中国がレアアースなどの戦略重要物資について、全面的な輸出禁止ではなく、対象品目や輸出先、用途を絞りながら規制を段階的に強化している。その背景には、単純に「輸出を止めて相手国を困らせる」という発想だけでは説明できない、中国独自の経済安全保障戦略がある。

典型例が2025年4月4日の措置だ。中国政府はサマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種類について、金属だけでなく合金、酸化物、化合物、ターゲット材、さらに一部の永久磁石材料などを輸出管理の対象とし、輸出には許可申請を必要とした。

つまりこれは、「レアアースを全面禁輸する」という政策ではなく、戦略性の高い物資を管理下に置く制度である。

中国が戦略重要物資の全面禁輸に踏み出さない「3つの理由」

では、なぜ全面禁止に踏み切らないのか。

第一の理由は、中国自身がレアアースの巨大な生産・加工・輸出産業を抱えているからだ。

全面禁輸を行えば、中国企業の輸出収入や国際市場での顧客基盤を失うだけでなく、中国への依存を減らすための代替供給網を欧米や日本に急速に構築させることになる。中国にとって最も重要なのは、供給を完全に断つことよりも、「必要なときに供給を絞れる」という状態を維持することだ。

第二の理由は、規制そのものを交渉力として利用できる点にある。

許可制であれば、輸出を止めることも、一定の条件の下で再開することもできる。実際、2026年には輸出許可の遅延や一部品目の供給制限が続く一方、特定品目について輸出が部分的に回復する動きもみられる。こうした「止める、緩める」を使い分けられることが、全面禁輸にはない強みだ。

第三に、段階的規制には相手国の弱点を探る効果がある。

すべての物資を一斉に止めれば、相手国がどの部分で最も困るのかを把握する前に強烈な対抗措置を招く。しかし、特定の元素や磁石などを対象にすれば、相手国の在庫、代替調達先、企業の対応能力を観察できる。いわば輸出管理そのものを「市場の反応を測る装置」として利用できるのだ。

さらに重要なのは、レアアースが単なる資源ではなく、サプライチェーン上の「川上」に位置することだ。鉱山を他国に移すことは可能でも、分離・精製や磁石製造まで短期間で移転するのは容易ではない。中国はこの加工・製造能力を背景に、資源そのものだけでなく、産業基盤を握っている。

したがって、中国の狙いを「全面禁輸による経済攻撃」とだけ捉えるのは適切ではない。むしろ重要なのは、供給を完全に断つことなく、相手国に中国依存のコストを意識させ、必要なときには供給条件を変更できる「戦略的な蛇口」を維持することにある。

これは日本にとっても重要な意味を持つ。中国による輸出規制のリスクは、ある日突然すべてのレアアースが入ってこなくなることだけではない。許可取得の遅延、対象品目の追加、輸出先や用途による審査強化などによって、企業が必要な物資を「いつ、どれだけ、どの条件で調達できるのか」が不透明になること自体が、経済安全保障上のリスクとなる。

中国にとって最も効果的なのは、必ずしも「輸出を止めること」ではない。むしろ、止めることもできるが、必要なら再開もできるという状態を維持することである。段階的規制とは、まさにこの柔軟な戦略的余地を中国が確保するための政策なのだ。