東北大学は、地上からのレーザーを受けて推進力を得る「レーザー推進ロケット」の実現に向け、独自開発した「複数放物面レーザー推進機」の実験室レベルでの打ち上げ実験を実施。全長約15mmの約7倍となる高度110mmまで、機体を自由飛行させることに成功したと5月21日に発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の高橋聖幸准教授、同・速館佑弥大学院生(研究当時)、大阪公立大学大学院 工学研究科の森浩一教授、東北大 流体科学研究所の早川晃弘准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
現在のロケットは、高コストが大きな課題となっている。そのため、より低コストで宇宙へ到達すべく、さまざまな手段が研究されているが、そのひとつがレーザー推進だ。ロケットに取り付けられた放物面ミラーに対し、地上基地からレーザーを照射。集光点付近の空気がプラズマ化して高温となることで衝撃波が発生、これが推進力となる。これにより、燃料を大幅に削減でき(十分な空気のない高度から上は従来方式となる)、打ち上げコストの低減につながる。初期投資となる地上のレーザー発振基地の建設費用を償還後には、従来方式の4分の1以下にまで打ち上げコストを抑えられると試算されている。
ただし、レーザー推進ロケットの実用化には、複数の解決すべき点がある。そのひとつが、飛行中の機体はブレてレーザー軸上から外れやすく、安定飛行の維持が困難な点だ。その解決には、姿勢を制御して長時間の安定飛行(ビームライディング飛行)を維持する技術が求められる。それには、機体がレーザー軸から外れても自然と元に戻る「受動的制御」と、レーザー軸からのずれを検知して機体に追従してレーザー照射方向を変える「能動的制御」の2種類がある。
研究チームは今回、受動的制御性能の検証のために実験室レベルでの打ち上げ実験と、能動的制御システムの開発および実証実験を行うことにした。
【動画】打ち上げ実験の動画。再生時間0分11秒。形状が形状のため、その自由飛行の様子はまるでUFOのよう
まず受動的制御を実現するため、レーザー光を円環状に効率よく集光できる、先端が細長く突き出たスパイクノズル形状の反射鏡がメインボディに採用された。そして、集光領域を覆うようにリング状のカウルが取り付けられた。これにより、機体がレーザー軸からずれるとカウル内で不均一に集光し、衝撃波も不均一となることで、カウルを押す力に偏りが発生。この非対称な力の働きによって、機体は自然にレーザー軸へと引き戻され、積極的な制御なしに姿勢が自動的に補正される。
加えて、機体軸上には放物面ミラーを搭載。機体がレーザー軸から傾くとレーザー集光位置が変化し、それに伴う衝撃波の形状変化によって、角度のずれも打ち消せる設計だ。スパイクノズル形状のミラーと放物面ミラーとを組み合わせから、今回のシステムは複数放物面レーザー推進機と命名された。
その受動的制御能力を検証すべく、実験室において機体に対し鉛直上向きに繰り返しパルスレーザーを照射する打ち上げ実験が実施された。1ショットあたり約5Jのレーザーを50Hzで繰り返し照射した結果、全長約15mm・重量約2gの機体が高度110mmまで浮上し、自由飛行を実現。その際、レーザー軸に自然と引き寄せられるように機体が動いたことも確認され、受動的制御の実験的実証も達成された。最長で約0.26秒のフライトだった。
しかし実験を通し、受動的制御だけでは数分〜数十分間の安定飛行に対し確実性を欠くことが示唆された。そこで能動的制御の仕組みとして、機体の動きをリアルタイムに追尾しながらレーザーを照射する「レーザートラッキングシステム」が開発された。
その追尾性能の評価のため、機体をロボットアームに取り付け、自由飛行時と同程度の速度で動かすことで実験が行われた。ステレオカメラを用いて、空間内の機体の位置と速度をリアルタイムで取得。それらの情報は、モーター、ベルト式アクチュエータ、ミラーから構成されるレーザー走査システムに送られ、機体の動きに合わせてレーザー照射位置が制御された。その結果、自由飛行時に想定される機体移動速度程度であれば、機体を十分に正確に追尾でき、衝撃波と推力の継続的な発生が実証された。
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機体の移動速度およびレーザートラッキングの成否。機体をロボットアームに取り付けて移動させ、運動に追尾させて10Hzの繰り返し周波数を持つパルスレーザーが照射された。グラフ左の縦軸の「Speed」は機体の移動速度、右の縦軸kの「Voltage」は機体に取り付けられたサウンドセンサのシグナルを表す。レーザー照射および衝撃波の駆動に成功した際には0.4V以上の電圧となる
(出所:東北大ニュースリリースPDF)
研究チームは今後、レーザートラッキングシステムを用いた打ち上げ試験を行い、全工程を通じた安定的なビームライディング飛行の達成可否を検証する予定だ。そして最終的には、より高出力の繰り返しパルスレーザーを用い、高度100km以上の宇宙空間到達を目指すとした。
また今回の技術は、飛行機への応用も考えられるという。将来的には、プロペラやジェットエンジンを用いず、レーザー推進のみで飛行可能なドローンや航空機の実現も目指すとしている。