国立天文台、総合研究大学院大学(総研大)、理化学研究所(理研)の3者は9月25日、アルマ望遠鏡で取得された7年間におよぶ観測データから、原始惑星系円盤における惑星誕生の現場を動画で撮影し、惑星が形成中と見られる渦巻き構造がダイナミックに動いている様子を鮮明に捉えたことを共同で発表した。
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アルマ望遠鏡が捉えた、原始惑星系円盤の渦巻き状の構造がダイナミックな変化のアニメーション。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), T. Yoshida et al.(出所:国立天文台Webサイト)
同成果は、国立天文台 科学研究部の吉田有宏氏(総研大 物理科学研究科 天文科学専攻 大学院生)、同・野村英子教授(総研大 先端学術院 天文科学コース兼任)、独・マックスプランク天文学研究所 惑星・星形成部門の土井聖明博士研究員、理研 開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室の古家健次研究員、同・大和義英 基礎科学特別研究員、足利大学 工学部 創生工学科 システム情報分野の塚越崇准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
渦巻きが動くのは惑星の誕生直前? それとも直後?
惑星は、若い星をも取り巻くガスと固体微粒子からなる原始惑星系円盤で誕生すると考えられている。だが、惑星形成については不明な点が多い。たとえば、マイクロメートルサイズの固体微粒子同士は付着しやすいものの、成長して数センチメートル~数メートルサイズになると、「メートルサイズ障壁」と呼ばれる難題に直面する。この段階では、ガスの抵抗で軌道速度が減衰して急激に中心星へ落下してしまう上、静電力や分子間力では付着せず、重力も弱く岩石同士をつなぎ止められないためだ。
この障壁を乗り越えるメカニズムはいくつか考えられているが、その中で重要な役割を果たす可能性があることから注目されているのが、円盤自身の重みによって円盤内に形成される渦巻き状の構造である。この渦巻きは固体微粒子が集積し、合体を効率的に進行させると考えられている。これにより、微粒子は重力が働き出すサイズにまで成長するとされる。さらに、渦巻き自体が分裂し、直接的に惑星となる可能性も指摘されている。
だが問題として、円盤内で生じる渦巻き構造が2種類存在することが挙げられる。よく似た形状の渦巻きは、誕生直後の大質量惑星によっても形成されることがある。つまり、渦巻きの存在だけでは、惑星の形成直前か直後かの区別は難しい。それゆえ、もしその渦巻きが惑星の形成直前のものだと確認されれば、その円盤は惑星形成研究に最適の天体となる可能性がある。
そこで研究チームは今回、惑星の誕生直前と直後を、渦巻きの挙動によって区別できるという理論的な予測に着目。渦巻きが円盤自身の重みによって形成された惑星形成直前の場合、渦巻きは巻き付くように動き、やがては消失すると推測される。一方、渦巻きがすでに形成された惑星によって引き起こされている場合は、その形状を維持したまま惑星と共に回転を続けることが予想された。今回の研究では、この渦巻きの動きを検証するため、渦巻きが確認済みの若い星である「おおかみ座IM星」周囲の円盤を詳細に調べたという。
この円盤の渦巻きについては、惑星誕生の直前と直後の2説が唱えられていた。研究チームはこの論争に決着をつけるべく、アルマ望遠鏡によって2017年から2024年まで7年の間に実施した4回の観測によって得られた円盤の画像をつなぎ合わせ、“動画”を作成したとする。
今回の研究成果をまとめた公式動画「惑星の形成を促す不思議な渦巻き模様」(出所:YouTube ALMAJapanChannel)
その結果、渦巻きが巻き付くようなダイナミックな動きが示されたとともに、さらに詳細な解析から、その巻き付きの速度が理論予測と一致していることも確認された。これは、渦巻きが円盤自身の重みによって形成されていることを意味する。このような渦巻きは、惑星の誕生を促進する役割があることから、この円盤はまさに惑星形成の直前にあると結論づけられた。
研究チームによれば、このような渦巻きの巻き付き運動を検出することに成功したのは、今回が初めてである。そのためこの円盤の性質をより詳細に調べることで、惑星の形成がどのように進行するのか、理解がさらに深まる可能性があるとした。また、論文筆頭著者の吉田大学院生は今後、このような観測を他の原始惑星系円盤でも行うことで、惑星系形成プロセス全体のドキュメンタリーを完成させたいと抱負を語っている。