のブログ投稿では、Amazonが競合するAIショッピングエージェントを標的にしていると批判し、ユーザーはAmazonで購入する際に好きなエージェントを選べるべきだと主張していた。「人々の生活を良くしようとする革新的企業を脅すための横暴な戦術だ」とも記している。

両社の対立は、オンラインでより複雑なタスクを代行するAIエージェントの普及にどう対応するかという今後の論争につながる。OpenAIやGoogleと同様、Perplexityは従来のWebブラウザをAI中心に再構築し、メール作成や調査などの作業を効率化することを目指している。

Amazonは訴状で「要求は単純だ。PerplexityはAIを展開する際に透明性を保たなければならない。他の侵入者と何ら変わらない。明示的に禁止された場所に侵入することは許されない。コードによる侵入であっても違法性は変わらない」と強調している。

Amazonもショッピング機能を備えたAIエージェントの開発を進めており、今年4月にはブランドサイトからAmazonアプリ内で購入できる「Buy For Me」機能をテスト導入。また、AIアシスタント「Rufus」はAmazonサイトを閲覧して商品を推薦し、カートに追加できる。

AmazonをCometから外すよう繰り返し要請

だが、Webとの相互作用を模索する実験の多くは、Perplexityのようなスタートアップが進めている。

Perplexity CEOアラヴィンド・スリニヴァス氏は「Amazonから多くのインスピレーションを得てきたが、最良とは限らない自社アシスタントだけを強制するのは顧客中心ではない」と語っている。

Amazonの利用規約は「データマイニング、ロボット、類似のデータ収集・抽出ツールの使用」を禁止しており、関係者によると2024年11月にはAIエージェントによる購入を停止するようPerplexityに要請し、同社は従った。

しかし、今年8月にPerplexityは新しいCometエージェントを導入し、ユーザーのAmazonアカウントにログインした。Amazonによると、CometはGoogle Chromeブラウザを装っており、Perplexityが停止を拒否すると、Amazonはブロックを試みたが、Perplexityは回避する新バージョンを公開した。

Amazonの広報担当者は「第三者アプリが他社で購入を代行する場合、オープンに運営し、サービス提供者の判断を尊重すべきだ」と述べ、食品配達や旅行代理店も同様に運営していると付け加えた。

同氏は「PerplexityのCometのようなエージェント型アプリも同じ義務を負う。特に購買体験や顧客サービスを著しく劣化させていることを踏まえ、AmazonをCometから外すよう繰り返し要請してきた」とも述べている。

Perplexityは「いじめはイノベーションではない」ではないと反論

停止要求書に対し、Perplexityのスリニヴァス氏は「ユーザーと代理のエージェントを区別する必要はない。エージェントは人間ユーザーと同じ権利と責任を持つべきだ。それを監視するのはAmazonの仕事ではない」と主張している。

過去18カ月間、Perplexityは出版社から許可なくニュース要約にコンテンツを使用したり、Redditから不正にスクレイピングされたデータを購入したりするなど、非難されてきた。同社は「公共の知識への自由で公正なアクセスを守るため、常に全力で戦う」としている。

スリニヴァス氏は、CometはAmazonから情報を学習・スクレイピングしておらず、ユーザーの指示に従って購入するための操作のみを行っていると説明。ブログ投稿では、Amazonが広告収益を増やすために、ユーザーの権利を排除しようとしているとも批判。

ショッピングエージェントは、将来的にAmazonの広告事業に大きな脅威となる可能性がある。広告事業は、検索クエリに応じて商品を目立つ位置に表示することで収益を上げているが、ボットが買い物を代行すれば広告の価値は低下する。

AmazonのCEOアンディ・ジャシー氏は先週の決算説明会で、AIショッピングエージェントの顧客体験は「良くない」と述べ、パーソナライズや購買履歴の欠如、配送見積もりや価格の不正確さを指摘した。しかし、「協力の道は見つかると思う」とし、第三者エージェントの開発者と対話を進めていると述べている。一連の顛末は11月5日付のBloombergが報じている。

一方で、PerplexityはAWSの顧客でもある。同社はAWSに数億ドル規模のコミットメントをしており、AWSは2023年の年次イベントでスリニヴァス氏を登壇させ、同社をAmazonのインフラ上で事業を構築したAI企業の一例として紹介してきた。Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏もPerplexityに投資している。

また、Perplexityは11月4日に「Bullying is Not Innovation(いじめはイノベーションではない)」と題したブログ記事を投稿。「Perplexityは脅しに屈しない」と強硬な姿勢を示している。