マーケットコンシェルジュ・上野泰也に聞く「日銀は急いで追加利上げすべき?」

日銀は今年1月、トランプ米大統領の2期目が始まってから2週間未満というタイミングで、相当程度「見切り発車」的に、追加利上げを決定した。昨年3月のマイナス金利解除から数えて利上げは3回目で、政策金利は2006~07年の前回利上げ局面のピーク、いわゆる「0.5%のカベ」に到達した。

 トランプ大統領の政策運営は、不確実性がきわめて高い。選挙公約には過激なものもあり、世界経済への影響は未知数の部分が大きいと言わざるを得ない。

 だが、日銀の氷見野良三副総裁は1月14日の講演で、「海外での注目点の一つは、米国の新政権の政策と、それが米国経済・世界経済・日本経済に与える影響です」「これは継続的に見続けるしかありません」としつつも、1月20日の就任演説で「政策の大きな方向は示されるのではないかと思います」と述べ、同月末の利上げに向けて「地ならし」を進めた。

 しかし、4月の相互関税の税率アナウンスを経て日銀は、「トランプ関税」が世界経済に及ぼす影響度合いの見きわめを図ることを余儀なくされた。トランプ氏の就任演説は、妥当な判断材料ではなかったわけである。

 早期の追加利上げをほぼあきらめて日銀が様子見に転じた後、9月2日の講演で氷見野副総裁はトランプ政権について、「政権発足後8か月を経て、分かるようになったことも増えてきたように思いますが、予想を超えるようなニュースも日々続いており、分からないことも増え続けているような気がします」「米国の関税政策がわが国の経済や物価にどのような経路でどの程度影響するかを見きわめるだけでも容易ではありません」と吐露した。

 金融政策の変更が実体経済に影響を及ぼすまでにはラグ(時間差)があり、それは一般的に1年~1年半だとみなされている。そのことからすれば、昨年3月のマイナス金利解除や7月の追加利上げが、足元の経済に影響を及ぼし始めた段階だと考えられる。

 セオリー的には、過去の利上げの影響度合いを確認する作業が一つあり、それに加えて、「トランプ関税」を中心とする米国の政策を見きわめる必要性ありということである。

 また、目標である2%を超えて長く続いている物価上昇は、強い需要にけん引されたものではなく、コスト高でいやいや押し上げられた「コストプッシュインフレ」であることにも留意する必要がある。期待インフレ率が2%より高いところに持ち上がってしまうことを危惧し、予防的に利上げすべしという立論もできるが、基本的には、この局面で需要を冷やす方向で利上げをするのは、妥当な処方せんとは言い難い。

 日銀には、おそらく1%までは利上げを続けたいという願望があるだろう。けれども、冷静に考えると、あわてて追加利上げに動く必要性や必然性は見当たらない。