イーロン・マスク氏率いるスペースXは2025年1月17日、巨大宇宙船「スターシップ」の7回目の飛行試験を実施した。
今回の試験では、2段目に新設計の「スターシップV2」宇宙船を初めて使用した。しかし、飛行中に機体は爆発し、打ち上げは失敗に終わった。
一方、1段目の「スーパー・ヘヴィ」ブースターはほぼ完璧に飛行し、前々回の飛行試験に続き、発射塔での回収にも成功した。
スペースXの新たな挑戦は、一進一退の結果となった。それでも同社は決して歩みを止めることなく、今後の開発と試験に期待を寄せている。スターシップV2の概要をはじめ、2025年の開発における期待と課題、そして展望を読み解く。
スターシップとは?
スターシップは、スペースXが開発中の、次世代の宇宙輸送システムである。直径は9m、全長は120m以上もあり、100t以上の物資を運ぶことができる、世界最大にして最強の宇宙船である。
同社はスターシップにより、衛星や宇宙飛行士の打ち上げに始まり、月や火星への有人飛行、さらには他の天体への移住を目指している。
機体は2段式で、第1段は「スーパー・ヘヴィ」ブースターと呼ばれ、打ち上げ時の推進力を生み出す。第2段は「スターシップ」宇宙船で、ブースターによって宇宙に到達したあと、目的の軌道まで飛行する。
スターシップの最大の特徴は、機体のほぼすべてを打ち上げ後に回収し、再使用できるところにある。これにより、打ち上げ頻度の向上と、コストの削減を狙っている。
また、スペースXは回収方法として、機体を発射台に目がけて降ろし、発射塔(タワー)に備えた2本の巨大なアームで挟むようにして捕まえるというアイディアを採用している。まるで箸のような仕組みから、「チョップスティックス(箸)」や、巨大な機械の腕であることから「メカジラ(Mechazilla)」といった名前で呼ばれている。
この方法により、着陸脚が不要になり、軽量化と打ち上げ能力向上、またメンテナンスの簡素化が期待できる。さらに、発射台で回収することですぐに次の打ち上げが可能になり、打ち上げ間隔の短縮も図ることができる。
スターシップは2023年4月から、宇宙への飛行試験を始め、これまで6回の試験を行ってきた。完璧な成功例はないものの、試験ごとに改良を加え、5回目の試験ではブースターのチョップスティックスによる回収に成功したり、6回目の試験では宇宙船が大気圏再突入を乗り切ったりと、着実に完成度を高めている。
新型「スターシップV2」のデビュー
そして、2025年最初にして、通算7回目となった今回の飛行試験は、新型の「スターシップV2」宇宙船のデビュー戦となった。
スターシップV2宇宙船は、全長が2.1m伸び、より多くの推進薬を搭載できるようになった。これにより打ち上げ能力が向上し、100t以上という目標を実現できるようになる。
また、機首部分にある前部フラップ(小さな翼)も新しく設計し、形状も、取り付け位置も変わった。これにより、大気圏への再突入時の耐久性が向上するという。あわせて、後部のフラップも再設計されている。
さらに、耐熱システムも大幅に改良した。基本的に2万枚近いセラミック製タイルを貼っている点は変わらないものの、その下には追加の保護層としてアブレーション(融除)材の層が設けられた。これは5回目の飛行試験で実証されたものである。
今回の試験では、新しいセラミック製タイルも試験的に装着していたほか、「アクティブ冷却システム」とされる新しいタイプのタイルも装着されていた。後者について、詳しい仕組みなどは不明だが、表面から推進薬の一部などを噴射して、ガスの保護膜を作り、機体を熱から守るような仕組みとみられる。いずれにしても、耐熱システムの完成に向けて試行錯誤を繰り返していることが伺える。
くわえて、推進薬の配管に真空の断熱層を設け、いわば魔法瓶のようにすることで、蒸発を抑える工夫も取り入れたという。
このほか、宇宙船もゆくゆくはチョップスティックスで回収するため、捕獲ポイントが設けられ、また人工衛星を放出する機構も試験的に搭載された。
一方、発射塔も改良された。前回の6回目の飛行試験では、安全な回収にとって必要な条件が整わなかったことから、回収の実施は見送られた。それを受け、発射塔に新しいレーダーとセンサーを組み込み、より安全で確実な回収を可能にしている。
また、アビオニクス(電子機器)とソフトウェアも改良された。
なお、今回の飛行試験では、スーパー・ヘヴィは従来型が使われたが、将来的には宇宙船と同様に「V2」へアップグレードし、打ち上げ能力の向上などを図ることになっている。このスーパー・ヘヴィV2とスターシップV2を組み合わせた「スターシップ・ブロック2」で、宇宙輸送システムとして一応の完成を見ることとなっている。
また、今回の試験では、5回目の試験で飛行したロケットエンジンが再使用された。このエンジンは「314」というシリアルナンバーで、そこから円周率の「パイ」という愛称でも呼ばれている。スターシップでエンジンが再使用されるのは初めてだが、将来的には当たり前になる予定で、その布石でもあった。