ispaceは1月16日、オンラインで記者会見を開催し、前日(1月15日)に打ち上げた月面ランダー「RESILIENCE」(レジリエンス)の状況について説明した。RESILIENCEはFalcon 9ロケットにより、所定の軌道に投入。地上局の最初のパスでRESILIENCEからの電波を受信し、すでに姿勢制御と電力供給の安定まで確認されたという。

  • (左から)ispaceでCTOを務める氏家亮氏、代表取締役CEOの袴田武史氏、ミッション2開発統括の日達佳嗣氏
    (C)ispace

何もドラマがないほど順調な船出。2回目に「ドラマはいらない」

RESILIENCEは記者会見の時点(16日9時15分)で、地球から15万5,000kmほど離れた宇宙空間を航行中。ロケットからの分離直後は、宇宙機にとって最も問題が発生しやすい時間帯の1つであり、前回のミッション1では姿勢制御が一時的に不安定になったこともあったが、姿勢を制御できて電力も得られていれば、まずはひと安心と言える。

同社は今回のプロジェクトで、独自に10段階のマイルストーンを設定している。この結果により、進捗は「サクセス3」(安定した航行状態の確立)まで達成。ミッション1では、「サクセス9」(月面着陸の完了)で失敗しており、まだまだ先は長いものの、まずは順調なスタートを切ることができた。

  • ミッション2でのマイルストーン
    (C)ispace

同社CTOの氏家亮氏によると、今回の運用は「ミッション1よりかなりスムーズだった」という。ランダーのハードウェアは前回とほぼ変わっていないものの、「運用の仕方、パラメータの設定、判断の仕方など、ミッション1で得た経験をフィードバックした」ということで、前回の経験が大きく活きたかたちだ。

前回は、地球からの反射光が予想より強く、太陽センサーで苦労した経緯があったのだが、今回はそういった経験を踏まえ、スタートラッカなど適切なセンサーを選んで、初期の姿勢を確立したとのこと。今回は2回目なので「ドラマはいらない」と話していたそうだが、問題なく進められて「我々としてはハッピー」と笑顔を見せた。

  • 日本橋にある管制室の様子
    (C)ispace

次のマイルストーンは「サクセス4」(初回軌道制御マヌーバの完了)となる。月面着陸を成功させるためには、メインエンジンの正常稼働が不可欠。サクセス4はそういう意味でも注目だが、これは数日以内に実施する予定とのことだ。

このまま順調にいけば、RESILIENCEは4〜5カ月後に、月面への着陸を実施する計画。着陸日はまだ公表されていないが、今回の着陸予定地は、Mare Frigoris(氷の海)の中央付近、北緯60.5度、西経4.6度の地点。着陸は、この場所が朝になってから行われるはずなので、ある程度予想は付く。

  • 赤丸が今回の着陸予定地
    (C)ispace

西経4.6度というのは地球から見てほぼ中央に位置するので、半月の少し後くらいが朝になるタイミングだ。国立天文台のWEBサイトを見たところ、6月3日が上弦ということだったので、その数日後あたりになるのではないだろうか。

ispaceが初めて挑む“月フライバイ”とはなにか

今後、まず注目したいのは、およそ1カ月後に実施される予定の月スイングバイである。同社は、月の近くを通過するという広い意味で「月フライバイ」と表現しており、その完了が「サクセス5」になっているのだが、宇宙ファンにはより細かく「月スイングバイ」と言ったほうが分かりやすいと思うので、本記事ではそのように表記する。

ミッション2のランダーは前回と同型機であるものの、月へ向かう軌道は大きく異なる。前回は単独打ち上げだったため、ロケットの能力をフルに活かして地球から遠く離れる軌道に投入。そこから時間はかかるものの、推進剤を節約できる低エネルギー遷移軌道を通って月へ到達した。

  • ミッション1の軌道イメージ
    (C)ispace

一方、今回はFirefly Aerospaceとの相乗りだったため、投入されたのは月軌道付近を遠地点とする長楕円軌道である。まず1カ月ほどは地球を周回し、2.5周したタイミングで月に接近。ここでスイングバイを行い、ランダーを加速して、地球から110万km程度まで離れる低エネルギー遷移軌道に向かう計画だ。

  • ミッション2の軌道イメージ
    (C)ispace

ちなみにFireflyの「Blue Ghost」は、RESILIENCEより早く、打ち上げから約45日間で着陸する予定だ。約25日間の地球周回軌道のあと、約4日かけて月へ向かい、月周回軌道に投入後は約16日かけて高度を下げ、月面への降下を行う。同じロケットで打ち上げても、これだけ軌道計画が違うのはちょっと興味深い。

  • Blue Ghostの軌道イメージ
    (C)Firefly Aerospace

今回はispaceにとって2回目のフライトではあるものの、スイングバイは前回やっておらず、同社にとってこれが初めての挑戦。スイングバイでは、決められたところを決められたタイミングで精度良く通過する必要がある。延期が許されないシビアさがあり、決して簡単なことではない。

ランダーの軌道制御に求められる精度は、「10km以下、5kmくらい」(ミッション2開発統括の日達佳嗣氏)という高さ。しかし、「ミッション1で十分に軌道制御と軌道計画をやってきた実績がある」(同)とし、成功に自信を見せた。

なおミッション2は、最初に投入されるのが地球周回軌道であるため、ランダーは遠地点を過ぎたら、また地球の近くに戻ってくる。そういう機会には撮影も行っていく予定とのことで、今後、ランダーから届く地球の画像も楽しみにしたい。