CRM製品をはじめとしたマーケティングソリューションなどを提供するZoho Japanは今年9月、製品の最新情報や活用事例を紹介するイベント「ZOHOLICS Japan 2025」を開催した。
基調講演には同社の代表取締役社長であるマニカンダン・タンガラジ氏が登壇し、AI戦略について語った。単独インタビューの内容とともに、Zohoが考えるビジネスにおけるAIのこれからについて紹介する。
ZohoのAIプラットフォーム「Zia」が掲げる4つのポリシー
まずは、基調講演の模様をまとめていこう。インドで生まれたZohoは、日本で事業を展開して2026年で25年となる。タンガラジ氏によると、年度ごとの成長率は30%前後で推移しており、今年度も8月時点で20%の成長を記録しているという。
Zohoは、CRM製品「Zoho CRM」やマーケティングオートメーション支援ソフトウェア「Zoho Marketing Automation」、ヘルプデスク支援ツール「Zoho Desk」をはじめデジタルマーケティングを支援する様々な製品を日本国内に導入し、こうした製品群全体でシームレスな連携を可能にしている。
これらの製品はインド本国で開発されたものを日本市場に合わせて展開しているが、タンガラジ氏によると「今後も日本市場に対応した製品を10種類以上追加していく」ほか、今年5月に提供を開始した、企業の導入・運用開始を支援する新たなサービス「ジャンプスタート」の展開も拡大していくとのこと。また、これまで同社では主に中小企業を対象に製品を提供してきたが、今後はミッドマーケット、エンタープライズの領域にも手を広げる構えだ。
そして、タンガラジ氏はこれらの製品に横断的に展開するZoho独自のAIプラットフォーム「Zia」について紹介。同社は、AIを「日々の業務に欠かせない存在」とする明確なビジョンを持ち、「個人情報の保護」「費用対効果」「持続可能性」「人間重視」という4つのポリシーを持って開発している。費用対効果については、AIを付加サービスではなく製品に組み込むことで追加費用なく利用できる環境を提供しているほか、持続可能性についてはデータセンターで使用するエネルギーについて植樹などを通じて環境に還元する取り組みを行っている。
Zohoは10年前からAIの開発に取り組み、2015年には文脈理解と予測機能に基づくエージェント機能の提供を開始。会話形式でユーザーを支援するアシスタント機能や生成AIの領域にも取り組んでいる。日本市場向けのAIでは日本のデータセンターで日本語に対応したデータベースを展開してきた。
タンガラジ氏によると、今後Zoho CRMではコンテキストに基づくインサイト分析をAIによって強化した「強化型アナリティクス」機能や、Zoho独自の機械学習モデルをCRMに組み込み高度な意思決定を可能にするカスタムML in CRMなどの機能を実装していくそうだ。
「2026年にはAIエージェントを通じてZohoの各アプリケーションにおける業務を自律的に実行できる『Zoho MCP』を提供する予定」(タンガラジ氏)
タンガラジ氏が語る「AIを人間中心に考える」真意とは
タンガラジ氏のプレゼンテーションにおいて最も興味深かったのは、ZohoがAIを「人間中心」に考えているという点である。世界的に、AIは人間の仕事を代理・代行し、業務の作業効率を大幅に高めることで人的リソースの最適化を実現するものと考えられている。しかしZohoは、あくまで「人間が中心にとどまる」ことをAI利活用の方針に据えている。そこにはどのような真意があるのだろうか。タンガラジ氏への単独インタビューで聞いた。
タンガラジ氏は、AIを「人間中心」に考えるという意味について、「Zohoでは、技術は人を置き換えるのではなく、人を支えるものだと考えている」と同社のテクノロジーに対する基本的な考え方を説明した。「AIは車の運転手になることはできない。あくまでアシスタントなのだ」と同氏。
「AIは仕事をより賢く早く進めることができる。しかし、思いやり、判断、そしてビジョンといった大切な部分は、最後まで人が担うべきだと考えている。AIはあくまで人を支える存在であり、大切な判断・決定は人が担うべきだ」(タンガラジ氏)
そして、AIが飛躍的な進化を続けるなかで、「人間中心のAI」がどのような世界を実現するかについても、タンガラジ氏は語ってくれた。
「人間中心のAIは公平な富の分配にもつながる。まず、技術の進歩によって製品の価格が下がり、誰もが手に入られるようになる。そして介護、教育、環境といった人間だからこそできる仕事に価値をもたらすことが可能になる」(タンガラジ氏)
つまり、AIによる作業効率の向上は製品の開発・製造コストを押し下げ、最適な価格で流通することが可能になり、そしてAIによって生まれた余剰リソースを人間でなければなしえない仕事に振り向けることで、世の中をより良くすることが可能になるというのだ。
デジタルマーケティングにおけるAIの価値と可能性
続いて、Zoho CRMをはじめとしたデジタルマーケティング製品におけるAIの可能性についても聞いた。タンガラジ氏は、BtoBにおけるリードジェネレーションの分野を例に、AIの価値について語った。
具体的には、AIがコンタクト内容を解析することによって、リードスコアリングや顧客離反予想、解約率の予測、顧客コンタクトタイミングの提案など様々な支援が可能になるという。そして、これらの価値がもたらすものは、「誰が自分たちの製品を必要としているか」「誰がサポートやフォローアップを求めているか」をAIによって明確にすることで、的確にニーズに応じたコンタクトを可能にすることだという。
ところで、Zohoは本社をインドに置く企業だが、デジタルマーケティングにおけるAIの活用についてインドと日本で特徴に違いなどあるのだろうか。タンガラジ氏は次のように語った。
「インドでは、小規模な企業から大企業までAIを積極的に運用している。一方で、日本ではまだまだ十分な活用には至っていないのではないか。特に日本のビジネスシーンでは “仕事の変化”を嫌がる傾向がある。もちろん、(日本でのAI活用が進まない背景には)Zohoのような製品メーカーにも責任はあると感じているが、こうした日本のビジネス風土に対して、私たちが既存製品のなかにどのようにしてAIを自然に組み込み、使いやすい形でインストールしていけるかを考え実行していくことが重要だと考えている」
タンガラジ氏が語るように、日本のビジネスシーンではAIなどの新しい技術を現場に導入しようとすると既存の方法に慣れた人たちから一定の反発が生まれたり、技術を導入するという手段が目的化してしまったりして、結果的に全社的な運用や効果的な活用に至らないケースも少なくない。こうした日本企業の特徴を踏まえて、いかにしてAIを意識させずに既存の製品、既存のワークフローに入り込むかが重要なのだ。
タンガラジ氏によると、今後デジタルマーケティング領域ではZoho CRMを中核にマーケティングオートメーション分野の各製品を連携させたAIによるリードジェネレーションの効率化と優良リードの抽出自動化といった機能拡充を進めていくほか、日本向けの新たな製品のローカライズや法規制への対応を推進していくという。最後に、今後のZohoのAI戦略について語っていただいた。
「Zohoは、さまざまなアプリケーション同士でデータを効果的に統合・連携させて企業全体で機能するAIプラットフォームの構築に焦点を当てている。ビジネスのワークフローを効率的に管理できるよう先進的なAIエージェントを展開するほか、マーケティング、営業、人材雇用などそれぞれの業務に特化したエージェントを企業ニーズに合わせて提供できるマーケットプレイスを展開し、実用性の高いAIを企業に提供していきたい」(タンガラジ氏)





