Snowflakeはこのほど、ぐるなびによるデータ活用改革に関する記者説明会を開催した。ぐるなびといえば、飲食店の情報を提供するWebサイトの提供が有名だが、飲食店の業務支援も行っている。

Webサイトを運営していることから、ぐるなびはさまざまなデータを抱えている。データを抱えていても有効活用できなければ、宝の持ち腐れともいえる。同社は、全従業員がデータの民主化を進めることで、データを活用して新しいビジネスチャンスを創出可能な世界を作ろうとしている。

データの民主化を妨げる2つの課題

ぐるなび CTO 岩本俊明氏は、「当社はデータがないとサービスの企画が行えず、プロダクトを作れない」と、同社にとってデータが不可欠な要素であると説明した。

それゆえ、全社員がデータを活用できる状態「データの民主化」を実現することで、「誰もが常に最新のデータを用いてビジネスを創出できることが大事」と、岩本氏は語った。当初、データを使える人はテクニカルな人という状況だったという。

  • ぐるなび CTO 岩本俊明氏

昨今、「データの民主化」を掲げている企業は多いが、その実現は一筋縄ではいかない。ぐるなびにおいても、「データの民主化」を妨げる2つの課題があった。

データ資産のサイロ化

クラウドサービスは気軽に使い始められることが長所の一つだが、岩本氏は「誰もがクラウドサービスを使えるので、データのサイロ化が進んでしまった」と説明した。

データのサイロ化とは、部署やチームがデータをバラバラに管理して、社内で共有・活用が進まない状態をいう。パブリッククラウド「Amazon Web Services(AWS)」やオンプレミスにデータが保管されていたが、昨年から、データのサイロ化を解消するため、Snowflakeへのデータ集約を進めているという。

データに加えて、BIツールも部署ごとで異なるものが使われていたとことから、一本化が進められている。これにより、すべての従業員が同じビジュアルを用いてデータを可視化できるようになる。

  • AWSやオンプレミスに分散しているデータをSnowflakeに集約

組織構造の問題

また、縦割りの組織構造によって、「他部署のデータが使いづらい」「データ組織とUI開発組織が分離し、開発スピードや理解が低下している」という課題が生じていた。

「データの組織とデータを使う組織が異なるので、UIの開発に時間がかかり、開発スピードが落ちるほか、依頼元からすると望んでいないもの出来上がってきたということが起きていた」と岩本氏。

前者の課題については、データのアクセス管理のルールを見直したうえで、データをSnowflakeに集約することで、ガバナンスを強化している。後者の課題については、コラボレーションしやすい組織・チームを構成することで、組織の壁を取り除く。

AIを使ったお店探しのアプリ「UMAME!」を開発

こうした課題を解決するため、ぐるなびは、開発者、UI開発者、データサイエンティストと、異なる役割を集めたチームをつくった。このチームにおいて小さく検証しながらスピーディーに開発を進め、無駄なコミュニケーションを徹底的に排除したという。

「誰もがデータを利用できるようになったことはもちろん データを見ながら話し合えるようになり、一気にデータの民主化につながった」(岩本氏)

新しい体制によって開発されたアプリが「UMAME!」だ。同アプリは、生成AI技術やぐるなびのデータを使ってパーソナライズした店舗提案を行うもの。ユーザーはチャットしながらお店の提案を受けられる。今年1月にベータ版の提供が開始された。

「UMAME!」のデータはSnowflakeを参照しており、6カ月で開発できたという。岩本氏は「開発期間をかなり短縮できた。今までの体制ではできなかった」と語った。現在もアジャイル開発により、週に1回バージョンアップを行っているという。

岩本氏は、「AI時代になり、データの重要性がより鮮明になった。非構造化データが誰もが使えるようになったことがカギと考えている。AIはデータがあればあるほど高精度で予測でき、業務プロセスが入るとデータの価値が上がる。データをうまく使うことで、新しいビジネスが生まれることを実感した」と語っていた。

Cortex AIとStreamlitを活用して簡単にデータを取得可能な仕組みを構築

ぐるなび 技術戦略室 データサイエンスグループ グループ長 新井駿氏からは、Python ライブラリ「Streamlit in Snowflake」、機械学習プラットフォーム「Snowflake Cortex AI」を活用したアプリ開発の紹介が行われた。

  • ぐるなび 技術戦略室 データサイエンスグループ グループ長 新井駿氏

荒井氏は、全社員がデータを活用できるようにするために、大きく3つの課題があると述べた。課題とは、「BIツールの学習コスト」「適切なデータアクセス管理」「コスト」だ。BIツールは使いこなせるようになるには教育のコストが必要であるとともに、ライセンス料金も支払う必要がある。

そこで、ぐるなびではSnowflake Cortex AIを活用してSnowflake上にStreamlitアプリを構築することで、これらの課題の解決を目指している。具体的には、自然言語による質問で、誰もが簡単に必要なデータを取得できる仕組みを構築し、ロールを設定してデータへのアクセル管理を実現する。データの問い合わせ数によるコストを管理する。

荒井氏は、ユーザーが質問を行い、それに基づきCortex AIがSQLを生成して、Snowflakeのデータベースに問い合わせしてデータを取得し、考察まで提示することをデモで示した。

  • 枝豆の値上げをしても可能かをアプリに質問。アプリはデータを分析して、「周辺の店舗より安価なので、値上げ可能。ただし、一気に値上げしないほうがいい」という考察を返した

荒井氏は「アプリが複雑な質問にも対応できる」として、今後、営業のコンサルをデータ活用で支援していきたいと語っていた。

なお、コストに関しては、AWSで構築していたデータ基盤は24時間365日起動していたので、使っていない時間もコストがかかっていたことから、Amazon S3の持ち方を見直すことで、データサイズ80%弱まで減らせると見積もることが可能だという。