名古屋大学(名大)は11月17日、鳥類の胸部にある、体幹と翼の根本をつなぐ「烏口骨」(うこうこつ)の強度が、鳥類の多様な羽ばたき方を反映していることを示したと発表した。
同成果は、名大 環境学研究科の明田卓巳大学院生、名大博物館の藤原慎一講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、生物を解剖学的に理解することを目的とした関連分野を扱う学術誌「Journal of Anatomy」に掲載された。
鳥類は、恐竜から進化するどこかの段階で、揚力を得るための翼と、推進力を得るための羽ばたき能力を獲得していったと考えられている。翼を獲得していく進化の様子は、化石記録から明らかになりつつある。それに対し、羽ばたき運動がいつ頃行われるようになったのかはまだわかっていないという。
化石種の羽ばたき能力を復元するには、化石に残る骨から情報を得る必要がある。従来の研究では、主に肩関節の形状や胸部骨格の形態から、化石種の羽ばたき能力の推定が試みられてきた。しかし、それはどちらかというと定性的な指標であり、数量を用いた定量的な指標とはいえなかったことから、正確な羽ばたき能力の復元には至っていなかったとする。そこで研究チームは今回、鳥類の羽ばたき能力の新たな指標として、烏口骨の強度に着目することにしたという。
鳥類の羽ばたき運動は、主に翼の打ち上げを担う「烏口上筋(ササミ)」と、翼の打ち下ろしを担う「胸筋(胸肉)」が交互に収縮することで行われる。どちらも胸部骨格から始まり、翼の付け根である上腕骨につながる筋肉である。
羽ばたいている間、両筋肉は繰り返し収縮するため、そのたびに翼を胸部骨格の方へ引きつける力が働く。このとき、烏口骨は「突っ張り棒」の役割を果たし、力強い筋肉が骨を曲げようとする負荷に耐える役割を果たす。そのため、羽ばたき能力のある鳥類の烏口骨は、羽ばたき運動による筋肉の動きに耐えるだけの十分な強度を持つことが考えられるとする。
今回の研究では、骨の強度評価に用いられる、柱状構造を曲げようとする力にどれだけ耐えられるかを示す柱状構造の「断面係数」が用いられた。鳥類209種220個体の標本が調べられ、体重に対して烏口骨の強度がどれだけ強いかの比較が行われたところ、鳥類の羽ばたき方の違いを反映していることが判明したという。