御船町恐竜博物館(MDM)、熊本大学、北海道大学(北大)の3者は5月13日、1990年代に熊本県上益城郡御船町に分布する「御船層群上部層」から発見された翼竜「アズダルコ科」の化石標本を詳細に研究した結果、同科の他の翼竜の頸椎骨とは異なる特徴を持つことから新属新種と判明し、「ニッポノプテルス・ミフネンシス」(Nipponopterus mifunensis)と命名したことを共同で発表した。

  • ニッポノプテルス・ミフネンシスのイメージ

    ニッポノプテルス・ミフネンシスのイメージ(Art by Zhao Chuang)(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、中国・石河子大学の周炫宇博士、MDMの池上直樹博士、ブラジル・サンパウロ大学 動物学博物館のベガス・ロドリゴ博士、熊本大 研究開発戦略本部の吉永徹技術専門員、元・熊本大 技術部の佐藤宇紘博士(技術専門職員)、熊本大大学院 先端科学研究部の椋木俊文教授、熊本大 理事・副学長の大谷順博士、北大 総合博物館の小林快次教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、生物から地球規模の事象まで白亜紀のすべてを扱う学術誌「Cretaceous Research」に掲載された。

プテラノドンに代表される翼竜は、三畳紀後期から白亜期末まで恐竜と同時代に生息した飛行可能なは虫類である。アズダルコ科(首が長いことが特徴)の翼竜は白亜紀後期(約1億50万年前~約6600万年前)に出現し、アジア、アフリカ、南北アメリカなど、世界中に分布を拡大した。特に白亜紀末には大型化が進み、史上最大の翼竜といわれる「ケツァルコアトルス」のような翼開長10m超の種も出現したことが知られている。

翼竜の骨格は細く華奢なため、化石は多く発見されていない。しかし、断片的な化石は日本でも産出しており、北海道、岩手県、富山県、石川県、岐阜県、兵庫県、長崎県、熊本県、鹿児島県において採取されている。ただし、これまではそれら国内の化石に基づいて命名された翼竜はなかった。

熊本市の南方に分布する後期白亜紀の地層である御船層群では、1993年に御船町天君ダム上流の河床の転石から翼竜の指骨が発見された。御船町教育委員会が熊本県の補助を受けて1996年に実施した「熊本県重要化石分布確認調査」では、同ダム上流の太田川の河床の骨化石層から頸椎骨を発見。それ以降、恐竜や他の陸棲脊椎動物化石に伴って翼竜化石が発見されるようになり、その頸椎骨化石の他にも前肢の手の甲や指の骨が数点発見された。

頸椎骨化石は、1990年代半ばには「翼指竜類」(退縮した短い尾を持つ白亜紀末まで繁栄した翼竜のグループ)とされ、2000年の研究ではアズダルコ科の属種不明として報告されていた。当時は、まだ世界的にも化石記録が乏しく、系統関係を明らかにできなかったのである。そこで研究チームは今回、御船層群産の翼竜化石標本を再検討し、CTスキャナのデータなどに基づき、その系統学的位置づけを検証したという。

頸椎骨化石は、これまでの研究で頸部の中間に位置する頸椎骨とされ、ここ10年ほどの研究では、特に根拠もないまま第4または第5頸椎骨と解釈されていた。しかし、今回の研究ではケツァルコアトルスや「ウェルンホプテルス」の第6頸椎骨に見られるように、側方の収縮が少なく、後関節突起(後方の椎骨と関節する突出した部分)間の「椎弓板」(棘突起と横突起間の骨)が正弦波状になっており、背面に膨らんでいる「椎体」(脊椎骨の円柱状の部分)後部や、かなり大きい後外関節突起(椎体後部外側の小突起)を持つという組み合わせから、第6頸椎骨と判断された。

  • ニッポノプテルス・ミフネンシス第6頸椎骨化石CTデータの3次元構成画像

    ニッポノプテルス・ミフネンシス第6頸椎骨化石CTデータの3次元構成画像。(A)背面観。(B)腹面観。(C)側面観。(D)後面観(出所:共同プレスリリースPDF)

第6頸椎骨には、後関節突起に独特な背側稜が発達していること、椎体の底部に前後方向の溝が発達していること、椎体後部の関節面が三角形を呈していること、後外関節突起が椎体の側方に伸びていることの計4つの固有の特徴が確認された。これら固有の特徴とその組み合わせからアズダルコ科の新属新種と判明し、“御船産の日本の翼”を意味するニッポノプテルス・ミフネンシスと命名された。体化石としては日本で初めて命名された翼竜であるとする。

また他の翼竜との系統関係を調べるために、204種の翼竜について533個の特徴を比較した結果、ニッポノプテルスは、モンゴルの白亜紀後期のチューロニアン期(約9390万年前~約8980万年前)~コニアシアン期(約8980万年前~約8630万年前)の地層から産出した未命名のアズダルコ科の翼竜と最も近縁であることが突き止められた。さらに、後期白亜紀になって大型化する種が出現するケツァルコアトルス亜科に属することもわかった。この仲間の翼竜としては、時代的に最も古いものの1つだったのである。

国内の翼竜化石の産出記録は依然として少なく、また断片的なものに限られるため、さらなる化石の探索と収集が必要だという。研究チームは、御船層群が翼竜化石が複数産出している国内では希有な地層であり、さらなる化石の発見が期待されるとしている。

  • 御船層群の分布と化石産地および化石の産出層準

    御船層群の分布と化石産地(A)および化石の産出層準(B)(出所:共同プレスリリースPDF)

  • ニッポノプテルスの系統学的位置

    翼竜の系統図とニッポノプテルスの系統学的位置(出所:共同プレスリリースPDF)