京都大学(京大)は9月25日、鉛フリーの「スズペロブスカイト半導体」について、高品質かつ大面積の薄膜を作製するための汎用性の高い塗布成膜法を開発したと発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:京大プレスリリースPDF)

同成果は、京大 化学研究所の原田布由樹大学院生、同・中村智也助教、同・若宮淳志教授、同・金子竜二特定助教(現・エネコートテクノロジーズ所属)、同・Shuaifeng Hu大学院生(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するエネルギーを扱う学術誌「ACS Energy Letters」に掲載された。

均一な成膜が可能な汎用的手法を開発

ペロブスカイト太陽電池は、軽量で弱い光でも発電できること、さらには塗布プロセスで作製できる点などから、次世代の太陽電池として注目されている。しかし、従来の高効率ペロブスカイト半導体材料には鉛が含まれていることが大きな課題だ。環境負荷の観点から鉛フリー材料の開発が急務であり、その有望な代替候補材料として期待されるのが、スズを用いたペロブスカイト半導体である。ただし、この半導体は光電変換効率が鉛系よりも低く、作製できるセルの大きさも1cm2以下に限定されていた。

これらの課題は、スズペロブスカイトと鉛ペロブスカイトの異なる結晶化メカニズムに起因する。ペロブスカイト薄膜は通常、スピンコート中にペロブスカイトを溶かさない溶媒(アンチソルベント)を滴下して作製される。この過程で、鉛ペロブスカイトは溶媒と錯体を形成した中間相を経由し結晶化する場合が多いが、スズペロブスカイトは前駆体溶液から直接結晶化するという特徴を持つ。そのため、ピンホールのないスズペロブスカイト膜を得るためには、その組成に合わせ、非溶媒の種類、使用量、温度、滴下のタイミングといった複雑な条件を厳密に最適化する必要があった。

さらに、スズペロブスカイト薄膜の作製には、基板の濡れ性の影響を受けやすいという問題もあった。特に、鉛系で用いられる疎水性の単分子正孔回収層の上では、均一で高性能な薄膜の作製は困難だった。そこで研究チームは今回、これらの課題を克服するため、新たな塗布製膜法の開発を試みたという。

今回の研究では、前駆体インクの塗布後の乾燥過程において、非晶質の中間相を経由してスズペロブスカイト薄膜を形成する「結晶成長制御剤を用いた真空乾燥(V-CGR)法」が開発された。具体的には、V-CGR法では、スズイオンに強い配位力を持つ「イミダゾール誘導体(1-vinylimidazole)」をペロブスカイトの結晶成長制御剤として前駆体溶液に添加する。そして、アンチソルベント滴下の代わりに真空乾燥により溶媒の除去を行う。

これにより、スズペロブスカイト微結晶の周囲を「SnI2(1-vinylimidazole)錯体」を含む非晶質の固体が覆った平坦な中間体膜が形成される。その後の加熱過程で、イミダゾール誘導体が脱離・放出されることで、緻密で均一なスズペロブスカイト薄膜が得られるのである。このV-CGR法は、従来法と比べて基板の濡れ性の影響を受けにくい。そのため、疎水性の高い単分子膜材料(「MeO-2PACz」や「2PACz」など)の上にも、緻密で均一なスズペロブスカイト半導体膜の作製が可能となった。

  • 従来の非溶媒法と今回のV-CGR法の比較

    従来の非溶媒(アンチソルベント)法(a)と、今回開発されたV-CGR法(b)の比較(出所:京大プレスリリースPDF)

また、酸化性を持つ「ジメチルスルホキシド」を溶媒として不使用としたことにより、スズペロブスカイト太陽電池デバイスの熱安定性が大幅に向上した。加えて、非溶媒を用いないV-CGR法は大面積のスズペロブスカイト薄膜の作製が可能であり、デバイス面積21.6cm2の7段モジュールの作製も実現された。

  • V-CGR法の特徴

    V-CGR法の特徴。(a)疎水性単分子膜上への成膜が可能。(b)ジメチルスルホキシド不使用による熱安定性が向上。(c)大面積塗工に応用が可能(出所:京大プレスリリースPDF)

今回開発されたV-CGR法は、下地の種類やペロブスカイトの組成に依存せず広く適用できる汎用性の高い手法だ。この手法は今後、スズペロブスカイト半導体を用いた鉛フリー型の機能性ペロブスカイトデバイスの開発を加速させることができるとのこと。また、この手法はダイコーターによる大面積塗工にも適用可能だ。これにより、ペロブスカイト薄膜の工業生産に展開可能で、実用化にも直結する成膜技術として期待されるとしている。