サイボウズは地域密着型DX(デジタルトランスフォーメーション) 支援として、5月11日、埼玉県内の中小企業を対象に、「売上・利益向上DX実践キャンプ」を開始すると発表した。申込は7月1日までで、対象は埼玉県内に本社があるkintoneの契約がない企業だ。参加企業には、100ユーザー分のkintoneとAIライセンスを6カ月無料提供するほか、研修、ワークショップ、個別伴走支援なども無償で実施する。

  • 「売上・利益向上DX実践キャンプ」の提供内容

    「売上・利益向上DX実践キャンプ」の提供内容

「売上・利益向上DX実践キャンプ」の特徴は、単なるキャンペーンではなく、「地域全体のDX推進」を掲げている点だ。商工会議所や自治体、金融機関、地域支援事業者なども巻き込みながら、中小企業のデジタル化を進める“地域連携型DXモデル”として展開する。

そこで、サイボウズの事業戦略本部で、kintoneのSMB・中堅市場向け戦略を担当している蒲原大輔氏に、この取り組みの狙いや背景について聞いた。

  • サイボウズ 事業戦略本部 kintone プロダクトマーケティングマネージャー 蒲原大輔氏

    サイボウズ 事業戦略本部 kintone プロダクトマーケティングマネージャー 蒲原大輔氏

なぜ地域DXの第一弾に埼玉を選んだのか

蒲原氏によれば、同社と埼玉県とのつながりは2021年ごろから始まったという。

「埼玉県庁さんから出向職員を受け入れる取り組みを6年連続で実施しています。そうした人的交流の中で、埼玉県とのつながりができてきました」と、同氏は説明する。

埼玉県庁ではすでにkintoneを1万3000人規模で導入しており、県全体としてDXに積極的に取り組んでいる。また、県設立の公益財団法人 埼玉県産業振興公社でも、中小企業向けにkintone活用セミナーを展開している。

こうした背景から、サイボウズは埼玉県を地域DX構築の最初のフィールドとして選定した。

「埼玉県は、自治体も産業支援団体もkintoneを活用したDXに前向きです。だからこそ、地域DX支援の第一弾を埼玉で始めようと考えました」(蒲原氏)

さらに近年、サイボウズはプロ野球球団 埼玉西武ライオンズとスポンサー契約を締結するなど、埼玉との接点を強化している。そうした背景もあり、“埼玉×サイボウズ”による地域DXモデル構築へ踏み切ったという。

地方企業に残る「AI以前」の課題

現在、多くの企業が生成AIに関心を寄せている。しかし蒲原氏は、地方の中小企業では「AI以前」の課題が山積していると指摘する。

生成AIへの関心が高まる一方で、地方の中小企業では紙業務やExcel中心の運用が依然として残る。データが分散し、AI活用の前提となる情報基盤が整っていないケースも多いという。

「世間的にはAIが盛り上がっていますが、中小企業を見ると、まだ紙業務が多かったり、Excelファイルが部署ごとにバラバラだったりするケースが非常に多いです」と蒲原氏は中小企業の課題を説明する。さらに、クラウドサービス導入が逆に問題を生むケースもあるという。

「いろいろなツールを導入した結果、データが各サービスに分散してしまい、生産性向上につながっていない企業も少なくありません」(蒲原氏)

つまり、AIを活用したくても、その前提となるデータ整備ができていないのだ。そこで同社は、kintoneを単なる業務効率化ツールとしてではなく、「売上・利益向上の基盤」として位置づけた。

「これまでkintoneは“業務改善ツール”というイメージが強かったと思います。しかし今回は、売上や利益向上につながるDX支援をテーマにしています」(蒲原氏)

「DX潜在層」に届けたい

今回の施策で特に重視しているのが、DXにまだ関心を持てていない“潜在層”へのアプローチだ。

サイボウズがこれまで接点を持ってきたのは、DXに関心を持つ企業が中心だった。しかし地方には、必要性を感じながらも具体的な一歩を踏み出せていない企業が数多く存在するという。

従来、サイボウズは「kintone hive」など全国イベントを通じ、先進事例の共有を行ってきた。しかし、そうしたイベントには、もともとDXやITに関心を持つ企業が集まりやすい。そのため今回の施策は、“まだDXを始められていない企業”を対象にしている。

「地域に深く入り込むことで、これまで情報が届いていなかった企業にもDXの波を届けたいと思っています」(蒲原氏)

プログラムを開始するにあたり、同社は埼玉県内16商工会議所へのアプローチを進めるほか、自治体、金融機関、地域コンサルタントなどにも協力を呼びかけている。単に企業へkintoneを提供するだけでなく、地域プレイヤーを巻き込みながらDXを進めるのが今回のキャンペーンの特徴だという。

今回のキャンペーンでは、kintoneスタンダードコースを最大100ユーザー分、6カ月間無償提供する。さらにkintone AI機能も利用可能だ。

「大半の中小企業は従業員100人未満なので、事実上“全社導入”できる規模でライセンスを提供します。まずは6カ月間、しっかり使って投資対効果を見極めてもらいたいと思っています」(蒲原氏)

もっとも、サイボウズが重視するのはライセンスの無償提供そのものではない。DXに不慣れな企業ほど、ツール導入後の定着が課題になるためだ。

ただ、ツールを無償提供するだけではDXは定着しない。そこで同社は、伴走支援を重視したプログラムを設計した。

  • DX実践キャンプのプログラム構成

    DX実践キャンプのプログラム構成

このキャンペーンでは7月2日には大宮でキックオフイベントを開催する。ここでは、経済産業省「DXセレクション2025」でグランプリを受賞した 後藤組 の経営者が登壇し、DX成功体験を共有する予定だ。その後、参加企業は「どの業務から着手するか」を選定し、業務改善ワークショップや個別相談に進む。

「研修を受けただけでは、社内でどうテスト運用すればいいか分からない企業も多いです。そのため、営業とSEがすべての企業に付き、1対1で伴走します」(蒲原氏)

各社の状況に合わせて、実際の運用や改善サイクルをどう回すかを一緒に考えるという

「小さな成功体験」から始める

蒲原氏によれば、DXは最初から大規模改革を目指して失敗するケースが多いという。

「トップダウンで重厚長大なDXを進めた結果、現場に浸透せず失敗する例は少なくありません」(蒲原氏)

そのため、今回のキャンペーンの前半プログラムでは「小さな成功体験」をテーマに掲げる。まずは業務改善によって、現場と経営層の双方が手応えを得ることを目指す。

さらに、業種別テンプレートも用意する。建設業なら「作業日報」「工事案件管理」「従業員管理」など、業界ごとに始めやすいアプリテンプレートを提供するという。

「どこから始めればいいか分からない企業でも、一歩目を踏み出しやすいようにしています。最初は基本機能で慣れてもらい、その後AI活用へ発展できるようにしています」(蒲原氏)

一部パートナー企業は、AIを組み込んだ高度なテンプレートも提供する予定だ。

  • 前半プログラム「小さな成功体験」

    前半プログラム「小さな成功体験」

  • 後半プログラムは売上・利益・生産性アップのためのプログラム

    後半プログラムは売上・利益・生産性アップのためのプログラム

Excel中心の業務から脱却できるか

日本企業では依然としてExcel中心の業務文化が根強い。蒲原氏は、その原因は「データ活用できないこと」にあると語る。

「Excelではデータがいろんなファイルに分散してしまい、せっかくの情報が売上アップに生かせません」(蒲原氏)

さらに、転記作業や二重入力が発生し、本来の業務に時間を使えなくなる。

「Excelから販売管理システムへ転記するだけで、多くの時間を奪われています」(蒲原氏)

AI活用の観点でも、データ整備は重要だ。AIはデータが整備されていてこそ高いパフォーマンスを発揮する。そのためサイボウズは、まずデータをkintoneへ集約することが重要だと考えている。

蒲原氏によれば、DXの本質はツール導入そのものではなく、データを一元管理できる状態をつくることにある。Excelを完全に否定するわけではないが、部署ごとにファイルが分散した状態では、業務改善やAI活用の効果を十分に引き出せないとしている。

埼玉モデルの成功から全国展開へ

キャンペーンの募集定員は150社。ワークショップをリアル開催する都合上、これが上限となる。ただし、同社が目指しているのは単なる契約数の拡大ではない。その先に見据えるのは、地域全体のDX推進と活性化だ。

「最終的には、kintone活用企業を増やしたいですし、埼玉県全体の地域活性化につながるインパクトを出したいと思っています」(蒲原氏)

サイボウズは今回の取り組みを、埼玉における地域DXモデルの実証と位置付けている。

「埼玉で成功モデルができれば、同じように地域DXを進めたい自治体と一緒に展開していきたいと思っています」

最後に蒲原氏は、DXに踏み出せていない中小企業経営者へ、こう呼びかけた。

「DXをやらなきゃと思いながら、後回しになっている企業は多いと思います。今回のプログラムは、その第一歩になるよう、サイボウズとしてかなり思い切ってコミットしています」(蒲原氏)